第5話
「・・・どうすりゃいいんだよ」
───朝。
慎一郎は一人、駅のホームで立ち尽くしていた。
ラインハルトの言葉が未だに頭の中を渦巻く。
『魔法少女の一人がお前に“恋心”と言うものを抱いているのだろう?なら、お前がそこにつけ込めばいい。私やモノがソイツに現実を突きつけてやるから、お前やモノの得意分野である人心掌握でそいつを此方へ引き込め』
恋心
それを利用してあの三人のうち、誰かを此方側へ引き込めとラインハルトは言うのだ。
その子が抱いた思いを踏み躙って悪の道へと落とせと。
そんなことは正直したくない。
だが、この世界を変える為にはやるしかないのだ。
今日の夜、その作戦を実行する。
モノやラインハルトの期待を裏切ることなど、慎一郎は出来はしないのだ。
慎一郎は一度長く息を吐き歩きだそうとすると、そんな彼に後ろから声をかけられた。
「あれ?慎一郎さん?」
「!」
慎一郎は声がかけられた方向へ顔を向ける。
「珍しいですね。慎一郎さんがこんな所にいるなんて」
そこにいたのは柊白音だった。
カッターシャツの上にパーカーとブレザー、スカートもしっかりと着こなし、マフラーを首もとに巻いた彼女は慎一郎の姿を見て、驚いた表情を作る。
「・・・おお、柊か。学校にしては早いな?」
そう言う慎一郎に、白音は少しだけ笑みを浮かべながら唇を開いた。
「ボクは今日委員会の当番ですから。なので、他の人よりも今日は早いんです」
「・・・そうか。大変そうだな」
「別にそうでもないですよ?」
そう言いながら慎一郎の横へ白音は並ぶ。
「そういえば慎一郎さんは今からお出かけですか?」
「ああ・・・まあな」
白音の質問にそう答える慎一郎。
「なあ、柊・・・」
「・・・?何ですか?」
「柊は・・・今が“幸せ”かい?」
慎一郎の質問に白音は目を閉じて答える。
「幸せです。家族がいて〈シリウス〉の皆がいて慎一郎さんがいて──ボクは一番幸せです」
「・・・そうか」
そう言う白音に慎一郎はそれ以上、何も言えなかった。
と、電車が駅のホームに到着する。
「では、慎一郎さん。また明日お願いします」
「・・・ああ、またな。柊」
白音が乗った電車の扉が閉じる。
小さく笑みを浮かべながら、白音は慎一郎に手を振った。
慎一郎も彼女に手を振り返すと、電車が動き出す。
そして彼女がいなくなったホームで慎一郎は一人、ホームの屋根から覗く空を見上げ、ポツリとこの場にいない彼女に向けて言った。
「ごめんな・・・柊。俺は──アイツらと約束したんだ。この世界を変えるってさ。俺を恨んでくれてもいい・・・だから、俺達の目的の為に──絶望してくれ」
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