第2話

 

「お待たせしましたー。ご注文のコーラとコーヒー、あとカフェオレです」


 


「ありがとうございます!」


 


「ありがとう」


 


「ありがとうございます」


 


三人は注文した飲み物を受け取ると、笑顔で返事を返す。


 


伝票はここに置いておくぜ。また、注文があったら呼んでくれ」


 


「はい!わかりました!」


 


赤い髪を後ろで束ねた活発な女の子はそう言って、御辞儀をする。


 


「いつもありがとうございます」


 


白髪の眼鏡をかけた少女も一礼し、先程注文したコーヒーを口にした。


 


「またこれからもよろしくお願いしますね」


 


亜麻色の髪の子もそう言ってから、彼女達は会話へと戻っていった。


そんな魔法少女三人を後に、慎一郎は思い出す。


 


「アイツ・・・今頃何しているのかねえ」


 


彼の右腕であり、相棒。普通の能力者であった自分を悪徳の道へと誘った彼女の事を。


彼女の事だ。とんでもない事を考えているんだろうと思いながら。


 


 


 


 


 


俺達の〈組織〉は元々は俺と“彼女”がいたことで悪の組織になった。


 


俺達の〈組織〉は最初は悪の組織でも何でもない───ただのはぐれもの達の集まりに過ぎなかった。


何かしらの能力を持ち、周りから迫害された者───クソみたいな親を持ち、そこから逃げ出した者。何かしらの罪を背負い、表社会にいられなくなった者。


そんな奴らの集まりが俺達の〈組織〉だった。


その中でも、俺は一番まともな人間だったのだろう。


ただ能力者だったから───皆のいる場所にはいられなくなった。別に居られなくなっただけであって、家族達は偶に会いに来てくれるし、生きる場所や息をする場所に拘りなどなかった。


俺達の組織が悪の組織として出来上がったのは、七年前───俺が十九の時・・・能力者というただの一般人の時にある少女を拾った雨の日のことだ。


 


「げ・・・雨かよ。傘持ってきてないし」


 


慎一郎はバイト帰り、空から降ってきた雨に眉を顰める。


 


「急いで帰るか」


 


今ならそこまで濡れはしないだろう。慎一郎は急いで裏路地を走り抜ける。


───と、そのとき。


 


「・・・うん?」 


 


慎一郎は目の前に横たわるソレを見て、足を止めた。


 


「・・・おい、マジかよ」


 


慎一郎は目の前に倒れ伏す十歳くらいの少女だった。


 


「おい!大丈夫か!?」


 


返事はなく、少女のただ薄汚れた肌と水色の短い髪を雨が濡らす。


 


「一旦家に連れて行くか・・・ッ!」


 



あのときの俺はただこの少女を見殺しにすることは出来ないと、その程度でしか考えていなかったと思う。


そしてその時に彼女が言った言葉を俺は今でも覚えている。


 


「・・・ボクは・・・自由に・・・」


 


───自由に。


恐らく、ずっと縛られていたであろう彼女の言葉。

俺はそんな彼女を放っておくことなど出来なかった。

彼女を家まで連れて帰り、取り敢えず身体の汚れを落とす。

俺には元々妹がいたから彼女の身体を拭くのも多少抵抗があったが、問題はなかった。

そんな彼女はその日に起きることはなく、俺はその日は眠りに落ちた。そして次に起きた時は、彼女も目覚めていた時だった。


「・・・よ、よお。元気に・・・なったか?」


疑問系で返す慎一郎に、少女が不機嫌そうに答える。


「・・・気分?最悪だよ」


見た目は活発で大きくなれば美女になるであろう彼女は、目覚めてそうそう口を開いた途端、その口の悪さに慎一郎は顔を引き攣らせる。


「そ、そうか・・・」


一瞬で彼女がどう言った人物か察した慎一郎は、そう呟くと、その不良少女は更にその口を開く。


「で?ここはどこなのかな?ボクをここに連れてきて君はどうしたいの?臓器でも売る?それともボクを───」


「ストップ!ストップ!何でそうなる!?」


これ以上言わせるととんでもないことになる。

そんな直感が慎一郎の中にはあった。

どうやらとんでもない少女を拾ってしまったらしい。

そんな慎一郎に対し、少女は小さく首を傾げ、灰色の目を彼へと向けた。


「じゃあ何なのさ?もしかして本当にただ助けただけ?だとしたら君はとんだお人好しだね」


そう言って軽く伸びをする彼女に慎一郎は言う。


「そうだっつの。そりゃ路地裏でぶっ倒れてたら誰だろうと助けるだろ」


「ふーん?それが“親を殺した“ボクでも?」


 


「は?」


 


親を殺した。そう言う彼女に慎一郎は表情を強張らせる。


だが、そんな慎一郎の表情は見飽きたと言わんばかりの態度で、彼女は言う。


 


「ま、その反応は予想してたよ。当たり前の反応だし。それに私はただ親を殺した訳じゃない」


 


何とも思っていない顔で彼女は目を開くと、さらに話を続ける。


 


「私はね・・・自由が欲しかったんだよ」


 


「・・・自由って」


 


自由が欲しかったと言う彼女に、慎一郎は聞き返す。なぜ、彼女は自身の親を殺してまで自由を求めたのか。それが気になったから。


 


「君は魔法少女って知ってるかい?ほら、最近現れた政府が飼い犬にしてる化物みたいに強いあの憐れな子たちをさ」


 


「あ、ああ」


 


それについては幾らか聞いたこともある。


敵を倒す。異世界から現れた怪物や俺達みたいな能力者やごみ溜めに住んでいる人間達の暴動を抑え込むために、最初からそう言う定めとして産まれてきた・・・もしくは身体を弄られた少女達。


 


「ボクはね───そんな“魔法少女にされるためだけに産まれてきた“人間なんだよ」


 


「──────」


 


彼女のその説明に、慎一郎は言葉を失った。


魔法少女として産まれてきた人間。


 


それが自分なのだと彼女は言う。


 


「だからボクは殺した。親を。研究者も。皆ね」


 


そう言って、彼女は慎一郎を見る。


 


「それでさ・・・キミはこの世界をどう思う?」


 


「は?どういう・・・」


 


慎一郎はそう言うと、彼女はニヤリと笑みを浮かべる。


 


「こんな世界───ボクと一緒にブッ壊してみないかい?魔法少女になった彼女達も全員助けてさ・・・こんな偽善と良識で塗り硬められた世界に風穴開けて、新しくなった世界の先でボクと一緒に謳歌しようぜ」


 


「そしたら・・・俺も元の日常に───」


 


一度失った家族との日常。そこへ帰れる?


 


「帰れるさ。なんならボクも一緒だよ───」


 


彼女の甘い言葉で慎一郎は悪の道を選ぶ事となった。


そんな甘い誘惑に乗った慎一郎に、彼女は言う。


 


「ボクの名前は・・・そうだね───モノ。そうだモノにしよう。ギリシャ語で一を表わす言葉だ。ボクが君を悪の頂点にしてあげよう。そしてこのボクが───君の一番であり続けるよ」


 


そして俺(ボク)達二人は〈組織〉を新生させた。


 


 


 


 


ボクは嬉しかったんだぜ?君に優しくされるのがさ


 


モノは誰にも聞こえないような小さな声で慎一郎に優しくそう呟いた。

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