第66話 土地が広がった

 チリンチリンッという鈴の音を鳴らしながら店へと入ると、比奈と笑顔で談笑している右京さんの弟子さん等が居た。



「哲平さん、遅いですよ」

「わ、悪い。昨日ので疲れてたみたいでな」

「だからと言って、連絡の1つも寄越さないのはどうかと思います。心配したんですからね?」

「す、すみません」



 俺は頭を下げながら奥へと行くと、服の上からエプロンを着る。



 俺さっきから謝ってばっかじゃない? 責任者なのに。い、いや、ミスした俺が悪いからな。うん。時にはミスをしたのも認めるのも、良い上司だよな。



「なんか人少なくないか?」



 俺がエプロンを着て店内を見渡すと、昨日よりも人数が少ない事に気付く。



「凪さんは他の方達と一緒に、ぎゅーさんの乳搾りへ行きましたよ」

「あー、なるほど。じゃあ此処では何やってんだ?」

「さっきまでは店の掃除をしてました。前から広くなりましたし、皆さんが来てくれて大助かりですよ」



 ……うん。確かに。店もめちゃくちゃ綺麗で良いですね、はい。



「じゃあ、今から何をするつもりなんだ?」



 責任者、上司らしく俺が咳き込み聞くと、比奈は少し間を置いてポンッと手を叩いた。



「そう言えば哲平さん、さっき居なかったんですね」

「さっき?」

「実は哲平さんが来る前にーー……」





「あぁ、そう言えば1日が経って認められたのか」



 俺の目の前には、半透明のボードが浮かんでいた。



 place: 神の地

 level: 1

 resident: 13

 skill:[指導者][空気清浄Lv1][神域拡張Lv1]

 


 神の地のレベルが上がって以降、このボードを開いていなかったが、こんな感じになってたのか。


 そして追加されているskill[空気清浄Lv1]というのが、この前住人が3人になって追加された効果。で、今回住人が10人になって追加されたのが[神域拡張Lv1]なのだろう。



「で、今から伐採ね〜」



 俺が草刈りをする時以来の伐採の試みだなぁ。


 俺達は少し手狭になっている、凪さん達の家側の森林に来ていた。何本もの斧に切り株を取る様にあるスコップが準備されている。



 これで伐採出来たら良いんだけどな。



 神の地……草原から約5メートル程離れた地面からは、少し光が放出されている。



 あそこまでが神域……つまり、神の地になったんだろうけど、問題は斧でこの大木が切れるかって話だ。比奈はーー



『哲平さんなら何とか出来るよね?』



 と上目遣いで言って来るのだ。そんな事を言われたら頑張らない訳にはいかないだろう。



「おーし、じゃあやってみるかー……ん?」



 斧を持ち、腕捲りをしていると視線を感じて振り返る。



「何で皆んな見てるの? しかもさっきの人達まで……」

「おとーちゃん! がんばって!!」

「やっぱり大変な事ですから、最初は1番上の者が手本を見せないと」

「今日遅刻して来たからには、1番働かないといけないだろ」

『指導は終わらせたので、この方達にも手伝って貰おうかと』



 まぁ……良いけどさ。

 俺は、指導者さんの後ろに控える人達がちょっと前屈みに腹を抑え、笑顔で見て来るのに不気味さを感じながらも大きく息を吐いた。



 ーーよし。



 斧を使うのは久々だ。小さい頃に源さんの手伝いで薪割りしてた時以来。怪我をしない様に気を付けて、腕じゃなくて腰で打ちつけるイメージでーー



 俺は大きく斧を振り翳した。


 するとーー




 スパンッ




「っとっとと!!?」



 俺は振り翳した力のまま、あまりの手応えの無さに地面を転がる。



「きっき!」

 ーーー!



 メキメキメキッという音が鳴ると同時に、俺の身体は木の根の様な物に引っ張られる。



「ぶふぅっ!?」



 顔面から地面に着地すると、地響きの様に地面が1度揺れる。



「何だ……?」



 そこには1本の大木が綺麗な断面をして、切り落とされていた。



「出来たら良いなぐらいに思ってたんですけど、まさかここまでするとは……」

「……まぁ、何となく予想はついてた」

「凪さんが男性を認めてるとは意外だったけど、これなら納得だな」

「うん。流石凪さんが認めた男って感じ」

「や、やっぱクロさんをやったってのも嘘じゃなかったのか……!! ……ヤバいな」

「で、ですが良い情報ではありますよ……生きて帰れるかは別として……」

「やべぇ……俺あんな人にデマ流しちまった……」

「怪物の親玉はやっぱり親玉だったんだ……もう俺達はダメだ」

「おとーちゃんすごい!」



 何この状況。

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