第60話 祭り終了……死。

「入れたな……」

「はい……」

「まぁ……よかった」

「わーい!」

「あっちだ」



 しょうたくんは指を指して、海岸沿いのほうへ歩いて行く。俺達は、問題なく観覧席の会場へ入る事が出来ていた。


 そう。最終的には出来たのだが、一番最初に俺が聞きに行くとやっぱりダメだと言われて、他の場所にしようという話になった。


『ちょっとはなしてくる』


 と、しょうた君が係員の所に行ったら、すんなり通して貰ったのだ。



 いや、何者ですかしょうた君。



 俺達が冷や汗を流しながらしょうた君の後をついて行くと、そこは3人分の席の前にシートが置いてあった。



「すわってくれ」



 やっとこれで落ち着けるな。


 メマとしょうた君はシートに座り、俺達は椅子に座る。そして、貰った物を飲み食いし花火を眺める。



 ひゅ〜っ ドオォン ぱちぱちぱちぱちっ



 小さな頃には感じられなかった趣が感じられる気がする。小さな時はこれを見ても何とも思わなかった。



「おぉ〜っ!!」

「すごいだろ?」



 メマ達みたいに、興奮はしていたかもしれない。けど、小さな頃から変わらないこの光景が、音が、心に響いてくる。



 街や俺は変わったけど、これはいつまでも変わらなかったんだなぁ。



「今日は、大成功でしたね」

「……あぁ。皆んな本当にありがとうな」

「何だ急に……」



 ははっ、確かに。急かもしれない。



「ふと思ったんだ。俺だけじゃ、ここまで上手く出来なかった。比奈は俺を励ましてくれた。凪さんは俺のケツを叩いてくれた。メマは屋台を賑わせてくれた。そしてしょうた君にはこんな綺麗な花火を見せて貰った……」



 勿論、エースさんにも頑張って貰ったし……本当に俺1人だけじゃ、何も出来なかった……。



「だから、本当にありがとう」



 俺が言うと、皆んな照れ臭そうに頭を掻きながら視線を逸らす。



「そんな……良いんですよ」

「まぁ……良い経験にはなったしな」

「おとーちゃんもがんばってたよー!!」

「べつに……おれはなにもしてない……」



 それぞれの反応に、つい笑みが溢れる。



「そ、それよりもこれでお店に大量のお客さんが来ますね!」



 そんな俺を見て、恥ずかし過ぎたのか比奈が話を逸らす様に言った。



「あぁ、予定通り上手くいきそうだな」



 接客の合間に宣伝もしたし、田舎と言えど何人かは来店する筈だ。楽しみだな。



「だが客がいっぱい来ても私達が対応出来るかと言われれば出来ないと思うぞ」

「あ………」



 凪さんの言葉に、思考が止まる。



 た……た、確かに、そう言われればそうだ。今日みたいに人が来ても、うちの店はテーブル席3つに、カウンター席が5つ。最大でも17人ぐらいしか入る事が出来ない……き、喫茶店はゆっくりする所の筈なのに、それだと本末転倒な気が……!



「そうなったら誰かさんが増築するしかないですね……」



 ひっ!!?



「み、皆んな帰るぞ!!」



 早く帰らないと明日に間に合わない!?

 しかも、これが指導者にでも伝われば……いや、エースさんが入ったあの空間は店まで繋がってるから、もう店の方まで状況はついてしまってる!!


 何かさせられる事は間違いない!!!



 この間、1秒。俺は脳をフル回転させ、これまでにない天才っぷりを見せていた。



「め、メマまだいたいよ〜」

「が……我慢しなさい……!」

「っ!!」



 うっ……!



「おぉ……まさか涙目のメマ様の言う事を聞かないとは」

「意外……てっきり『し、しょうがないな、少しだけだぞ』とか言うと思ってたのにね」



 だ、だって……この後に増築するってなると、俺死んじゃうって……。



「せめて、はなびみてからでもいいんじゃないか?」



 う、うぐっ!!



「「あ、折れた」」



 俺はメマの涙目、しょうた君の上目遣いにやられ、仏様の様に心頭滅却、無心の心で花火を見続けた。



『次が最後の花火になります』



 会場のスピーカーから、聞こえて来る。



「たっまやーっておおごえでいうんだぞ?」

「? なにそれ?」

「はなびがあがったときにいうんだ」

「そうなの? おねーちゃん達もやろ!」

「よーし! 比奈おねーちゃんは2人よりも大きい声で言うわよ〜!!」

「……メマ様が言うなら」




 ひゆゅゆゅゅゅ〜〜〜っ  ドオォォンッ




 ……腹の奥まで響く様な、辺りの空を覆うぐらい大きな花火が打ち上がる。


 これが最後の花火。



「「「「たっまやーっ!!」」」」

「ふっ……」



 皆んなが横並びに叫ぶ中、俺は腹を括るのだった。

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