第57話 ダンジョン屋台(ボス視点)

 トン コロコロコロコロ カコン



「っと、よし。こんなもんで良いだろ」



 部屋の隅。俺、赤坂 銀は何時間かというパター練習を終わらせる。



 これで次の町内パターゴルフ大会も盤石だ……さて、どうしたもんか。



 俺は部屋にある椅子に深く腰掛けた。


 あぁ、頭が痛い。何故こんな頭痛がするのかも、全部クロの所為だ。

 クロの手元……アイツにはこれまで何十人と俺が選別した奴を下につけてきた。経歴、実力、共に申し分ない奴をだ。それにも関わらず、またアイツは要らねぇと突っ張りやがった……はぁ、アイツが認めたくなる様な奴なんてこの世に居るのかねぇ?



 ひゅ〜っ どんっ



「そろそろ花火も終わりか?」



 俺が頭を悩ませていると、一際でかい花火が打ち上がる。それは祭りがあともう少しで終わる事を表していた。



 そう言えば……1回も顔出してねーな。



 俺は身だしなみを整え建物から出ると、ある所へ向かった。



「よっ」

「あ、お疲れ様です、ボス」



 俺が手を挙げると、小気味いい挨拶が返って来る。相手は、確かウチの組のーー。



「小熊、お前が仕切ってたのか」

「はい、クロさんに言われて『お前なら上手くやれるだろう』と」



 少し太り気味の、愛想の良さそうな顔で小熊は恥ずかしそうに頭を掻く。


 クロは信頼する奴は中々居ない。コイツも育ったもんだ。



「で、調子はどうよ?」

「ふふ、見た通りですよ。ボスの言った通りやった『ダンジョン屋台』! 大繁盛です!」

「俺はあの『異世界の扉』にちなんで何かやったら良いんじゃねぇかと、提案しただけだ。ここまでやれたのはお前の力だ」



 周りを見れば、俺達のデカい屋台は満席で、その先も何十人かと客が並んでいる。



「これは中々の売り上げになりそうだな」


 見渡す限り、屋台である所には人が集まっている。やはりこの見新しさに、通る者全員が足を止めている。

 こんな田舎でダンジョン物が儲かるかと少し不安ではあったが、予想外に上手くいってるな。



「これならすぐ集まりそうだな……」



 これならいずれはーー



「小熊さん!」

「ッ!! バカヤロウ! 先にボスに挨拶だろうが!!」

「え、あ! お、お疲れ様です!!」

「おう。で? どうしたよ、そんなに急いで」



 突然汗だくの男が1人現れ、俺は問い掛ける。



「く、クロさんが!!」



 この慌てよう。またクロが何かやらかしたか……。

 今度は何だ? 何か壊したか? それとも誰かやっちまったか? 確率的には誰かやっちまった方が確率は高いが。



「クロが何をしでかしたん

「クロさんがやられました!!」

「………何?」



 途中に遮られて聞こえてきたのは、予想外な言葉だった。



「い、今! 救急車で運ばれて、それで!」

「お、おい! ちゃんと落ち着いてから話さねぇか!!」

「小熊、良い。それで? 何なんだ?」



 クロがやられたってなると……そいつは相当な手練って事になる。ちっ、また注視する奴が増えちまった。クロが言ってた奴、そしてクロを倒した奴。


 アイツの実力、知見は俺が1番知ってる。


 アイツがそう簡単にやられる訳がないんだ。



「それが、誰かにタックルされて一撃で伸びちまった様なんです」

「……………は?」



 今、なんて……。



「お、俺も耳を疑ったんですが、何人の奴にも聞いて確認したので確かな情報かと……」



 ……そうか。

 俺は横に居る小熊を見る。小熊は口を開き、動きを止めている。



「つまり、ウチの島にクロよりも強い奴が少なくても2人居るって事か……」



 これは一大事……もしかしたら隣の島の差金かもしれねぇ。



「小熊、分かってるな」

「はい。今以上に気を張れと、全員に伝えて来い」

「は、はい!」



 ま、気を張っただけでどうにかなる問題でもないだろうけどな。



「……ん? 何だ? 急に客が減ったな……」

「……そ、そうですね、何かあったんでしょうか? 少し確認してきます!」



 何も問題が無ければ良いんだが……



「あ!? 原因が分からねぇだと!! どうせ面の悪いお前らがお客様に悪さしたんだろ!!」

「ち、違いますよぉ。か、神に誓います」

「馬鹿野郎!! 神じゃなくてボスに誓え!!」

「小熊、1回落ち着け」



 俺は怒る小熊を宥め、大きく息を吐いた。



 これは、確実だ。



 誰かが、俺達の邪魔しようとしている。



 何の為に? もしや俺の目的すら知っている? いや、これはクロにしか言ってねぇ。アイツは裏切らない奴だ……つまりーー。



「ヘマ、しちまったって事か」

「ぼ、ボス……」

「気にすんな。お前は此処に待機。俺は原因を調べに行く。頼んだぞ」

「は、はい。お願いします!」



 俺は原因を調べるべく、『ダンジョン屋台』から離れた。見た所、客は全て決まった方向に歩いている。



 恐らくこっちにーー。



 曲がり角を曲がり、そこにあったのは大勢の人だかり。1つの屋台の前に集まっている様だ。



「ーー喫茶店 KIRO、だと?」

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