第54話 メマよ! そいつは誰だ!?

「ん?」

「! にゅう!」



 メマはクロと目が合い、思わず臨戦態勢をとる。メマにとってクロは、態とぶつかってきた敵という認識だった。そんなメマの様子に気付いたしょうたは、自然にメマをかばう様に前に出た。



「だれだおまえ……」



 先程までの笑顔は何処へ行ったのか、しょうたは睨みをきかせながらクロへと言った。



(何だコイツら……って、このガキ!)



 しょうたの後ろ、メマの姿を見て目を見開く。



「にゅう〜!」


(あの男と居たガキだ……)



 クロはそう思い至り、周囲を見渡す。クロは今、ボスから哲平の情報を収集を頼まれていた。だから哲平を探していたのだがーー。



(居ねぇ……そうか。あの時から合流出来てないって可能性も……)



 数瞬の内に考え抜いた末。



「さっきは悪かったな、今何してんだ?」



 クロはメマ達と同じ視線にしゃがみ込み、話し掛けた。クロの目的は哲平の情報収集をする事。これも何かの縁、此処から上手く取り入って情報を得ようと考えていた。



 しかしーー。



「っ!」



 メマは一層、しょうたの背中の影と隠れる。



「なんでもいいだろ! あっちいけ!」

「ちっ、お前には特に何かした訳でもねぇだろうに……」



 そんな2人の様子にクロは頭を掻き、項垂れる。それに安心したのか、しょうたは少し身体の力を抜く。



 その時。



「おっと!」

「! いやぁっ!!」



 しょうたの頭の上を超え、伸びて来るクロの手はメマの首根っこを捕まえる。それにメマは抵抗する様にもがく。


 しかし、その拘束は解ける事なくクロの元まで引き寄せられる。



「別に悪い様にはしねーよ」

「むぅ〜っ!! はなして〜っ!!」



 メマは精一杯暴れるが、その拘束は解かれない。周りも先程から不自然な目で見ているが、何故かクロの容姿に怯えて周りから見るだけだ。



「やめろっ!!」



 がぶっ



「ってぇ!」



 しょうたはクロの手に噛み付く。そのお陰でメマはクロの手から離れる。



「にげるぞ!」



 メマはしょうたに手を引かれ、人混みに紛れるように屋台の奥へと入って行くのだった。



 __________




「はぁ……」



 み、見つからねぇ。



 探し始めて数十分。観覧席を隈なく探したがメマは居なかった。メマの奴、何処に行ったんだ……?



「その様子じゃ、其方も居なかったみたいだな」



 そこに汗を拭いながら凪さんが現れる。



「これからどうする? あと捜せる所は捜したぞ?」

「……見逃したかもしれない。また捜し直すぞ!!」

「あ、おい!」



 俺は凪さんからの制止を無視し、今度は屋台通りのある方へ走る。もしかして俺達と入れ替わりで屋台の方へ行った可能性もある。メマも流石にお腹が空いてきた頃だろうからな。



「ん?」



 観覧席の入場口から出ると、どうも周りがザワザワしているのに俺は気付く。


 何だこの人だかり……もう祭りは始まってるんだろうけど、何か妙な感じだ。楽しんでいる訳じゃなく、なんか皆ソワソワして不安げな表情をしている。



「あ! 先程の!」



 俺が人だかりを見ていると、奥から先程話した係員がやって来る。



「あの、ウチの子見つかりましたか!?」

「それが先程緑色の髪をした女の子が、不審な男に追い掛けられているという、連絡がありまして……」

「なっ! 不審な男ってまさか!」

「心当たりがあるんですか?」



 祭り前に絡んできた男の仲間だな……!! メマがいくら可愛いからって、必要以上に絡むのはルール違反ってやつでしょうが!! しかもメマはまだ子供なんだぞ!! 男なんて……男なんて……!!



「メマにはまだ早いからな!!」



 俺は人だかりを掻き分け、全速力でメマの事を探しに行くのだった。



 __________



「はぁ、やっと追い詰めたぜ」



 ったく、こちとら暇じゃねぇんだけどな。

 俺は汗で塗れた髪を掻き上げる、ガキ共を見た。



「にゅう~!!」

「ぜったいおれがまもってやる!!」



 俺が聞きてぇのはそう言う漫画のセリフみてぇなヤツじゃねぇんだけどな……。俺は何度目か分からない溜息を吐きながら2人へと近づく。



「悪い事はしねぇ、ちょっと聞きたい事があるだけだ」

「う、うそだもん!!」

「いや嘘じゃねーって」



 はー。やっぱり、最初の出会いが悪かったか? 態とぶつかって、あの野郎の器を試したかっただけなんだが…………まさかこんなツケが回って来るとは。



「だから俺が聞きたいのは……」



 俺が聞こうとした瞬間だった。後ろから何か誰かが近づいている

 気配がして、俺は振り返った。


 するとーー。



「メマーッ!!」

「ぐふぅっ!?」



 何かが俺に体当たりをかまし、俺は一瞬にしてガキ共の隣の壁まで吹っ飛んだ。

 これはヤバい、人間の力じゃない。強いて言うなら、昔山で修行してた時に戦った熊からの体当たりに近い衝撃だ。昔は1週間ぐらい寝込んだが、今の俺が簡単に負けると思ってーー。


 俺はギリギリの意識の中、それを見た。



「メマ! 大丈夫だったか!?」

「やっぱりおとーちゃんだいすきっ!!」

「お? そ、そうか? てか、凄く心配したんだぞーっ!? 無事で良かった~」



 う、嘘だろ?

 俺は遠のく意識の中、目的である奴の強さを改めて実感した。これは、人が追いつく事の出来ない強さだと。



「ほら! 皆も心配してるぞ!」

「うん! いこっ!」

「お、おれもか!?」

「え? 君、誰? 何でメマと手繋いでんの? ちょっと詳しくーー」



 これは関わってはいけない人種なのだと、人生で2度目の敗北を思い抱きながら、俺は意識を手放すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る