第53話 メマとしょうた
「おれはしょうただ!」
少し吊り目で短い髪は、近所のガキンチョと呼ばれる様な白のタンクトップに、膝小僧まで出た半ズボンを履いている。
しょうたは踏ん反り返り、腰に手を当てながら宣言する。それに一瞬ぽかんとするメマ。
「め、メマはメマだよ! よろしくね!」
しかし、哲平……もとい比奈の指導が良かったのか、「初めて会った相手には自己紹介する事を忘れずに」と言われていた事もあってメマは元気に手を差し出した。
「ん、よろしくな。それでおまえ、なにしてんだ?」
「メマは……おさんぽ」
「ん……? なにかあったのか?」
事情を聞くと、みるみるとメマの眉尻は下がる。
「おとーちゃんと……けんかしちゃったの」
「けんかしたのか。なら、おれといっしょにはなびみよう!」
「え、」
唐突に手を引かれ、メマは転びそうになりながらもしょうたと共に走る。
「ど、どこにいくの!?」
「はなびみるためのとくべつなせきとってあるんだ! いっしょにみよう!」
そう言ってメマ達は観覧席の奥へと入って行く。
数十分後、着いたのはパイプ椅子が4つ並び、その前には小さな子供用のシートが敷かれている場所だった。
周囲には少し離れた所に席が作られている。
「ここでみるの?」
「おう! おれひとりだけだったからさ! さいごまでみてけよ!」
「おとーちゃんとかは?」
「とーちゃんはしごと、かーちゃんもしごとでこない! まぁ、まいとしそうだからな。さびしくなんかねーよ!」
メマはしょうたが言う事をよく理解出来なかった。
しかし、誰も大人が居ないという事を当たり前だと言っているしょうたに、メマは無意識ながら尊敬の念を抱く。
「すごい……!」
「へへっ……! そうか?」
恥ずかし気に鼻の下を擦るしょうた。しょうたは機嫌良くメマと話をしながら、メマはしょうたの話に徐々に明るい気持ちになりながら花火が打ち上がるのを待つ。
「あ〜、はらへった」
「あ、メマも……」
待っているとしょうたの腹が鳴り、メマはお腹を抱える。
「よし! じゃあ、なんかうまいのかいにいこう! まだはなびはじまらないし!」
と言い、2人は屋台通りへと向かうのだった。
「うわ〜! すごいひと〜!!」
「まだまだじょのくちだぜ!! あ、あれ! うまいぞ!!」
しょうたはメマの手を引き、屋台を回るのだった。
__________
「緑色の髪をした女の子ですね……分かりました。私達の方でも探してみます」
「「すみません。よろしくお願いします」」
俺達は係員の人に礼をすると、2人で中へと入った。
事情説明や許可を取る為に時間を食い、時刻はもう既に花火の始まる8時の数分前まで迫っていた。
「人だかりが出て来たな、俺はあっちを探すわ」
「私はあっちを探す。見逃すなよ」
凪さんはそう言うと、走り去って行く。
さて、気合を入れて探そう。此処にメマはいる筈なんだ。メマの性格からして多分……落ち込んでる、と思う。だから一ヶ所に留まり続けてると思うんだよなぁ。
つまりーー。
「走り回って探す!」
原始的だが確実だ!! それにレベルが上がったおかげで、体力もほぼ尽きない!
俺は観覧席を隈なく探すのだった。
__________
「これがやきそばだ!」
「やきそば? おいしそう!!」
「へへっ! すごくおいしいぞ!!」
その頃、焼きそばの屋台の前、丁度2人は仲良く焼きそばを前に目をキラキラとさせていた。
「これはんぶんこしよう!」
「いいの!?」
「そのためにいっしょにきたんだぞ!」
しょうたのカッコいい一言に、買った焼きそばを2人で分けて食べる。
「おいしい!」
「だべ?」
メマの嬉しそうに頬を緩めた顔に、自然としょうたも笑顔になる。
「あれはどうだ?」
「チョコバナナ?」
「なんだ、チョコバナナもわからないのか? ほら、バナナにチョコがぬってあるんだ。あまくておいしいぞ!」
「あまいの!?」
メマは、既に哲平の事を怒っているのも忘れて楽しんでいた。
しかしーー。
「! にゅう!」
「ん?」
そこに突然現れたのは、服にジュースの跡が付いている男……クロだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます