第43話 家を建てよう。
「え……メイドをやってお礼をですか……」
起き上がった俺はKIROのテーブル席で凪さん達から話を聞いていた。
「こ、この人の情報からメイドが好きだと言うので……師匠もやれと言うし……」
『感謝の気持ちを伝えるにはこれしかないかと思いまして』
何を言ってるのか分からない。
今の俺の内心はそれで一杯だった。
「指導者さん? 説明してくれるよな?」
『……何をそんな怖い顔をしているのですか?』
「俺はそんな事むぐぅ!」
『哲平様、今は私に話を合わせて下さい。これはこの地の為にやっている事なんです』
へ、この地の為? 何だか分からないが……まぁ、この土地。店の為になるなら聞かない訳にはいかない。
「あははは、俺メイドさん好きだから嬉しいよ」
「おとーちゃん……」
「哲平さん……」
おっと。何か人として大事なものを失った気がする。
そんな比奈達の冷たい視線から逃げる様に、俺は流し目で指導者さんを見る。
本当に考えがあっての行動なんだろうな?
『勿論。安心して下さい』
心の中で会話を終わらせると、指導者さんがパンッと手を叩いた。
『しかし、メイド道とは長く厳しいものです。簡単にメイド道を極める事など考えないで下さい』
「考えてもないから安心しろ」
『そうですね……貴方には最低でも此処で1ヵ月、住み込みで働いて貰います』
「い! 1ヵ月だと!?」
『何を驚いているんです。貴女は命を哲平様から助けて貰った、違いますか?』
「……ち、違わない」
『そうでしょう? なら1ヵ月など安い物です』
「うぅ……」
おぉ……。淡々と話が進んで行く。それと同時に凪さんの頭が下がって行ってはいるが。
だけど、今の話の中で少し引っかかる所がある。
「ここで住み込みは出来ないと思いますが?」
そう。そうなのである。ここにはKIROとぎゅーさんが居る飼育小屋、そしてエースさんが控えているおトイレしかない。生活するには圧倒的に足りないものが多過ぎる。それなのに住み込みなんて……これだと話を合わせる処の話じゃないぞ。
俺がチラッと指導者さんを見ると、指導者さんは穏やかに微笑んでいた。
『流石比奈様、仰る通りです。ですが、問題はありません。明日には最低限住めるように家を建てておきます』
「…………そんなの無理に決まってる。もし在ったとしたら私は此処で一生働いても良い」
いや、まぁ、そうだよな。普通なら無理だ。だけど指導者さんは神の地のskillから産まれた存在。何かファンタジー要素的な何かがあるのだろう。
『へぇ? そんな事言っても良いんですか?』
「あぁ。プレハブとかではなく、ちゃんとした家なんだろ? それなら二言はない」
『それなら出来なかったら場合、此方は哲平様が貴女の奴隷になりますよ』
「待って」
『何ですか?』
本当に不思議そうに顔を傾ける指導者さんに、俺は問い掛ける。
「いや、何言ってんの?」
奴隷って。そんな売り言葉に買い言葉でなんとかって言っても許されない事言ってる自覚ある?
『売り言葉に買い言葉で……』
「やめんか!!」
勝手に俺の心を読んで返答するのはやめろ!! ったく……賭けるなら自分を賭けろよなぁ。
『……ですが、これでは土地が……』
むっ。
指導者さんが頭の中に直接話し掛けてくる。
それを言われたらしょうがない、か。
『哲平様、出来ますよね?』
「お、おう! 任せろ!」
「ふん! お前みたいな奴隷は要らないけど、臓器を売れば少しでも世の中の為にはなるな!!」
ほ、本当に大丈夫ですよね? 指導者さん?
俺が指導者さんに問い掛けていると、カウンター席に座っていた右京さんが立ち上がる。
「話はまとまったようだね。取り敢えず、凪、貴方は私と一緒にホテルに泊まりましょう」
ん? ホテル?
「アレ? 源さんの家には泊まらないんですか?」
「……ま、あの人の家は狭いしね。あまり迷惑も掛けられないわ」
まぁ……確かに。源さんの家は狭い。1人暮らしというのもあるだろうが、アソコで複数人住むのは……。
「でも、前まではアソコで2人で
「ほら!! 早く行きますよ!!」
「は、はい!」
俺の言葉を遮り、右京さん達は店から出て行った。
はっ。
「それで? どうやって家を建てるんだ?」
「メマてつだう!!」
「まぁ。私も一応手伝っておきます」
俺が聞くと、2人も一緒に手伝ってくれるらしい。ま、ファンタジーでどうにかなるから大丈夫だとは思うが。
『そうですね。まず一番大事な水ですが、神の地のレベルが上がった時点で水脈は通る様になってます』
おぉっ!! マジか!? 流石ファンタジーだな!!
『あとは肝心な家ですが、作り方は私と哲平様が居れば直ぐにでも出来ます。メマ様、比奈様には家具の方を買って来て頂けると』
うーむ、家具までは出来なかったか。まぁ、水と家がどうにかなるだけで凄いんだけど。
比奈達は指導者さんの言う通りに、家具を買いに行くのだった。
「で? 俺達は何をすれば良いんだ?」
『まず……最初に言っておきます。この世界でレベルを持っているのは哲平様とメマ様、それに天峯様に凪様、エース様ぐらいでしょう』
うん? レベル? あぁ。ステータスにあったレベル1ってやつか。
「それがどうかしたか?」
『レベル1になると普通よりも身体能力がとんでもなく向上するんですよ。それこそ赤ちゃんがオリンピック選手になるくらい』
「……ほぉ」
『木材は私の力でどうにかします。建築技術は源様を呼んでおきましたので、頑張りましょう』
「…………ん?」
「うおぉおぉおおっ!!」
『はいはーい。これで出来なかったら奴隷ですよー。臓器売買ですよー』
これから指導者さんの事は信用しない。
俺は心に誓いながら、ノコギリを握るのだった。
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