第42話 ファントム討伐したらメイドが増えていた件について

 右京さんはエースさんと共に、苦しんでいる凪さんの下でピョンピョン手を伸ばしている。



「ううっ!」

「凪っ!!」



 何か異様な光景だよな。右京さんは凄い焦ってるけど、事情を知っている俺は全然焦ってない。しかも俺の力であれば直ぐにでもやっつける事が出来る。


 1つ問題があるなら、体に触れていない事だろうがーー。



「右京さん、ちょっとどいて下さい」

「て、哲平さん……な、凪が……!!」

「大丈夫です。今助けますから」



 右京さんの隣に立ち、俺は両手を掲げた。



 ハッキリ言って、こういう事は言いたくないし、したくも無いんだけどーー。




「あっち、行けっ!!」




 ブワアァッ




 俺が叫んだ瞬間。凪さんの身体から黒いモヤの様な物が飛び出る。



 どうやら上手く行った様だ。



 そのモヤは一点に留まり蠢くと、ドンドン収縮されていき、消滅する。



「!! 凪ッ!!」




 同時に凪さんの身体から力が抜ける様にして落ちて来る。しかし、右京さんの身体じゃ受け止める事は出来ないだろう。



「おっとぉぉっオェ!!」



 それに俺は滑り込むように、凪さんの下に潜り込んでクッションとなる。が、どうやら映画の様に上手くは行かなかった。



 マジで、内臓飛び出る。



「う、うぅ……」



 凪さんは頭を抱えながら、上体を少し起こす。



「大丈夫か?」

「え…あ、え!! ふ! 触れないで下さい!!」

「ぶへぇっ!!」



 い、イテェ……な、何でこんな事に。



 俺は顎の下からの見事な一撃に、意識を飛ばすのだった。



 __________



「ふぅ」

「凪……無事で良かったわ」



 天峯は凪の元へ駆け寄ると、無事元気な姿を見せる凪に、堪え切れず涙を流していた。



「し、師匠……!」



 その先程まで冷たかった態度とは裏腹な天峯の表情に、凪は頰を綻ばせる。あの大好きな天峯からこんなに心配されているのだと、改めて愛情深く指導して貰っている事に感動しながら、凪は天峯の身体に思い切り抱きつく。



「……何ともない?」

「は、はい! 師匠のお陰で何ともありません!!」

「うっ……」



 凪は気絶する哲平の上に乗り、頰を染めながら言った。



「……凪。貴女恩人に何て事をしてるのよ」

「お、恩人? 誰がですか?」

「貴女が今踏んでいる人よ」



 そう言われて凪は自分の足元を見た。



「ちょっと何を言ってるのか分かりません」

「はぁ。哲平さんが貴女を助けなかったら死んでたのかもしれないのよ? それなのに貴女は……」

「え!? この人が私の事をですか? 師匠じゃなくてですか?」



 下の方から呻き声の様なものが聞こえたものの、凪は気にする事なく立ち上がる。



「貴女の男性恐怖症もあるかも知らないけど、少しでもこの人に感謝の気持ちを伝えたいなら、さっきみたいな行動は止めなさい。いいわね?」

「……はい」

『それなら、私に良い考えがあります』



 返事をした瞬間。指導者、比奈、メマが音も無く天峯の後ろに現れる。凪は驚きに目を見開くものの、天峯は動揺を見せる事なく指導者に問い掛ける。



「……貴女は?」

『此処で……メイドをやっている様な者です』

「メイド、ねぇ? 初めて見るけど?」



天峯は比奈の方を見る。



「今日からですから」



比奈はそれに余計な事を言ったらまた混乱すると思ったのか、簡潔に言う。



『それよりも貴女、哲平様に感謝の気持ちを伝えたいのですよね?』

「え……ま、まぁ……………一応は」

「ならーー……」



 指導者は凪に耳打ちをする。すると、凪はそれに顔を一気に顔を赤らめた。



「は!? 何で私がこんな者の為に? 私を陥れようとしてるな貴様ァッ!!」

『とんだ被害妄想ですね。私は貴女の為、アドバイスをしただけなのに』

「私も反対です。そんなの必要ありません」

「凪、何を言われたの?」

「こ、この者! 私にーー……!!」



 凪が言うと、天峯はそれを噛み締める様に頷き、少し腕を組んで目を瞑った後言った。



「……いいじゃない。少しの期間だけやってみたらどう?」

「は??? 師匠……それは本気で言っているのですか?」

「本気よ」

「…………………はぁ。分かりました」



 師の本気の目に気圧され、愛しの師からの指示により、凪は嫌々ながらも了承するのだった。



 __________



 う……。



 俺は顎に痛みを感じながら、意識を取り戻そうとしていた。


 だが、頭の下のフカフカな枕がどうしても俺を離してくれない。



 あぁ。やべぇ。この枕凄い良いんだが。ふわふわで良い匂い。それにスベスベで何か温もりを感じ……ん?



 俺は目を瞑りながら、弄っていた手を止める。



 何か嫌な予感がする。しかもーー。



「あ……くっ! こ、コイツ……!!」

『ダメですよ。感謝の気持ちを伝えるのでしょう?』



 何やら……不穏な声が聞こえて来る。



「ふ、ふわぁ……」



 俺の勘が言っていた。誤魔化しながら起きろと。



 俺は分かりやすく欠伸をしながら、目をゴシゴシと擦った後に目を開けた。



 するとそこにはーー。




「だ、だい、ダイジョウブデすカァ?」




 メイド服姿の凪さんの姿がありました。




 怖い。










『これで一先ずは土地の住人が3人ーー……』

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