第3章 レベルってゲームですか?
第33話 右京さんからのお願い
「じゃあ太郎さん、太郎さんの住む家造って待ってますね!」
「えぇ! い、良いんですか!?」
「任せてください!」
俺は車に乗っている太郎さんに大きな声で言った。
完全に人任せではあるが、うちには優秀な大工さんが居ますんで。
「またねー!!」
「まさかこんな事になるとは思いませんでしたけど、よろしくお願いしますね」
「はい! 会社の事を終わらせたらまた来ますので、その時はよろしくお願いしまーす!」
初めてのお客さん、太郎さんは後ろ手に手を振りながら去って行った。
「良いんですか? そんな安請け合いして……」
「大丈夫だって、今度は俺も源さんの手伝いをしながら建てるから」
「……言っておきますけど、これからは太郎さんみたいにネットで見て来てくれる人が増えて来ると思うので、中々時間は取れないかもしれませんよ?」
「ま、まだ来るお客さんは少ないからな。合間を見て建物を造れば良い話だ」
「……」
うわって顔で見るなよ。悲しくなるだろ……。
俺はドン引きしている比奈を横目に、いざとなったら源さんに土下座をする覚悟を固めるのだった。
__________
「うーむ……」
「頼む、源さん」
翌日、KIROへと源さん、そして右京さんを迎え入れた俺は、膝を着き両手を合わせていた。
どうやら天才な源さんを以ってしても、家を造るのは難しいらしい。今まで作って貰った物はKIRO、トイレ、飼育小屋である。どれも一部屋で完結している物ばかり。家とは間取りの事もあるし、何より、人が住む事を想定して造らなければならないのだ。そうなって来ると大事なのが——
「水問題、ですね」
比奈が俺の頭を覗いたかのように、言葉にする。
人が住むに至って大事なのが水。トイレなんかは最悪外まで出て来て貰ってエースさんの所ですれば良い。だけど、風呂や洗濯をするとなるとどうにも難しい。
「比奈の知り合いに居たりしないのか? 水道業者の人とか?」
「……居はしますけど」
「おぉ!」
「……ここまで水源を持って来るとなると工事に随分時間が掛かってしまうと思うんですけど?」
あぁ……なんという事か。
「い、今は営業しないと店が回らなくなるから……はぁ。諦めて太郎さんに連絡しておくか。家造るのはちょっと難しくなったって」
「引っ越しねぇ。その人、随分思い切った事したわね」
俺がスマホを手に取ると、右京さんがカウンターに肘を着きながら言う。
あんたが言うな。日本でもトップクラスの料亭の女将+料理人。と言おうと思ったが、俺はこの人の威圧感が苦手で、未だに慣れない。
それに俺の料理に何か秘密が…! とか言ってるガン見してくるし。本当、ぶっちゃけ怖いです。
「……困ってるなら、助けてあげても良いわよ?」
「へ?」
ま、マジで? あの右京さんが?
「どうしたお前、急に。哲平に何かやるつもりなら俺を通してからにして貰うぞ」
キュンッ
げ、源さん…!!
「アンタ……私に逆らっても良いの? ――――――。――――」
「ごめんなさいでした」
源さんは右京さんに耳打ちされると、直ぐに右京さんの背後へと下がって行った。
俺のトキメキを返せ。
「ふん……それで? 少ーしお願い事があるんだけど、受ける気はある?」
「……」
この人のお願い……怖過ぎる。何を要求するつもりなんだ?
でも――
「受けます。お願いはなんですか?」
ウチの未来の従業員の事だ。しかも約束したのもある。約束を破る訳にもいかないだろう。
俺は息を呑み、右京さんからの返事を待つ。右京さんは目を閉じてジッと腕を組んでいる。何やら唯ならぬお願いらし――。
「メマちゃんと私の仲を取り持って貰いたいの」
「はい?」
やば。耳掃除した方が良いかも。何か、ある意味頭を抱えたくなる様な事が聞こえたんだが。
「これは貴方にしか出来ない事よ。哲平さんも見て分かると思うけど、私とメマちゃんの関係にはまだ大きな溝があるわ」
右京さんは淡々と真面目な顔で言う。
はぁ。なるほどね。
……まぁ、右京さんが来た瞬間にメマ、「畑に行ってくる!」って元気に出ていくもんな。あんなあからさまだと、鈍感な人でも気付くだろう。
「私は枝豆、貴方にとってはお金が入って来る様になる……win-winな関係だと思うけど?」
このお願い。お願いというよりも取引に近いだろうか。
どちらにもメリットがある、このお願い――
「右京さん、マジで頑張ってメマに好かれましょう」
「えぇ、私もメマちゃんと一緒にオセロしたいわ」
「あれ? 何でオセロしてるの分かるんですか?」
「え?」
「……え?」
「べ、別に覗いたりとかしてないわよ!!」
……ほう。ま、頑張りましょうや。
「何で肩を叩くのよ!?」
実は右京さんって可愛げがあるんだなぁって思って。まぁ、やってる事犯罪ですけどね?
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