第28話 ウチにも遂にネットが繋がった

「今日は出なかったので、限定的な提供になるとは思いますが……」

「グスッ! ズズッ!! い、いえ!! ほ、本当にありがとうございますっ!!」



 翌日、俺は勇樹さんにフルーツ牛乳を提供した。今日の朝、比奈が乳搾りをしたが残念ながらフルーツ牛乳は出て来なかった。比奈のあの絶望した様な顔が頭から離れない程に残念である。


 ーーまぁ、普通の牛乳が出なくなるのはそれはそれで問題があるが。



「そ、そんなにですか……」



 俺の手を取って、号泣する勇樹さんはこのまま土下座しそうな勢いである。



「最近牛乳を飲み始めてから体調が良いんです!! よく眠れて食も進んでいるんです!! それで仕事の業績もうなぎ上りなんですよ!!」



 そんなに良い事になってるのか。まさかウチの牛乳を飲んだだけでねぇ。



「じゃあ仕事前は何があっても飲みに来ないといけないですね」



 俺が冗談めかして話すと。



「はい、一生お世話になります。この御恩は一生を懸けてお返しさせて頂きます」



 重い。重過ぎる。



「そんなに畏まらなくても良いんですけど……」

「いえ! こんな商品を提供してくれる哲平さんには少しでもお返ししたいのです!! じゃないと私の気が収まりません!!!」

「いやいやいや! 来てくれるだけでもーー」



 凄い剣幕である。そこまでウチの店を気に入ってくれてるのはありがたいけど、ここまで来ると、この牛乳には催眠作用があるのではないかと不安になって来る。



「では、電気工事が出来る腕の良い方の紹介をお願いします」



 そんな中、比奈が話に入って来る。



 電気工事?



「電気工事なんて何をするんだ?」

「前からネット環境を整えたいと言っていたじゃないですか」



 おー、そう言えば! それならお願いするのも良いかも。別に無茶なお願いでもないだろう。



「あー……で、電気関係の腕の良い方ですね。探しておきます」



 す、凄く嫌そうだ。やはり比奈から頼まれるのが嫌なのか?



「勇樹さんって、比奈にどんな弱味を握られてるんですか?」



 俺は小声で勇樹さんに聞くと、勇樹さんは体をビクッとさせた。



「さ、西園寺さんにはお世話になってますから……」



 ゆ、勇樹さん、汗が凄いんですけど……。



 ____________



「ありがとうございましたー」



 数日後、勇樹さんに言われて来たと言う電気屋の人が工事を終わらせ、店ではネット環境が整った。


 これでB級映画が見放題になった。これで暇な時でも一生映画が観れる訳だ。「今日の業務はここまでー、帰って良いぞー」って言われるぐらい最高である。



「おとーちゃん、なにしてるのー?」

「うん? あー……店に出す料理を研究していてな?」



 決してサボっているのではない。海外のオシャレなカフェが時々出て来るから、それを見て料理の研究をだなーー…。



「そうなの!? じゃあメマもKIROのためになにかやりたい!!」

「メマは美味しい世界一の枝豆を作ってくれ。頼んだぞ」

「!! わかった!!」



 メマは力強く両拳を握ると、店の外へと出て行った。


 断じてテキトーに流しているのではない。いやー、素直で可愛いなメマは。



「こら、何をメマちゃんに吹き込んでいるんですか」

「メマニハセカイイチニナッテモラウ」

「何ですかそれ」



 む。


 呆れた風に比奈は大きく溜息を吐いた。



「まずはウチの店に集客してから言ってください」



 そ、それを言われたら何にも言えません。はい。すみません。


 俺は映画を観るのをやめて、集客する為に何か情報はないかとネットを開いた。

 それと同時に出て来る『異世界の扉』のトピックス。


 未だにアメリカ以外には扉は見つかっていないらしい。


 て事はーー。



「この世界でステータスボードがあるのはアメリカの軍人と俺達だけだろ? これって何か不思議な効果があったりするのかな?」



 突然沸いた疑問に俺が独り言の様に呟くと、比奈は数瞬黙った後に口を開いた。



「ある、と私は思っています。まず、哲平さんにだけあるskill、titleの欄。これは何か特別な事があると踏んでいます。その中でも"神力"『神の地に住まいし者』って言うのは恐らく……」

「恐らく……?」

「……哲平さんって、あの『岩塩』。日常的に食べてますよね?」

「うん? まぁ、旨み調味的に使ってるからな。ほぼ毎日食べてる」

「ですよね」

「ですよねって?」

「……」



 ダンマリ決め込んじゃったよ、この子。



「今の俺達には関係ない事だけど、いずれは大事になって来るのかなぁって、そう思いました」



 俺がそう締め括る様に言うと、また比奈は口を開いた。



「そう……ですね。因みに哲平さん」

「うん?」

「私に『岩塩』幾つか譲って貰ってもいいですか?」

「良いぞ? 幾らでもこの土地から出て来るからな!」



 旨み調味って言ったのが、比奈の何かの触覚に引っかかったか。これで『岩塩』仲間が俺、メマと続き3人目である。




「あ、そうだ。比奈、ウチの店のホームページとかネットでーー」



 今日も魔物なんて出ない、平和な1日だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る