第8話 メニューを決めよう

「はやくはやく〜!」

「まー、少し待ってろって」



 俺達2人は比奈の家から帰ると、カフェに来ていた。メマがスイーツをご所望だった様なので、フルーツを使ったスイーツを作る予定だ。


 だが、此処で大事なお知らせである。



 このカフェには電気も水道も通っていない。




 カチッ カチッ ボッ



 つまりはカセットコンロである。水を入れたペットボトルである。食材を入れたクーラーボックスである。

 なんとアナログな店だろうか…。



「最低でもトイレは欲しい所だよなぁ」



 だが、トイレを作るのには中々の労力が必要だ。まず、うちの田舎にトイレを作ったことがある人が居ないというのがでかいだろう。

 汲み取り式を買っても良いが…自然で空気が美味しい所でウ◯コの臭いがして来たら最悪だ。贅沢を言うなら臭いがしない、水洗式が……いや、それを言うならまず水道を通らせないと…


 俺がブツブツと考えている内に、気がつくとメマはカウンターに突っ伏していた。


 おっと。早く作ってやらないとな。



 俺はクーラーボックスの中から牛乳、卵、白い粉を手に取った。すると、それらをボウルの中へ投入し、掻き混ぜ、フライパンの上へと敷く。


 そしてーー



「よっ…と!」

「おぉ〜っ!!」



 メマが目を輝かせながらそれは大きく半回転し、フライパンへと着地。数十秒後に焼き上がり、皿にバナナや苺を盛り付けて完成だ。



「哲平特製フワフワホットケーキだ」



 ま、特性って言っても市販のホットケーキミックス混ぜて、メープルシロップとフルーツ乗っけただけなんだが。



「た、たべていい!?」

「おー、食え食「いただきまーす!!」



 メマは俺の返事を食い気味に受け取ると、大きな口でホットケーキに齧り付いた。


 あーあ…折角フォークを出してたのに、手がベタベタじゃないか。まぁ、メマはまだ子供だし、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 俺は、無言で食べ続けるメマに問い掛けた。



「……美味しいか?」

「ん? おいしーよ?」

「あー…そうか」



 ーー俺は自分の頰を両手で押し潰した。


 何を嬉しがってるんだ。『意外に料理を美味しく食べて貰うのも、悪くないかもな』とかじゃないんだよ。


 こんなの、普通の人に聞いても美味しいって答える。


 そう。これは普通のホットケーキ。ただただ平凡なホットケーキだ。こんなの売ったところで、店が繁盛する訳じゃないし、これはただの子供であるメマの感想に過ぎない。



「それに…」



 此処で店を開くとしたら、お客さんはきっと井戸端会議するお婆ちゃん達が数人、偶にお爺ちゃんという感じになる。

 どちらも多くの人が糖尿病を患っている。つまりは甘いものを、率先して摂ることはない。



 だとしたらメニューは甘い物は少なめに…簡単に食べれる軽食的な物を多めにした方が良いか。お爺ちゃんお婆ちゃんの胃の大きさなんてたかが知れてる。


 俺が作れる、テイクアウトを想定したメニュー作りをしなければならない。



(何処かのカフェを少し参考にしてみるか……)



 俺はメマがホットケーキを頬張る隣で、スマホでネットを開いた。因みに電波は1本しか立っていない。



「ん? なんだこれ? 新しいゲームか? 『現実世界にモンスター出現。人間よ、剣を取れ』…はは、これが本当だったら世界は滅亡するな」



 ネットニュースになっている記事を見て、胡散臭さを感じながら俺はカフェのメニューを考えるのだった。

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