第4話 君と一緒の夜、好きだよ

「鮫島、ちょっと大丈夫?」

 パジャマ姿の柊木がお風呂上がりの揺らめきの中、くいくいと首をこねて笑顔でベランダに出てくる。


「大丈夫って、何が?」


「時間だよ、ちょっと話したいことがあるから」

 そう言ってとことこと俺の隣へ歩いてくる。


 同じシャンプーとは思えないくらいにふわっと香るいい匂いとか濡れた髪とか揺らめく出で立ちとか、緩いパジャマに強調された豊かな双丘とか……ダメダメダメ、あんまり意識しちゃダメ! 今日の柊木はいつもより……ダメダメ! いつもの猫ちゃんパジャマは控えめだったんだな、とか考えちゃダメ! 


「……鮫島?」

 ……でもやっぱり柊木は可愛いし、今の雰囲気は何というか、そのエロ……ダメダメダメ!!! そんなエロい目で柊木を見ちゃいけません、ダメダメです!


「……どうしたの、鮫島?」


「いやいやいや、何でもないよ! あ、そそそそうだ! そのパジャマ姉ちゃんのじゃないし、柊木のでもないよね? 見たことないんだけど誰のやつ?」


「ああ、これ? これおばさんが買っててくれてたみたいなんだ。私が家によく泊まりに来るからって。どう似合ってる……って言っても半袖のTシャツに短パンだけど。どうかな、鮫島?」


「似合ってる! すごく似合ってる!」

 確かに普通のTシャツと短パンだけど。

 でもやっぱり元の顔とかスタイルがいいし、お風呂ボーナスもあって、そのやっぱり……すごくすごいです! 


「えへへ、ありがと。今日の鮫島、なんだか素直で嬉しいな」


「……俺はいつでも素直だよ」


「そうかな? いつもはもうちょっと……ね?」

 欄干に手をかけて、俺の方にパチッとウインク……ホント顔が良くてずるい。

 いつも思うけど、マジで可愛い本当に好き……なんて素直になれないけど。


「……そ、それより話ってのは何なんだよ! なんか用があってきたんだろ!」


「どうしたの、そんなにせっかちさんで。それに変なところ向いてるし。こっち向いてよ、鮫島。私の事見てよ、可愛いでしょ、私?」


「いいだろ、別に! 可愛い可愛い! だから話早くしてくれよ!」


「えへへ、可愛いか……ふふっ、わかったよ。話ってのは……あ、見てみて鮫島! すごい星がキレイだよ、めっちゃキレイ! 月も綺麗だけど星もキレイ!」

 話を途中でぶった切って、星にも負けないくらいのキラキラの瞳で空を指さす。


「……全く。でもほんとキレイだよね、雨降ってたは思えないくらい」


「ホントホント! ねえ、鮫島また星の名前教えてよ! 昔みたいに星の名前教えて!」


「もう結構教えたつもりだけど、柊木には」


「あれは春と秋と冬だけだもん! 夏休みは、おばあちゃん家帰ってたから鮫島と一緒に居れなかったし! だから夏の星座は教えてもらってない! 教えて、鮫島先生! 私にまた、星空教室して欲しいです!」

 パッと大きく手を広げて、キラキラの笑顔で……そんな顔されたら解説しなきゃじゃん!


「ったくもう、わかったよ。えっとね、あそこににょろにょろした長いのあるだろ?」


「ええっと……ど、どれ?」


「あっちあっち。先っぽが三角形になってて、その下になんか四角いのがあるやつ」


「ふんふん……あ、見つけた! あれでしょ、あれ! あのキラキラしてるやつ!」

 空を指さして嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。

 そのたびに胸元がぽよぽよと揺れて、目が奪われ……こういう所ばっか見ないの、ダメ! 日向君ダメ、体育の時見すぎていじられたばかりでしょ!


「はしゃぎすぎだよ、柊木。全部キラキラしてるけどそれで正解! にょろにょろ長いのがへび座で下のがへびつかい座なんだけど、実はへび座はへびつかい座を挟んで東西に分かれてるんだ。分割されてる星座はへび座だけなんだって」


「へー、なんかすごいね、それ! 私へびは嫌いだけどへびつかいにはなってみたいかも! へびに自分の言う事聞かせたいかも!」


「ふふっ、何それちょっと楽しそう。インドのターバンみたいな?」


「それそれ! 絶対楽しいよね、アナコンダ首に巻いたり! 頑張ろうかな、へびつかい……ねえねえ、他にはないの、他には?」


「アナコンダ、柊木嫌って言ってたじゃん、昔。まあいいか、そうだな……へび座の上にあるもう一個にょろにょろしたのあるだろ? あれがりゅう座」


「おー、ドラゴン、カッコイイ! 西洋かな? 東洋かな? どっちも好きだけど!」


「俺もどっちも好き。多分西洋だと思うけど、形的には東洋かな? それでその横の十字架みたいなのがはくちょう座」


「鳥さん風邪でも引いたの?」

 ニヤニヤと笑いながらそう言って吐く真似をする柊木……なんかコロコロかなんかで同じようなネタ見たことある気がする。


「違う、白い鳥の方。それでその下の小さいのがこと座、『俺に任せて先に行け!』みたいなポーズしてるのがわし座」


「ほうほう、なんかそれは聞いて事ありますな!」


「有名だからな。それでその中の一際目立つ白鳥座のお尻のデネブとこと座のベガ、わし座のお腹のアルタイルを繋いだのがかの有名な夏の大三角形! それに天の川もここを通る!」


「おー、これがあの有名なやつ! 確かによく見ると三角形、それに天の川も通るなんてステキ!」


「だよな、なんかロマンチックな感じするよな」


「ふふっ、確かに! ねえねえ、もっと星の事教えてよ、なんだか楽しくなってきた!」


「ふふふ、良いよ。楽しんでくれるなら何よりだし。それじゃあ、あのギザギザのやつが……」


「ふむふむ」

 楽しそうに目を輝かせる柊木と一緒に、しばらく星を眺める。

 澄んだ空気と涼しい風、隣の笑顔。すごく心地のいい空間。



 ☆


 しばらく空を観察すること数分。

 満足した様に柊木がうんうんと首を縦に振る。

「うむ、なるほどなるほど勉強になった! これから夜家に帰る時も退屈しなさそうだね、夏の夜でも!」


「何度も言うけど夜は危ないから前見て歩いた方が良いぞ」


「そう言う事じゃないじゃん、微妙にデリカシーないよね鮫島は!」

 ぷんぷんとほっぺを膨らませる柊木。

 でもほんとに危ないし、それに夜はで歩いてほしくないな、危険がいっぱいだから。柊木襲われたら大変だ、俺も困る。


「じゃあ夜歩くときは鮫島ついて来てよね! これまで通り、夜に出歩くときはちゃんとついて来てね!」


「俺でよければこれからもお供させていただきますよ?」


「……もう、そう言うとこ。あ、そうだ鮫島、ねこ座はないのねこ座? 猫ちゃんの星座はないの?」


「ねこ座は昔はあったみたいだけど消されたんだってさ。結構強引に作ってたみたいだから」


「へー、残念! ワンちゃんはいっぱいあるのに猫ちゃんはいないんだね……ふふっ」

 残念そうに首をふるふるした柊木が急に笑い始める。


「どうした、柊木? なんかあった?」


「ううん、違う。ちょっとね……なんか鮫島と星見るのすごくいいな、って。なんだかすごく嬉しいな、って」


「そう? たまに見てたじゃん、夜家に送る時とか、お泊りしたときとか」


「……そうだけど、そうじゃない。今見るのが良いの。一緒に住まないと、星って見れないじゃん? だから嬉しいんだ。これから鮫島と夜までずーっと一緒なんだねって……お泊りの時は切なさがあったけど、今は違う。私、今すっごい嬉しい。鮫島とこれからはずっと一緒だから」

 そう言ってくるっと俺の方を見て、幸せそうに笑う。


「……変な言い方やめてくれ、柊木」


「別にしてないよ、変な言い方なんて。ただ思ったことといっただけ……そうだ、鮫島に言いたいこと思い出した。私ね、鮫島にありがとう、って言いたかった」


「……ありがとう?」


「うん、ありがとう。今日の事もだけど、これまでの事も……鮫島私に色々教えてくれたでしょ? 私、中学まで全然友達いなかったんだよ? それに、遊びも全然言った事なかった! だけど、鮫島いっぱい教えてくれたでしょ、私に」


「……教えてないよ、別に」


「ううん、教えてくれた。後ろの席の私にいっぱい話しかけてくれて、私の事誘ってくれて、家に入れてくれて、遊んでくれて……あの時は野村だったけど、鮫島と一緒楽しかった。鮫島は私に光をくれたんだよ、私に色々楽しいこと教えてくれた。そして今も……だからありがとう、って伝えたかったんだ」


「ななな何だよ、急に! そ、それに教えたってそんな大層な話でもないし!」


「もう、そうやってすぐ誤魔化す。私にとっては大事な事だったの! だからね……ありがとう、鮫島」

 少しはにかみながら、俺の方をまっすぐ見て。

 嘘偽りのなさそうな純真な笑顔で。


「……ど、どういたしまして! まあ、いいんじゃないかな、うん!」


「ふふっ、何それ、変なの。それよりこっち向いてよ、せっかく人が素直に感謝してるんだから!」

 ぺたぺたと俺の腕を触って……ちょ、やめて、今はダメ!


「だ、だからいいだろ、別に! 感謝は伝わってるから! 俺もありがとうだよ、どういたしまして!」


「もー、鮫島……ふふっ、もしかして照れてる? 鮫島照れてる?」


「照れてない! 別に照れてないし!」


「もう照れてるくせに! 誤魔化してちょっと可愛いかも……ふふっ、やっぱり鮫島のそういう所私は好きだよ」


「だから照……え?」


 ★★★

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