第2話迷コンビ登場

「いい湯だねえ。ワトソン君」

「えぇ、毎回毎回、行く先々で殺人事件と遭遇するので、熱田神宮でお祓いした効果抜群ですね。北海道旅行も、黒井川警部の実家にお邪魔したときも、何も起きなかったし。今回の長野旅行も、なんだか幸せな気分で終わりそうですね」

ワトソンと呼ばれるのは、尼ヶ坂病院循環器科医師の戸川達也だ。

「この前さ、キャリア組の坊っちゃん警視がさ、『これから、IT分野に力をいれないといけない』と、訓辞をたれたんで、観察眼が大事だと、話の腰を折ってやったよ」

「アハハハハ。黒井川警部らしい」

「だろ?よし、風呂上がったらビールだビール」


2人は和式の部屋でビールを飲み始めようとしていると、ドアをノックする音が聴こえる。

ワトソン君が、扉を開いた。

「夜分に申し訳ありません。黒井川様はいらっしゃいますか?」

ワトソン君が、

「うちの黒井川が何かしでかしましたか?」

「いいえ。1つ、知恵を拝借致したくて……警察の方ですよね!」

「黒井川警部、及びですよ~!すいませんが、どうして黒井川さんが警察の関係者と分かったんですか?」

「宿帳の職業欄に『名刑事』と、記してあったものですから」

「はぁ~い。どうした?」

「黒井川警部、恥ずかしいなあ」

「何の事?」


2人は着替えて、支配人室の椅子に座っていた。コーヒーが出された。

ビールを飲む為に、露天風呂で目一杯汗かいてからの、ホットコーヒーは拷問である。

「あの、必ず予約されたらいらっしゃる渡辺様が今夜、弊社の旅館に来て頂けず、電話をしても繋がらないのです」

「支配人さん。その、渡辺って人はどんな人物?」

「刑事さん」

「黒井川で構いません」

「黒井川さんと、同じ警察の方です。まだ、27歳ですがキャリア組で警部補です。渡辺さんの身に何かあったのでは無いかと心配しています。しかし、ここで警察に電話するのもいかがなものかと思いまして」

「支配人さん。渡辺さんの自宅はどこなの?」

「自宅は市内ですが、週末は歩いて15分の場所の別荘にいらっしゃいます」

ワトソン君はそれを聞くと、

「じゃ、今から3人で渡辺さんの別荘に向かいましょう」

「ワトソン君。それがいいね」

3人は別荘に向かった。

風情のあるコテージにたどり着いた3人は、懐中電灯で辺りを見渡した。

「真っ暗ですな。急病でしょうか?」

と、支配人は言った。

「どうしましょ?警部」

「一応、長野県警に電話してみよう」

黒井川警部は、長野県警に通報した。

渡辺は確かに先週の金曜日まで、県警本部で勤務していた。

間もなくパトカーが到着した。

「黒井川警部、ご協力ありがとうございます。私、長野県警の水谷と申します。あっ、もうお忘れですよね。8年前の事件の時の」

水谷と言う、女刑事は黒井川県警と馴れ馴れしい。

「あっ、あの時の1、2、3、4事件の?」

「はい、あの時の水谷です。巡査でしたが、今は警部補です」

「どうする。部屋を探って見ようか?」

「はい。そのつもりです」

パトカーはどんどん増えて、8台も停まっている。

鑑識がドアノブの指紋を採取していた。

コテージ周りを捜査していると、コテージの裏口が未施錠の状態だった。

そこから、黒井川県警と水谷警部補はコテージ内に入った。

検死の可能性も高いので、ワトソン君も部屋に入った。

特段、部屋に変わった様子はなかった。

黒井川警部は部屋でタバコに火をつけた。

「黒井川警部、渡辺さんはどこ行ってしまったんでしょうか?」

「さぁね」

と、灰皿にタバコの灰を落とした。その時、タバコの吸い殻の異変に気付いた。

「水谷さん。たぶん、殺人事件だね。これは」

「何故、分かるんですか?」

黒井川警部は灰皿を指差した。

「これ、このタバコの吸いがら。普通、タバコ吸ったら、フィルター部分が茶色くなるんだ。こんな風に」

と、自分のタバコの吸い殻を水谷とワトソン君に見せた。

「じゃ、この吸い殻って」

「犯人が、何かをカモフラージュするために灰皿に吸い殻を偽装したんだ」

「さすが、黒井川。さっそく、この灰皿を鑑識に回します」

「あのさ、水谷ちゃん。ここに来る途中に沼があったでしょ。明日でいいから、さらってみてよ」

「はいっ、了解しました」


黒井川警部は、キッチンに入った。

冷蔵庫を探り牛乳パックの賞味期限を確認したりした。

そして、オーブンを開くとそこには鶏の丸焼きが入っていた。

「黒井川警部、これって……」

「そう。この週末、渡辺さんは何者かとこの別荘に来てるね。そして、死んでるよ」

黒井川警部はまた、タバコに火をつけて旨そうに煙をふかした。

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