毒と嘘9
「あれ、飲みかけ? やだー勝」
「オマエが突っ込んだんだろ」
軽く口論しつつも和、勝、兼二、京一の順に引くと赤印がある棒を引いたのは京一。いつもなら歳上が優先的に当たり、年下は見て楽しむものだが今回は違った。京一を除く三人は何か知った上で引き抜いたのか。たまたま当たったかは定かではないが、京一は不思議そうに酒の染み付いた棒を見つめ手を上げた。
「和の旦那、毒もってやす?」
小柳の首を軽く腕で締め付け、のほほんとしてる和に顔を見る。
「あーあれね。部下殺すのに使っちゃった。めんご」
次、兼二。
「兼二は何か持ってるっすか?」
「警棒しかないな。あと、手錠と銃」
で――。
「狂犬」
「酒と間違えて持ってきた温めた硫酸3 過酸化水素水1の割合で、冷やしながらゆっくり入れると完成する
「バカっすか?」
「んだと、ぶっかけるぞ」
イライラしビリピリする空気に勝は、何処だっけなぁ~とわざとらしく部屋をふらつき壊れ崩れそうな棚から厳重に管理された瓶を手に戻る。
「ほらよ」
「マジもんじゃないっすか」
小柳から手を離すと逃げ出さないよう勝が携帯ナイフを突き付けながら渡す。
「好きなように使え。医療ミス見せかけの薬剤投与による殺人。それをベースにオマエがどう報復するかは自由だが、俺らを満足させる方法にしてくれ。つまらねぇ一般的な殺り方されてもなぁ。後味悪いしよ」
片手に軍手を填め、瓶を受け取る。しばらく見つめ、怯え血相変える小柳を見て何か思い付いたか口を開く。
「旦那が毒持ってたら飲ませようとしたんすけど、ねーっつんで“聖水”飲んでくれやすか。何十人もの苦しみを何日も何時間で感じるより、此方の方が一瞬で殺るんで楽っすよね? 生きるか死ぬかって言われたらヤベーすけど」
面倒ながらも笑う不器用な笑み。京一の言葉に小柳は首を振り嫌だと言う。
「ふざけんなーですよ。アンタ、何人殺してるんすか?」
小柳に問ったはずが和が「はーい。俺、知ってるよん。数年間で○十人」と誤魔化しながら返す。
「酷い時はご飯に何か混ぜて急死させたりしてたって話じゃないの。あ、これは京ちゃん情報。勝によると殺しも受けてたんだって? あらヤダー看護師さんも大変大変。自分の罪を擦り付けた可愛い子達からも“報復志願”来てる。てな訳でいつもより酷めに殺って貰って姿もろとも消えて欲しいなぁ~俺はぁぁぁ」
わざとらしく声を張り上げ、和は京一に目を向ける。京ちゃんは俺らの見てるから加減分かるよね、と目が合いウィンク。和の妙な視線に京一は身震いし、咳払いすると少しガナリな声で言う。
「あーっ。すんません、俺の提案ボツらしいんで少し変えます。狂犬、なんか大人一人入りそうな――」の言葉に兼二が小柳の背に向け静かに歩み出し警棒で一発頭を殴った。
「行くぞ」
ドサッと乾いた音に気絶し倒れた小柳を勝と和が二人係で引きずり闇へと消える。
「え、何も言ってねーすけど」
「何年一緒に居るつもりだ。考えそうなことぐらい分かる」
警棒を折り畳み、先に行く二人の足元を照らそうと懐中電灯を手に駆け出す姿に京一は笑うしかなかった。
「流石っすね、アンタらには勝てねーわ」
誰もいない空間に敗けを認める声。下から“京ちゃーん”と響く声に「はいよ」と歩き出す。
暗闇。
森のはるか奥か闇が濃い。
聞こえるのは虫の声と踏みつけ折れる枝。
病院を出て裏に回る。そこには誰が何の目的で掘ったのか分からない穴。深さは三メートル。いや、もっとある。その穴に腕と足を縛った小枝を投げ落とし、四人は目を覚ますまで腰を下ろす。
「此処、死んだ人を供養せずに埋めてたんだってさ。ゾッとしちゃうよね。でも、人を殺すには良い場所じゃない? 心霊スポットらしいし話題集めちゃったりして」
和の下手過ぎる怖い話に勝と兼二は興味ゼロ。立ち上がり、ダルッ、と文句を言うと席を外す。残された京一は和の話を聞きつつピクッと意識を取り戻す小柳に気付く。
やっとかよ、と戻ってきた二人の手には盛衰が入った瓶。。各自手袋を付け、一本ずつ手に取や蓋を捻る。
「おはようさんっす、小柳の旦那」
此処は――と状況を理解してない彼を呼び掛け顔を向けた瞬間、四人は一斉にビンを傾ける。ドボドボと内に空気が入り、押され流れ出る液体。それを小柳は上から堂々と被るとジュゥゥ……と皮膚が火傷のように爛れ、溶かす。
「グアッ……ゲボッゲボッ……」
痛い、と泣き叫ぶとことを期待していたが顔を上に向けていたため大量に飲み込む、舌含み喉を痛め付けたのだろう。声は一切聞こえない。ただ痛みにもがき、苦しみ座り込み必死に手を伸ばす姿に四人は微笑。
焼け、溶けた皮膚を膜のように纏った口が開き“タ……ス……”と許しを請う言葉。大和は「お代わり?」と口に目掛け液体を流す。顔面に掛かり「ブルだわ」と喜び笑うと焼ける匂いと溶け出す不快な匂いに鼻と口に袖を当てた。
「まだ、あんぞ」
遠慮気味な京一に勝は瓶を投げ渡し、殺れ、と顎で指す。すると、兼二が空になった瓶を目を失い、助けてくれ、と手を伸ばす小柳に投げ。頭に当たり笑う。
「湯加減が足りないそうだ」
それに答えるよう蓋を捻る。
「足りないっスか。じゃあこれでお湯加減いかがっすかね?」
ドボドボ、ドボドボ。
バシャ、バシャ、と。
初めは暴れていたがクモの巣に絡まる虫のように弱り、気付けは動かない。ジワリジワリと溶け、液体の中にしずむ死体を四人は静かに眺め、勝は記念にと自撮り。
「それ俺に送ってくれる。証拠品として見せるから」
勝に近づき、そっと囁くと「ん」と即座に送る。勝を覗く三人のスマホが一斉に震え、何故か四人のグループチャットへ。
「決まってるだろ」
自分の映りがいいと自画自賛の勝。
「んー俺も撮ろ」
和は自撮りではなくしっかりスマホのカメラに納め、満足げに笑う。
「京ちゃん、いつもよりも笑ってて良かったよ。さて、コイツをスコップで埋めて――皆で帰ろっか」
穴の横に盛られた土。
そこに刺さっている四つのスコップ。
ザクザクザッ――と刺し、被せる音が周囲に広まる。
「ガークちゃん」
夜明けと共に土だらけのまま四人は葉加瀬診療所へ。ガクは心配だったか待合室のカウンターで腕を枕に伏せ寝しており、起こそうと揺さぶるも起きず。ガクのスマホを手に取り赤外線で写真を送る。続けて、メモ帳に手を伸ばすと『雑草処理終わったお!! 大和』と書く。
「起こさねーの?」
勝がスリッパを見つけ腕を上げる。
「いいの、いいの。疲れてるだろうし」
はいはい、手を下ろして。と和は勝の腕を掴むと「旦那は優しいっすね」と眠そうに目を擦る京一。兼二は今にも倒れそうな今日のの首根っこを掴む。
「病院戻るの嫌っす」
「確かに帰るの面倒だな」
京一と兼二はじっと和を見つめ、勝も「帰るの面倒」と邪悪な笑み。三人の視線に薄く笑い「じゃあ、うち来る?」と肩を組み、楽しそうに時に喧嘩しながら事務所へ戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます