詐欺師7
会計を済ませ、ボーイに軽く挨拶して歩き出すと裏路地から人影。それは嫌な気配ではなく落ち着くものだった。手応えは、その言葉に肩を竦める。改心させようとしたけど無理だったよ、と残念そうに振り向く。じゃあ、殺していいか? 勝の殺意たっぷりな言葉に和はハッと笑う。
「俺さ、女性単体を狙うのは好きじゃないから。もう少し時間あげようかなって思ってるんだけど――。勝、クマやばいよ」
化粧で隠してるが指で拭うと真っ黒なクマ。
「ねみぃーの。取材続きで。っても今回の案件でSNSで呟いたり、直々に聴きに行ってるからな。寝不足万歳」
眠気で変なハイテンション。酒もあるのか機嫌を損ねたら何か起こそうな感じに刺激しないように言葉を選ぶ。
「あら、京ちゃん世話しながら頑張ってたのね。偉い偉い」
駅に向かおうと歩み、改札を通ろうとするも足を止める。勝、少し散歩しよ、と何かの気配を感じるのは別の入り口へ歩き出す。
「どうした」
和の行動に勝が背につき問い掛ける。
「俺の言葉が効いたかな。(部下が)ついてきてる」
あん? と振り向こうとする勝の足を踏むと足早にコンビニへ。商品棚に身を隠し、つまみを選んでる勝に言う。
「一緒にトイレ入ってくんない」
「は? 流石に大人二人はせめぇよ」
「勝、そっちじゃない。真面目な話」
策がある、と訴えかける和の目に勝は、分かったよ、手を上げとトイレへ。
「服のサイズ……大丈夫か」
「勝、細いね」
「アイツら呼ぶか」
*
コンビニで菓子を買い外に出ると黒ずくめの男が数人。横断歩道を渡り人混みに紛れるも日中ほどおらず、駆け出し閉店した薬局の建物裏に回ると待っていた京一が、伏せ、と落ちていた看板で男を一人叩く。二人目は兼二が後ろから警棒で殴り気絶。
「兼二――」
「いいぞ。その代わり給料上げろ」
終点迫る時刻。慌て駅に駆け込む人とは真逆な方向に二人。人多いスクランブル交差点を抜け、店立ち並び閉店で人もいない道へと誘う。街灯が少なく視界が悪いが逆にそれが吉と出る。二人に迫るは四、五人の人影。
「悪いが服は同じでも中身は違う。目的は和だろ。お前ら雑魚は此処で狩らせてもらう」
和の服着た兼二がゆっくり振り向く。警棒をシュッと勢いよく伸ばし、男達を見てニヤリ。誰を調教してやろうか、と一人ずつ差す。
一方、勝の服着た京一は腹部を押さえ唇を噛む。
「悪いっすけど……」
「構わん。静かにしてろ」
人のない静かな通りに響く鈍い音。
それはしばし続き、嘘のように消えた。
コツコツコツ――。
とあるオフィスにヒールの音が響く。明かりも点けず真っ暗で痼疾に入ると大きなデスクの引き出しを開閉する音が何度も繰り返す。
探しているのは資料か、リストか。
とても慌てた様子だった。
「何かお探しで、お嬢さん」
チカッと暗闇に明かりが点り、眩しさに彼女は手で影を作る。アナタ、と聞き覚える声にゆっくり振り向きハッと目を見開く。
「さっきぶりだね、喜楽里さん。来ると思ったよ。探し物ってこれかな?」
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