ミンチ事件4
ゆっくり大型のミンチ機の裏に視線を向けると隠れ、ニコッと笑う和の姿。機械のスイッチを入れ、靴底を鳴らしながら姿を現す。手にはサイレンサー付きの大型のハンドガン。引き金に指を引っかけクルクルと回しながら弄ぶ。
「社長、あの時はどうも。俺、結構化粧してたんでぞかし若く見えたでしょう。さっきあっても気づいてくれなかったから寂しくて着替えてみたけど如何かですかね」
黒髪、紺色スーツの化粧で若々しく見える。歩き方も背筋を伸ばし気だるそうな気配もない。
「ひっ……だ、騙したのか!!」
「騙した。いやいや、あの時の別件でたまたま弁護士やってたら雇われてさ。計画瞑れるかもって不安になったけど。まぁ、無罪になりたいって言われちゃやるしかないじゃん。仕事だし。俺はスゲェー嫌だったけど。犯罪犯したのに無罪主張とか弁護する側のことも考えろ。胸くそ悪すぎる」
腕を上げ、足を縛る鎖に銃口を向けた。
「あの時は“無罪主張”で“悪”になったが、今回は“正義”。俺のモヤモヤも解消。Win-Winってわけ。だから
ガチンッと銃弾が鎖に当たり大きく揺れた。
「ひぃぃっや、やめろ!! 殺す気か」
何重にも重なっているせいが一発では千切れず。情けない声に鼻で笑うと口を開く。
「兼二ぃ、俺の火薬減らしたろ」
悪態をつき狙いを定めるもハッと何か思い付いたか。何発でミンチになる、と三人に問いかけた。
「三」と勝。
「四」と京一。
「二」と兼二が口を開くとカートリッジを投げ渡す。弾があるにも関わらずカートリッジを交換すると不適な笑み。明らかにカートリッジの重さが違う。先程のは軽くこれは重い。オモッ、と文句言いつつ銃を向け再び狙う。
「い、いくらだ。いくらは払えば
此処だ、と引き金に力を込めた瞬間――呆れた商談。
「は?」
和のいかにも不機嫌な声で返すと勝は腹を抱え爆笑。京一は煩いと勝の足を蹴り、兼二は「バカが」と小言。
「万か、億か。金からいくらでも!!」
青ざめ必死な表情に和はニカッと子供のように笑う。
「今更遅い。許しをこうならやるな」
「じゃ、じゃあ――どうしたら許してくれる。死にたくない!!」
なんとしても生きたい。その言葉は呆れるほど聞いてきた和には無駄な言葉だった。和は三人は顔を合わせ、勝が狂った様に笑い怒なる。
「
妙な白け。
機械音がまだか、まだか、と唸る。
「ま、まさか――」
青ざめ真っ白な社長に勝は狂気染みた笑み。和は勝に銃を投げ渡す。
「許せなんて反吐が出る。アンタは裁かれるべきだ。アイツらの痛みを知れ」
その言葉と同時に構えるとパァンッと乾いた音が響いた。
鎖を砕いたのは“二つの弾丸”。一発は火薬多めの途中で爆発してもおかしくない弾。もう一つはスピード重視の低火薬。誰だと問う前に汚い音が室内に広がる。
痛みに耐えかね声を出す間も無く、ガリガリと骨の髄から削る音。グチャリグチャリと押し潰す生々しい音は手で肉をこねるより粘着質。投入口から逆流し溢れる赤い液体は噴水のように時より吹き出し、埃被った壁や天井、床をおめかし。
「兼二。悪い子」
「二回と言った俺の勝ち」
「あら、拗ねちゃって可愛い」
四人で出口を見つめ出てくるのを待つ。しばらくして引き裂かれた服や内臓と共に人肉が押し出される。細かく刻まれ、練られた社長の面影は何一つない。血が混じっているせいか光に反射。キラキラと光る、それは【赤い宝石】のように美しかった。
美しさに見とれる四人。
見るのが楽しくなったか。普通なら吐き気に襲われてしまうも、何も出なくなるまでその場から一歩たりとも離れなかった。
残りはないか、と勝が興味ありげに投入口を覗くと千切れた指先。うわっと驚き落ちそうになるも楽しそうにゲラゲラ笑う。夏の肝試しよりこえーわ、その言葉に室内が笑いに包まれた。
後日。
「報酬持ってきたぞ」
兼二がアタッシュケース片手に事務所へ。久しぶりにいい仕事だった、と思い浸り、デスクに伏せていた和は渋々体を起こす。テーブルに置かれたアタッシュケースに手を伸ばし、重さを確認すると妙に軽かった。
「さては、小切手だな」
多額なんだな、と期待膨らませ開くと目に入ったのは丸くなり、輪ゴムで留められた一万札。手取り思わず覗き込む。
「はい?」
驚くことも出来ず間抜けな声に兼二は素早く背を向け「報酬は依頼主の”心“なんだろ」とクールに歩き出す。そんな彼に和は目をパチクリさせ、やや間が空く。
「え、ちょっと……兼二。話し違くない?」
どういうこっちゃ、と追い掛けるも話を合わせたかのように京一がドアを開け、兼二と肩を組む。
「なに用だ」
DV、と殴る蹴るのジェスチャー。
「そりゃいかんな」
下手な演技に目を棒にする和。突っ込みたいが、俺ら取り込み中です、と言いたげな態度に目をそらす。二人が外に出ると代わりにブーツ底を鳴らし歩く音。
「どうした。どんずらか?」
ニターと笑顔で覗き込み、ヒャッヒャヒャッと魔女のような変な笑い。
「別に。俺、優しいから。皆の良いところ見逃すもんね」
金が、とは言えず腕を組む。強がる和に勝が悪そうな笑みを浮かべた。
「そうかい。んじゃあ、請求書。水道光熱費、家賃、俺らの給料。あと、自治会だっけ? 知らんが全て頼むわ」
テーブルに広がる請求書。その多さに和は血相を変え、助けて、と事務所を出る勝に飛び付いた。
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