捨て猫2

「え、なにそれ。笑えるんだけど」


 和の言葉にゲラゲラと四人の中学生が笑う。幼い顔立ちだが“The 反抗期”と言いたげな挑発的な言葉と態度。


「やばっ呼んだの誰? 草生える」


 ふざけ笑い、手を叩く。彼らの行動に普通ならカッとなるも和は無視。赤ちゃん言葉で猫と絡む。


「やんなっちゃいますにゃー。酷いでちゅね」


 いい年下壮年が赤ちゃん言葉。流石に本人も退くが俯き肩を振るわせ笑う。


「アハハハハッ」


 突然の笑い声に圧倒され、中学生らはビクッと驚き声を失うと「悪い悪い。流石に我ながらキモかった」と猫をダンボールに戻す。パンパンと手を叩き、腰を上げると静かに問う。


「この可愛い猫を痛め付けた・・・・・のってキミら?」


 それも低い怒り混じりな声。


「え、いやいや違いますよ。俺ら通りすがりで」


 焦るように中学生の一人が“違う”と手を振りながら言う。その言葉に「なー」と合わせようと声を出す彼らに和はスラックスの後ろポケットからスマホを取り出す。画面を点け、それを彼らに見せると顔がない青ざめる。


 和が見せたのは――一人が見張りとなり【猫に暴行する瞬間を捉えた動画・・】だった。


「これでも認めないか。親がこれを見たらさぞかし悲しむだろうな。あと、女の子を突き飛ばしたんだって? 本人から聞いたよ。ほんと悪い子だね。悪い子にはお仕置きしないと」


 スマホをしまい、軽く腕を捲り。今にも逃げそうな彼らに向かってガン飛ばしながら嗤い言う。


「許せと言っても許さない。彼らの痛みを知れ」


 流石に未成年のため殴ることは出来ず、本気で殴るふりして寸止め。または、本気で蹴りふりして寸止めとかなり手加減。しかし、風を切り迫る拳と爪先の迫力に負け、ドを越える恐怖に学生達は腰を抜かす。謝りたいのか、パクパクと口を開けるも声は出ない。


「なに、笑えるんだけど」


 と、小バカにされた言葉をそのまま返した。


「ご、ごめ――」


 一人が震えた声で言うと目を向け「物足りない?」とゆっくり近づきヤンキー座り。


「じゃあ、関節外そっか。すごく痛いよ。でも、毎日受けてた猫と比べたら――全然楽勝だよね」


 上腕と前腕を掴み、思いっきり引っ張る。バキッと生々しい音に白けると喉から絞り出す痛みに歪んだ声が響く。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ッ」


 その声にうっとりすると直ぐ様填め、優しく肘を擦る。痛みに踞る一人から視線を外し、近くにいたもう一人へ。


「皆やろっか。一人だけやんのヤダよね」


 ゆっくり立ち上がり、歩むと「来るな」の声に笑う。掴まれなくない、と振るう腕を強引に掴む。


「だって、暴行してたの君もでしょ。後ろの子もそう。大丈夫、ほんの一瞬だから。ほら痛くない、痛くない、痛くない――よね?」


 バキッと外れる音に喉が避けそうな声。それがあと二回・・続き、四人の耳を恐怖へ染め、トラウマへと変えた。


 和は顔を真っ青に座り込む四人を愉しそうに見る。早くどっか行かねーかな、と花壇に腰かけ足を組む。離れた場所から笑い声と女の子の声。その声に四人はハッと我に返ったのか。腕を押さえ、よろめきながら立ち上がる。


「もう弱いものイジメするなよ。親御さんに俺のこと言ったらお前らが猫イジメてたのバラすから。両者立場は同じ。憎いね」


 シッシと手で払うと「す、すみませんでした」と震えた声で謝罪。根はとても素直でいい子達だった。


「報復完了。勝、記事書けそう?」


 花壇の後ろにある目隠し様の植木。そこに顔を向けると葉っぱだらけの手が親指を立て、痛めぬよう掻き分けながら勝が出てくる。


「いやー子供は良いねぇ。大人よりも分かってくれる。俺らが汚れてるだけかなーんてな」


「もう少し言葉選びな」


「ハッ誰のお陰で近所の住民の不在や地域性の関係性、注意喚起とかやったんだよ。俺が居なかったらお前なんで暴力ジジィだ」


 前を通る女子中学生に変に見られながら二人は顔合わせ、静かに猫に視線を落とす。


 ミニャー。


「にゃー」と和。


 ンニャー。


「可愛いなぁ、お前」と勝。


 優しく頭を撫でるも飼う気はなく、しばらくじゃれていると依頼主の女の子が来た。


「あ、おじさん。カツおじさんも」


 猫ちゃんは、の声にダンボールを渡すと二人は歩き出す。


「わぁ!! ありがとー」


 その声に勝は手を振り、和が口を開く。


「礼はいらない。やるべきことをやっただけさ。大切に育てろよ・・・・・・・

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