第32話:うちにグローバル化の波は届かない

 自分に無い物に興味を持つのって、相手への興味の第一歩になると思う。俺には獣耳がないから、先頭に立って霊脈の乱れの元に向かってピコピコ動くコエダさまの耳がどうなってるのか凄く気になる。

 東京を超えて錦糸町まで進んだところでコエダさまが降りると言い出した。方位磁針で物を探した経験があるから分かるけど、たぶん示す方向が変わったんだと思う。

 ずんずん進んでいくコエダさまに合わせて、俺たちもその後ろをゾロゾロとついていく。


「おいメイジ。本当にあんな事をさせていいのか。俺も怪異や異能の存在とはそれなり以上に渡り合ってきたが、あれほどハッキリと顕現された土地神に拝謁したのは初めてだぞ」


 いいんじゃない。本人がやるって言ってたんだし。

 合流した村木さんはコエダさまに対して物凄く畏まった? 態度を取っていた。土地神に類する存在に対する態度としては当然なんだとか。

 コエダさま土地神なの?

 守護稲荷であって違うからそんなに畏まらないで良い?

 今は調査を優先せよ?

 だってさ。使えるものは使うんじゃなかったの?


「それでいいなら俺は構わないが……やり辛さはあるな。まあいい、なら割り切るぞ。

山中様。目標は見つかりましたか?」

「コエダで良いぞ。大体絞れては来たのじゃ。あの方角……ああ。分かりやすくバカでかい物を作りおって。あの建物の地下じゃな」


 コエダさまが示した指の先にあったのは、日本で一番大きな建物、スカイツリーだった。




 村木さんは目的地がスカイツリーと分かると、すぐに地下区画への入館許可を取ってくれた。異能の力は武器弾薬以上に被害が多くなる上に緊急的な事態が多いから、こういう特権的な事が許されているんだって。村木さんに連絡しておいてよかった。改めて思うと今までも村木さんには助けてもらっていたんだな。今度ちゃんとお礼言おう。


 俺はこの辺にはまだ観光にも来たことがない。秋葉原には一回だけ行ったことがあるけど、それ以東となると初めてだ。勿論スカイツリーも遠くから見たことはあったけど入ったことはない。

 足元まで来るとその大きさがより強調される。都会は凄いなー。こんな巨大な建造物を人の手で作り上げてしまうなんて。俺も崖を削ってそれっぽい物を作れたりしないだろうか。


 村木さんの話によると、スカイツリーは陰陽道的に東京の要の一つに当たるらしく、地下施設には儀式を行う祭壇があるんだとか。他には近場だと都庁、東京タワー、皇居にも似た施設があり、こちらの調査に合わせてそちらにも確認を送っているらしい。手際が良くて本当に凄い。

 ん。侵入痕。


「村木さん、アンジェラさん」

「分かってる」


 施錠こそかかっていたが、物理錠の次の魔術錠が突破されていた。


「――人の気配はない」

「確かか、アンジェラよ」

「念波を飛ばして反応を探った。少なくともこの入口より奥に人型の生き物は確認できなかった。小動物は居るみたいだけど」

「……殺鼠剤は別に散布させるとして、一応警戒は怠るなよ」


 アンジェラさんが俺を見つけた時にもやってた念の波を飛ばす術だ。自分の位置がバレバレだからそういう使い方してこなかったけど、確かにこういう時、何かを見つけるのに便利だなぁ。参考にしよう。

 元々地下だった場所からさらに二つ降りたところに儀式の祭壇があった。


「なんじゃこれは……?」


 呻くコエダさまの気持ちも分からないでもない。それは見た目に判断出来るものではなかった。

 祭壇の中央、霊脈の流れのちょうど中心に位置する箇所には、蜘蛛の足のように地面に突き立ち、胴体部分がアンテナのように広がった機械……中心部分からして槍みたいなものだろうか? が突き刺さっていた。

 流石にここまで近ければ何をしているのかも分かる。この装置で霊脈の流れを操作して、別の場所へ力を流動している。


「妙な絡繰りを作ったものよ。これを破壊すれば霊脈の乱れも元に戻るというもの。どれ」

「コエダ様、今しばらく」


 腕まくりして肩ぐるぐるしたコエダさまを村木さんがさえぎった。


「なんじゃ村木。さっさと壊さんと東京ごと海に沈むことになるぞ」

「見るに、そうした崩壊が起こるまで今しばらく猶予があると思われます。可能であれば下手人を捕えたく」

「悠長じゃのお。場所の特定ということか?」

「それもありますが、事が上手く運んでいるうちは心にどこか慢心があるのが人の常。破壊の準備は整えておき、確保と同時に行うが上策かと」

「なるほどの。まあ確かに、見た所、一日二日で何かが起こるような状態ではないが」

「御力により早期発見できたのが良かったのでしょう。下手人もこのような事態は想定していなかったはず」

「ふふん、奥卵の守護稲荷を侮るでないぞ」

「お見事にございます」


 おお。コエダさまめっちゃ得意気だ。耳も尻尾もご機嫌で、ちんまい胸を反らしている。実際凄い。


「メイジよ。場所は分かるか?」


 うん。いけるよ。

 桐原さんの時にダメだった魔術は改良済みだ。ここから流れ出している力の先を地図に当てはめてと……。


「両国国技館?」

「今は相撲はやっていないが人の出入りはそれなりにあるはずだ。と、いうよりこれは、休館中の隣の博物館ではないか? どちらにせよここからなら比較的近い。車を手配する」


 力の先はここから南南西、両国っていう駅の近くに向かっていた。


「二手に分かれましょう。コエダ様にはこちらでお待ちいただき、配下として手の者をこちらに向かわせますので人手が必要であればお使いください。下手人の元へは私、アンジェラ、メイジで向かいます」

「あいわかった」

「では連絡用の道具を持参いたしますので――」

「ああ、スマホでよければワシも持っておるぞ」

「……………………今しばらく。

 おい、メイジ。ちょっとこい」


 え、なに。めっちゃ引っ張るじゃん……。

 ちょっと離れた場所で村木さんは俺の頭を両手で掴んで顔を突き合わせてきた。目が座ってる。

 お前なんてことしてくれたんだ。土地神がスマホを持ってるぞ。何? 動画にも出た? 秘匿課の連中はそんなこと一度も、なに、チャットもできるしSNSもやってて相談事コーナーが大人気? 特に恋愛相談が人気? 馬鹿が、土地神様に人間の恋愛相談をするなどなんて畏れ多いことを! 神頼みはするのに相談はダメなのか? 屁理屈をいうな!


「……こちら、私の連絡先でございます」

「うむ。送ったぞ。ワシはここで吉報を待つ」

「て、手慣れている……」


 そりゃラヴィーネが付きっ切りで教えてたからね。


「稲荷もグローバル化の時代よ。そのうち海の向こうの守護共と交流もするようになるのかのぉ」


 あ、なんか村木さんが遠い目してる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る