第31話:説明書がお好き
「メイジ。お主と出会った時に霊脈が乱れていたというのは話したことがあっただろう」
そういえば出会った時なんかそんなことを言ってた気がする。俺の転移の所為だって言ってたやつだよね?
「うむ。あの時はそれが原因だと思うておったのじゃが、それが違うように思えてきた。修復して元の流れに戻したのじゃが、先ほどまた大きな乱れが生じた。どうも東の方で大きく崩れるような何かが起きてその影響が出たようでな。
故、調べに行くぞ。どうも次第に悪くなって、このままでは下手すれば地盤ごと沈みかねん勢いじゃ」
「それってここじゃダメなの?」
「流石に距離が遠いのじゃ。川の汚れは上流に行かねば原因が分かるまい」
そういうものなんだ。
服を引っ張られる感覚。なあにアンジェラさん。
「メイジ。有事は村木に連絡が必要。それから私にも手伝えることは? 危機が迫っているなら協力したい」
「そうだねメイジくん。協会の時は相談を省略したせいで迷惑をかけてしまったから、早めに連絡はしておこう」
あ、たしかに。何をするにしても村木さんに連絡はした方がいいよね。ありがとうアンジェラさん。タケシ。もうしてくれた? ありがと。でも俺からもしとくね。
「コエダさま。その乱れっていうのがどの辺りっていうのは分かる?」
「今はまだわからぬ。故に一先ず移動して位置を特定したいのじゃ。そこな色々デカい女も連れていくのか?」
デカい女て。
アンジェラさん手伝ってくれるの? わかった。
一旦新宿まで出てみて、そこで調べてみよう。
「ちょっと待て。私を置いていくつもりか? 世界が違うとはいえ私とて貴種。危機には立ち向かう心構えはある」
「ラヴィーネ。貴女のことは尊敬しているけれど、こういう仕事は貴女の舞台ではないと思う」
「アンジェ……いや、お前ほどの実力者が言うのならそうなのだろう。分かった。私は待機している。武運を祈る」
意味ありげに見つめあい頷き合った二人。
い、いつの間にそんな仲良くなったんだ二人とも。服の話で盛り上がってたのと連絡取りあってたのは知ってたけど……。
帰宅ラッシュってほどの時間じゃない浅い夕方の電車は、いくら中央線と言えども空いている。今日は中央線を行ったり来たりだな。
ラヴィーネは最近引っ越したっていうマンションに帰っていった。なんかちょっぴり不満そうな顔だったけど、あいつ姫であって戦士じゃないしな。危ないかもしれないことは俺みたいな頑丈なのがやるべきだと思う。
前に短い時間だけど、神社跡でラヴィーネの身の回りの世話してたっていうお爺さんと会った事があった。ほんとーにたまたま通りかかったときに出くわしたんだけど、都会の生活を色々心配しているみたいだった。
何かタケシのとーちゃんと知り合いだったみたいで、こっちで世話になってるのがタケシのとーちゃんだって知って少しは安心したみたいだ。妙な縁もあるんだなぁ。
ん? まてよ? だからラヴィーネと初めて会った時、タケシはあんなにグイグイ行ったのかな。あの時は都会のルールをよく分かってなかったからあんまり気にしなかったけど、今度聞いてみよ。
でもいいよなぁ、ああやって心配してくれる家族みたいな人が居るのって。うちはかーちゃんはずっと不貞寝してるし、妹は論外だし、従妹んちも俺の事全然気にしないだろうしな。
何かと世話焼いてくれるとーちゃんはそんな風に考えてくれてるのかなーないだろうなー。
さて気を取り直して。
「コエダさま。とりあえず新宿まで出るけど、コエダさまの言う東ってどのくらい東なの?」
「わからぬ。一先ず都に出ればどの程度の距離かは分かるはずじゃ。どこか程よく人気のない場所はないか?」
少し大きめのダボっとした服の袖からちんまい手で耳隠しの帽子の角度を調整しながら、アンジェラさんの膝の上に乗せられているコエダさまが訊ねてきた。にしてもアンジェラさん、俺の時もそうだったけど誰かを膝の上に乗せるのが好きなのか……?
人の少ない場所ねぇ。んー新宿ってどこも人が多いからなぁ。
あ、一か所あった。ケンイチ君とスケボーやったあの公園とか人があんまり居なかったよ。
「目星が付くならば目的地はそこじゃな。してメイジよ。お主霊脈についてどの程度造詣が深い?」
霊脈? 詳しいか詳しくないかって話なら、別に詳しくはない。
ただ霊脈って呼ばれている魔力の流れが土地にはあって、それを利用する異能力があることは知ってる。俺が使う転移の魔術なんかはだいたいそれで、水道と蛇口末みたいな物を想像してもらえばいいと思う。俺もこの説明が出来るくらいには都会の技術に造詣が深くなったのだ。あってるかは知らないけど。
「概要だけで詳しく何か知っている訳ではない、ということじゃな。まあそれでもお主に何か手伝わせる事もあるやもしれん。一応そのつもりで備えておくのじゃ」
この公園に来たのは初めて新宿を観光した時で、あれからもう4、5カ月経ってると思うとなんだか変な感じだ。あの時は暑かったけど今はもう寒い。
思った通り人影はあまりない。協会の人が使ってた人払いを使えばより確実だと思う。
「よし、少し調べるから待っておれ」
そう言ってコエダさまはムムムと耳をピコピコ動かしながら目をつむって何かを探り始めた。
俺もやってみるか。
霊脈っていうのはさっきも言ったように水道みたいなものだと俺は思ってる。
土地の地下に張り巡らされた土地そのものが持つ新陳代謝の管で、自然と出来るものでそれその物に意思はない。体の魔力を把握するように意識をそこに向ければ存在は感じられるんだけど、どーなんだろう。俺にはコエダさまの言う乱れっていうのがよく分からない。水質に拘る水好きみたいな人だと分かるんだろうか。奥卵の水はおいしいよ。
アンジェラさんは魔術は最近練習を始めたくらいなので感知には参加してないみたいだ。ぼんやりした目で辺りを見渡している。
「うむ。まだ東じゃな。だが近くはなってきている」
ぱちっと目を開いたコエダさまが言った。まだ東? 地図で言うとどのあたり?
「うーむ、奥卵との距離で考えると川の向こうではありそうじゃ」
「まだ移動するのね。もうじきムラキもここに来る。合流してから次の移動を」
アンジェラさんの提案に頷き、村木さんを待つことになった。
「ところでメイジ、アンジェラとやらよ。そのムラキとは何者じゃ?」
……そういえば村木さんにコエダさまの事なんて説明しよう。
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