第26話:その定義だとうちはまだ戦国
ごめん、帰りが遅くなると怒られるから、暗いし明日でいい?
うむ。それならば仕方ない。また明日の明るい時間にでも来るがよい。
「ただし! このまじないを受けよ。約束を違えれば貴様の身体は内から無残にも飛び散ることとなろう」
なんて言葉と共に別れ際、権能が振るわれた。身体が弾けるくらいならまあ、家の中とかじゃなきゃいいかなと思わなくもない。
まあそんな感じで、昨日はいかにも戦いに発展しそうな雰囲気だったけど、コエダちゃん? さん? は意外と話が通じる人? で、俺の言い分を受け入れて詳しい話はまた次の日にということになった。
言い出した俺が言うのもなんだけど、そんな口約束で次の日にしていいんだろうか。言っちゃなんだけどあんな権能、外そうと思えばいつだって外せるしな……。俺はちゃんと学校終わったら行くけどさ……。
そんな訳で放課後。スマホを緩衝材のタオルに包んでから鞄に仕舞いこんで席を立つ。割と真面目に最近セーサツヨダツの権をスマホに握られているような気がする。
「メイジくん。今日はうちくるの?」
「いんや、ちょっと山に用事があるから行けないわ」
「柴刈り?」
「そんな事勝手にしたら怒られるよ。日が沈む前にって約束だからちょっと急ぐね」
「はーい。アンジェラさんには連絡しておいてね。放っておくとうちに来るから」
「今日は都内で用事があるって言ってたから居ないと思うけど、一応後で連絡しておくわ」
いつかアンジェラさんにはヌメブラでリベンジしなくてはならない。収益金でズウィッチ買って練習しようかなぁ。いやでも家に持って帰ったら確実に妹に破壊されるしな……。
そんな事を考えながら道路沿いを走り、昨日の山道にやってきた。コエダちゃんさん? は足をぶらぶらしながら手ごろな岩の上に座っていた。ピコンと耳がこちらを向き、遅れて顔がこっちを向いた。
「む。来たか小僧。待っていたのじゃ」
今日も獣耳巫女さんの格好だ。こういうのってのじゃロリ(マサヒロ談)っていうらしい。そういうの抜きにしても妖怪の人と会話するのは初めてだ。都会には色んな人が居て凄い。
「妖怪ではないわ! 我は奥卵の守護稲荷、山中コエダじゃ!」
「俺、とーちゃんから式力だけで生きてる存在のことを妖怪って教わったんだけど、違うの?」
「違うわ! いや、そう大きく違いはしないが、ワシはそのようなちんけな存在とは核とするものが異なる!」
その割に身長は俺より低いみたいだけど……あ、そういうんじゃない? はい。
式力っていうのはよーするに魔力みたいなものだ。魔力ってのは現象に干渉するには一番普遍的っていうか汎用的っていうか、何でもできる素材なんだけど、式力はその中でも結果だけにフォーカス(かっこいい)した力の源なんだって。
だからたぶんコエダちゃんさんが言うバカでかい式力どうのっていうのは、俺がこの間ウイングスーツを着ているときに使った空気抵抗を減らす魔術の事だと思う。式力を意識する人からすると効果を発揮した瞬間の魔術がそう見えるんだと思って俺はてきとーに話を合わせていた。なんでかっていうとここを一々細かく言うと怒り出す輩が居るからだ。
まあうちのかーちゃんなんだけど。
「それで。殊勝にもこうして顔を出したからには弁明の一つでも聞けるのかの」
「いや、そういうんじゃなくて。ごめんね、大きな音出して」
「なんじゃお主は。そんなに素直に謝られては毒気が抜かれてしまうわ」
「動画の撮影とか配信で色々気が回ってなかったんだ。ごめんね、俺が悪かったよ」
「ま、まぁよいわ。どうがのさつえい? とやらであれば仕方あるまい。しかし今の世の人は皆お主のように空を飛ぶのか?」
「そんなことないよ。少なくとも俺は空を自由に飛べる人を見たことがないし。俺もあれ、別に飛んでたわけじゃなくてかっこつけて落ちてただけだからね」
「なんじゃそれは。どういうことだ?」
詳しく話さないと帰してくれなさそうなので、ウイングスーツの件から全部話した。空気抵抗がーとか仕組みはよく分からないけど、空を滑空するのに便利な服を着て、高いところから飛び降りてモモンガの真似をしていたという説明だ。
「はえー。今の世はそのような物があるのじゃな」
「結構珍しいものらしいよ」
「そのような多様性があるだけで人の世の進みが感じられるというものじゃ。昔は人の子と言えば畑、子作り、戦、商い、たまに祭りくらいなものじゃったからな。空を飛ぼう等と考えはしても事に起こしはせんかったろう」
一体いつの世の話なんだろう。歴史の授業で習った戦国時代とかだろうか。まあうちの集落だと今でも大体そんな感じだけど。
コエダちゃんさんはぽんと手を打って腰かけていた岩から飛び降りた。
「よし。決めたぞ小僧。ワシは人の世を見聞する」
「へー。いいんじゃないの。都会は面白いものがいっぱいあるよ」
でもどうだろう。その恰好じゃ目立つんじゃないだろうか。巫女は居ないことはないけど、獣耳を生やした人は奥卵じゃ見たことがない。秋葉原とか池袋には居たけど。
「なんと。その秋葉原や池袋なる場所には同胞がまだ暮らしておるのか。それは是非向かわねばな」
同胞? どーかな、別に魔力は感じなかったからただのアクセサリーだと思うけど。
まあ人が一杯居るし、観光してみるのもいいんじゃない。
「目的地が出来たのはいいけど、その服の方はどうするの? 目立って仕方ないと思うんだけど」
「それならば問題ない。オン!」
ぽわんと煙がのぼったかと思えば、なんとコエダちゃんさんの姿が小さな狐そのものになっているではないか! すげー! MARUTOの変化の術だ!
「これでどうじゃ? どこからどう見ても可愛い狐じゃろ」
「すげー! 変身した! すげー! うんうん狐。もうめっちゃ狐だよ!」
「うむ。ならばこれでよし。では行くぞ」
うん。うん? 行く?
「行くって何が?」
「何ってお主が案内するのじゃろう。我が領域で騒いだ迷惑料じゃ。まさか嫌とは言うまいな?」
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