第17話:うちの妹よりは全然マシ

「え、それじゃ殺して回ってた訳じゃないの?」

「貴殿、歳の割に思考が物騒だな……そんな恐ろしい真似できるわけないだろう!」


 戦い? が終わってジョナサンさんに詳しい話を聞いたところ、襲って回っていたのは事実だが、別に殺したりはしていないらしい。言われてみれば村木さんもやられたとしか言ってなかったな。

 確かに時間停止は念動力として相当強力な部類だと思う。対抗手段がないとその時点でお終いだからまず真っ先に対策するもんだってとーちゃんが言ってたから皆そうなのかと思ってたけど、意外とそういうものでもないのか……?

 ちなみに俺は念動力で時間を停止することは出来ない。だからそこは素直にジョナサンさんをリスペクト(かっこいい)だ。俺も練習してみようかなぁ。

 それだけ凄いことできるのに、なんで魔術師を襲って回ってたの? 別にやりたくてやってた訳じゃないんでしょ?


「じゅ、純粋な眼差しが心に響く……敗者は我であるし、その辺りの事情も語るとしよう」


 曰く、ジョナサンさんは元々A国の情報局勤めの職員で、念動力者ではなかったらしい。

 曰く、ある時ふいに念動力に目覚め、やっていくうちに時間を止めることが出来たらしい。

 曰く、念動力者を集めたエージェントに昇格となるが、訓練で時間を止めて一方的に勝つ所為で他の念動力者が敗北を認めたがらなかったらしい。

 曰く、ならば認めざるを得ないほどの結果を出してやろうと国内の念動力者を襲って回り、大体倒したので次は日本の魔術師で成果を上げてやろう。

 という感じでここまで来たらしい。


「余りにも奴らが我が能力を認めないがために優劣を決定づけただけの事。しかし我が能力が破られた今となっては奴らの言に一理あることが分かった。確かに我は基本をおろそかにして戦闘者としては二流もいいところであった」

「時間停止が効くんだったらそれが一番早いと思うけど」


 俺も次からはそうしよう。

 でもまあ戦ってる相手からしたら納得感薄いよな。向かい合ってると思った次の瞬間には気絶して終わってるんだから。それで勝ったって言われても、ってなるのも仕方がないとは思う。

 たぶん村木さんには効かなかったと思う。あの人初めから戦うつもりなら会話する前に避けられない規模の攻撃を先に出す人だから。顔も知ってたみたいだし、視界に入った瞬間に燃やしに来てたんじゃないかな。よかったね標的にしたのが俺で。


「日本のNINJAは恐ろしい……」

「あのぉ……A国にはあなたみたいな念動力者? がいっぱいいるんですか?」


 俺の会話を横で聞いていた桐原さんが訊ねた。村木さんの口ぶりだと日本にもまだまだ居るみたいな感じだったけどどうなんだろう。


「オゥ、ボーティガール。貴方も能力を?」

「は、はい。まだ全然使いこなせてないので練習中なんですが……」


 そう言ってゾボラの弦をたどたどしく編みこんで見せる桐原さん。


「器用な事をするのだな……Mrメイジ。この国の念動力者は皆このような訓練を積むのか?」

「他に見たことがないから分からないけど、俺が昔やってた練習ではあるよ。対物操作能力は上がったね」

「ふむ……? すまぬがボーティガール。それを貸してもらえるだろうか」


 受け取ったゾボラの弦に力を使って、見事に髪まで絡まってゴクーになるジョナサンさん。おお、最近出てきた神の気をどうとかこうとかした姿にそっくりだ。


「難しいものなのだな。そうか。私はこんなことも出来ていなかったのか……」


 そうつぶやくと、ゴクーの状態のまま何やら消沈した勢いでトボトボ歩いて行った。ゾボラの弦がカラフルな所為で髪がゲーミングPCみたいになっててちょっと面白い。

 あ。ゾボラの弦、持ったまま行っちゃった。どうしようか。


「どうしましょう……あっ、それよりメイジくんさん。さっき通話の途中で切ってましたよね」


 そういやそうだ。この後村木さんに勝手に戦ったことについてめっちゃ怒られた。




 翌日。そんなようなことが昨日あったという話をタケシにした際、DODOの奇妙な冒険という漫画を渡された。時間停止系能力についての一般的な考察の参考になるかもという話だった。

 読んでみて思ったのはデオは時間停止の使い方がイマイチだってことだ。

 時間停止系の能力は強力だからやっぱり真っ先に対策を考えなきゃいけない能力で、俺も妹にやられるまで対策しなきゃいけないって話を真に受けてなかった。次やられたときに喰らったふりして油断して近づいてきたところをボコボコにしてやったから実質五分だけど。まあそんな風に、時間停止の能力だけに頼って戦っていると破られた時に脆さが出るってことだ。

 じゃあ解呪出来る相手に使えないのかっていうと全然そんなことはなくて、『絶対に解呪しなければならない』から、使われた側には解呪の負荷がかかる。その解呪にしたってどんなに頑張っても『掛かった』のを確認してからやるので、時間停止の発動と全く同時とはならない。だから解呪まで掛かった時間の分だけ攻撃側は自由に動けるわけで、お互い分かった奴同士の時間停止はそうやって使われる。妹はバカだからやってこなくなったけど。

 よーするに、時間停止なんて道具の一つでしかない。そもそもどんなに強力な力であっても使われる前に倒しちゃえば問題ない。解呪できるのかどうかは知らないけど、戦いなれてる村木さんみたいな人だったらたぶんそうするだろう。

 それにしてもDODOは面白いな……時間を巻き戻して傷を治すのか。確かにアリだなそれ……。


「あっ、時間だ。タケシ、漫画ありがとうな。俺桐原さんの練習見る時間だから行ってくるわ」

「うん。帰るとき気を付けてね。また明日」

「おう。じゃーなー」


 山中さんにも挨拶して桐原さんとの待ち合わせ場所に向かう。最近じゃ桐原さんもやる気に満ちてて、約束の時間よりも早く例の公園にいるくらいだ。昨日みたいなことがあってもいいようにゾボラの弦の予備も結構持ってきた。さて、今日は上手くいくようになるかなぁ。


「遅いぞMrメイジ。我はすでに準備万端だ。早速トレーニングを始めるぞ」


 なんか増えた。

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