第2話:うちの近所に10万人もいない
それからというもの、平日の間に動画の種を考え週末に投稿する習慣が出来上がった。
投稿している動画は大分して二種類。
一つが最初に撮ったパルクール系。
俺としてはこんな地味な動画を見て何が面白いのか分からないのだが、タケシの勧めもあって続けている。こっちは主にタケシプレゼンツ(覚えた言い回し)の動画群だ。
撮影場所は近所のどうってことのない障害物だったり、見晴らしのいい場所だったり、タケシの家だったりだ。そのうち都会に行って撮影したいと思っている。
もう一つが物真似系。
漫画とかアニメで見た技や術の真似をするっていう動画。なんでかそういう動画がなかったので、この分野に関しては俺が先駆者だ。
最近はタケシの家でやったテレビゲーム(ぱそこんのもにたあ? でやるのになんでテレビなんだろう)の格闘ゲームの技をシリーズで投稿している。はどーけんが好評だった。あんな初歩の射出魔術の何が面白いんだろうか……リュウがやってるんだから誰かしらできるんだろうに。俺的にはサイコークラッシャーが格好いいと思うんだけど、今の俺じゃ真似できなかった。親父なら出来そうだけど、これ相手を攻撃するだけなら絶対射出魔術撃った方が強いよな……。
そんな感じで一か月はあっという間に過ぎた。そして今、俺とタケシはドキドキしながらスマホの画面を見つめている。
「……おっ! 登録者数10万人突破したよ!」
「おっしゃー! やったぜー!」
タケシ曰く、動画のくおりてぃもさることながら「稼いだ広告費で自分のスマホを買うために頑張っています」っていうチャンネルの説明が健気で受けているらしい。よくわからんけど自分専用のスマホが買えるならなんでもいいや。
大体10万人超えたらスマホ買って月額料金払ってもお釣りがくるくらいの金額になるらしいから目標にしていた。これで俺も自分のスマホから動画を投稿できるぜ!
しかし10万か。生きていてそんなでかい数字と直面すると思っていなかった。うちの畑で採れる野菜の中で一番多いのはメキルワッサヒなんだけど、それにしたって植わってるの数えても100ないくらいだ。それの千倍なんて言ったらメキルワッサヒに埋もれて窒息しそう。
「う~ん、でもこれだけやって10万人かぁ。正直動画の内容を考えれば1000万人超えてもいいと思うんだけどな……」
「マジかよ。人間ってそんなに暮らしているのか」
「なんか発言だけ切り取ると魔界の住人が現世に現れたみたいでちょっと面白いね」
魔界の住人って時々出てくるって話をとーちゃんから聞いたことがある。よくよく考えると魔界ってどんなところなんだろうか。うちの集落より田舎ってことはないだろうけど、都会ほど栄えた場所ではないだろうな……そう考えると、嫌な奴が多いと噂の魔界の奴らにおのぼりさんとして親近感が湧いてくるぜ。まあたぶん魔界も田舎ってことでいいだろ。
「ともあれ10万人突破だ、乾杯しようぜ!」
「うん。かんぱ~い!」
今日もタケシんちのジュースがうまい。あと山中さんはおっぱいがでっかい。
明くる日、今日はいよいよ俺のスマホを買う日だ。なんかネットでぽちっとするだけで買うことが出来るらしいが、折角なのでお店で買うことになった。
なんでネットのページでクリックすると買い物が出来るんだろう……? あのページに家妖精みたいな感じで人が住んでるのか……? だとすると俺たちのチャンネル登録者数も納得だ。きっとあの登録者数の中の何割かはネットページの家妖精達に違いない。ネットページの受付? なんて暇そうだからな。
まあお店については正直俺には何が何だかわからないのでタケシ任せだ。でもスマホを選ぶときは真剣にやろう。
「メイジくんはどんなのがいいっていう希望ある?」
んー、見た目はあんまり拘りないんだけど、光の反射は抑えた方がいいだろうから黒があれば黒一択だな。光沢もない方がいい。後はとにかく頑丈でいてほしい。落とす心算はないけど、登下校時の飛んだり跳ねたりで壊れるようだと持ち運びが辛すぎる。
「登校で飛んだり跳ねたり……? まあとにかく丈夫な奴で黒系ってことね。スペックとキャリアは配信のこと考えてまあまあいい奴でメジャーな奴にしておこうか。あとはスマホカバーっていうか飛んだり跳ねたりするなら鞄の中で固定した方がいいかもね」
「その辺はよくわかんねーから任すわ」
スペック(カッコイイ)
キャリア(超カッコイイ)
意味は全く分からないけど、なんだか今日はタケシが一層輝いて見えるぜ。
「すみませーん。予約の花開院ですけど」
「いらっしゃいませ。こちらにおかけください」
おお。端に置かれてない感じが凄い大人だぜ! でも大人に敬語使われるとなんか緊張するぞ。
それからキャリア(超カッコイイ)がどうとか機種がどうとか色々やって、ついに念願のスマホが手に入った!
「うおおおおスマホだー!」
「よかったねメイジくん」
「家でもある程度使えるように気になったページは全部オフラインで保存しておこう」
「その機能使ってる人初めて見たよ……」
当たり前だがうちの集落には電波なんてないからな。そもそも電気がない。
あ、でもこれ従妹に見つかったらおもちゃにされるかもしれない。アイツ不器用だからすぐ物壊すしな……加減間違えてすぐ半殺しにするし……認識阻害の魔術は念入りにかけておこう。やりすぎると自分で見つけられなくなるから注意が必要だけど。
これでよし。ようやく自分のスマホが手に入った。俺のスマホ生活はこれからだ!
「新スマホ第一弾はお礼の動画にしようぜ!」
「メイジくんのそういうところ、すごくいいと思うよ」
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