《アイテム化》スキルで美少女吸血鬼を手に入れた!
内藤悠月
《アイテム化》
――《アイテム化》が発動しました――
――【アーティファクト・ミニオン:真祖吸血姫】を入手しました――
数ヶ月前、突然胡散臭いスーツの男に異世界へ放り出された時には死んだかと思ったが。
この世界に来て手に入れた力である《アイテム化》という、パッと見釈然としない名称のスキルによって私は命を繋いだ。
《アイテム化》は最高だった。
前提をすっ飛ばして利益を得る。
脅威を排除し身を守る。
その両方を一挙に実現するチートスキルだったのだ。
その効果はアイテム化。
名前そのまんまだが、そもそもこれはモンスターからアイテムをドロップさせるためのスキルではない。
モンスター……いや、対象をアイテムにへと変じさせるスキルなのだ。
順番に説明しよう。
1つ目。
この世界のモンスターは人の手によって倒されると光の塵となり、アイテムにその身を変じさせる。
いわゆるドロップアイテムである。
《アイテム化》はそうではない。
生きた対象をそのままアイテムに変換する。
倒すプロセスもなく、直接、相手の状態にかかわらずアイテムになる。
2つ目。
人間、ないし人間に分類される生物はアイテムにならない。
モンスターを殺すよりも獲得できる経験値量は多いらしいが、ろくでもない話に繋がりそうだから詳しく知らない。
《アイテム化》は人間もアイテム化できる。
この仕様のおかげで盗賊団やたちの悪い犯罪者を利益に変換できた。
3つ目。
通常倒されたモンスターがドロップするのはモンスターに由来する素材や肉、魔石、そして道具類である。
ドロップアイテムテーブルのようなものが存在し、モンスターごとに落とすアイテムが決まっている。
当然《アイテム化》は違う。
モンスターそのものをアイテムとして入手する。
姿形をそのままに、所収者の自由に扱えるアーティファクトとなるのだ。
変換される過程で中身はほぼ別物になるが。
4つ目。
《アイテム化》によって手に入れられるアイテムは【アーティファクト・ミニオン】となる。
この【アーティファクト・ミニオン】はダンジョンの宝箱から稀に見つかるレアアイテムで、所有者に絶対服従のゴーレム……のようなもの、だ。
機能はものによって異なるが、共通しているのは装備枠に装備する装備品扱いだということだろうか。
装備枠を通じて主の命令を読み取り、行動を実行する人形。
それが【アーティファクト・ミニオン】である。
一応、派生スキルである《アイテム化:スキン》や《アイテム化:ジョブ》では別のアイテムを作り出せるが、私のレベルが低くてまだ獲得していない。
《アイテム化:スキン》は能力含めて対象になりすます皮が作成可能で、《アイテム化:ジョブ》は相手の職能をはぎ取ってアイテム化できるらしい。
5つ目。
《アイテム化》によって手に入れたアイテムは、アイテムとしてしか認識されない。
それの元がなんだったかなど、誰も気にしないし、気にすることができない。
だってそれがアイテムだから。
アイテムであることは確実だから。
一応この認識阻害は《アイテム化》を知っていると影響を受けないようだが。
これのせいで《アイテム化》した賞金首の賞金をもらいそこねた。
これが《アイテム化》である。
【アーティファクト・ミニオン】はレアアイテムなため、装備しているだけで手数がモデルとなったモノの強さに比例して増えるため、高位の冒険者や金を持っている貴族に飛ぶように売れる。
だから俺はダンジョンに飛び込んで目についたモンスターを片っ端から《アイテム化》。
それを発掘品買い取りの店に売り続けることで日銭を稼ぐことに成功した。
持っていることを知って奪いに来たやつも片っ端から《アイテム化》した。
普通に高レベルで強かったので、今では俺の装備枠で護衛の役割をしている。
【アーティファクト・ミニオン】はモノにもよるが知性を持っている。
当然人型に近ければ近いほどその知能は高い。
どの【アーティファクト・ミニオン】も道具然とした思考回路をしていて、感情らしい感情は持ち合わせていないのだが、道具という意味ではそれがいいのだ。
所有者の認識していない不意打ちや突然の事故や襲撃に冷静に自動的に対応できるためだ。
しかし、通常の【アーティファクト・ミニオン】ではこの辺、経験を貯めないと対応速度が遅いこともある。
だが、《アイテム化》の場合元となった対象の記憶を経験として引き継ぐので柔軟な対応が可能。
なんなら元が人間なら人間のふりまでできる。
【偽装の指輪】なんかでステータスをごまかしてやる必要はあるが。
他にも【アーティファクト・ミニオン】はアーティファクトなので多少の損壊は時間経過で修復されるし、特にコストらしいコストも必要ないのがいいところだ。
《アイテム化》で入手した【アーティファクト・ミニオン】でも食事や睡眠も不要。
寝ずの番もいらねえ。
そりゃ飛ぶように売れるよこれ。
貴族か高位冒険者ぐらいしか買えないぐらい高額とはいえ、あまりにも便利すぎる。
【アーティファクト・ミニオン:大灰狼】なんかモッフモフだしな。
乗ってもいいし、ソリを引かせてもいいし。
ああ、あとね。
女性型だとその。
あれ、できるんですよ。
そりゃ売れるだろうよ……!
それを量産できる《アイテム化》、チートスキルすぎるぜ……!
まあ女性型モンスターはレア中のレア。
一応トラップ型のモンスターには女性型の疑似餌をつけたモンスターもいるらしい。
しかし《アイテム化》ではトラップの類には対応できないのでそっちには行ったことがない。
稼げるからって危険をおかせるわけではないのだ。
中級のスケルトンの類でも【アーティファクト・ミニオン】にしてしまえば高値で売れるので稼ぎの材料はもっぱらアンデッド系だ。
こいつらは動きが単調で、速度も遅いので目視での《アイテム化》が簡単である。
そんなわけでダンジョンの32層でアンデッドを《アイテム化》していると。
それに遭遇してしまったのだ。
ダンジョンには危険徘徊種と呼ばれる、見かけたら即逃げろとギルドで警告されているモンスターが複数いる。
それらはダンジョンの各地をウロウロしていて、しかもどの階層で出くわすかとかそういう情報がない。
どうも気分で移動している場所を変えているというのが定説。
俺が出会ったのは、吸血鬼だった。
しかも真祖と呼ばれる、最も力の強い吸血鬼。
美しい白銀の長髪をたなびかせた、黄金の瞳を持つ美少女。
貴族然としたそのドレスからは闇のようなものを溢れさせていて、これが高位のモンスターが持つ魔力の質なのかと驚くばかり。
普通の魔法ならば周囲を漂う闇に触れるだけで雲散霧消してしまうだろう。
それは私を見て、笑った。
にたりとあざ笑うように、獲物を見る目で。
だから《アイテム化》した。
普通に死にたくない、というかお互いに初手即死技しかないので当然こうなる。
――《アイテム化》が発動しました――
――【アーティファクト・ミニオン:真祖吸血姫】を入手しました――
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