第276話 再会
ドゥン……!
あちこちで、爆炎が上がる。それはノットの放つ炎の斬擊を、私が指パッチンの炎で相殺しているからだ。
どちらの威力が優れているかはこの場で決めることではないが、決まった角度で決まったタイミングで攻撃を打ち込めば、たとえ威力が下であって相殺することは可能だ。
ここは、村の中とはいっても外れに位置する。ちょっとくらいの騒ぎを起こしたところで、村人は気づきもしないだろう……が、さすがにここまで暴れてしまえば、異変に気づくだろう。
まあそれで、誰かが止めに来たとしても……飛び火で死ぬだけだ。その時死ななくても、ノットを始末すればどのみち殺しに行くけどね。
「ちっ、さすがは私の炎だ……簡単には抜けねえか」
似たような力を持っていれば、勝負は余計に長引く。似たようなとはいっても、私のはノットから奪ったともいえるものだけど。
そのノットは、謎の自画自賛をしている。
「っ……く……!」
だがまあ、抜けないのは私も同じこと。接近戦では互いに傷つき傷つけることもできないほどに均衡している。だから、距離を取ったわけだが……
右腕が新しく生えてきたことで、呪術の黒い腕は生える場所を失った。変幻自在に伸び縮みする腕は遠距離の相手にはいい攻撃手段になった。まあ、私の意思には従わないけど。
一方、このノットの腕から放たれる炎は……ちゃんと、私の狙った通りに放たれる。だから、精度は増したってことになる。
それでも、元がノットの炎なのだ。本人を前に、届く可能性は低い。やっぱり他の手段を探すしかないか。
こうしている間にも、意識のないユーデリアはどんどん衰弱している……はずだ。幻覚の中で死んだと言うけど、こうして見る分にはただ眠っているだけ。目を覚ますんじゃないかと思えるのだ。
ただ、もし本当に死んでいるのなら……いくら手を尽くしても遅い。逆に、幻覚の中で死んでいる仮死状態ってことなら……まだ、完全には死んでないってことだ。
私がユーデリアを助ける道理はないけど……直接の復讐すべき相手に殺されるってのは、死んでも死にきれまい。故郷を、仲間を、家族を焼き殺したのだ。
そんな相手に、手の届きそうな距離で、一矢報いることもできずに死ぬなんて。そんな虚しい終わりはない。
だから、まだ完全に終わっていないのなら……早くノットに、目覚めさせる方法を聞かないと。あの紫色の霧を発生させたのが、というかあの霧がノットの呪術なら、死んだ者の目覚めさせ方だってわかるはず。
本当に、死んでなければね。だから、時間が惜しいって言うのに、近づけない……
「ははっ、どうした英雄サマ! そんなんで私を殺せるとでも思ってるのか? 私を殺したきゃ、もっと……」
「つーかまーえた」
いつ終わるとも知れない、ノットの猛攻。あるいは私の体力が完全に尽きるまで……そう思っていたが、終わりのときは、突然に現れた。
何者かが、ノットの背後から体当たりをかました……いや、あれは、抱きついている? 背後から、腰辺りに軽い力でタックルするように、抱きついている。
なんだ、あれ……誰だ、あれ……ノットの仲間か? ……それにしては、ノットも驚いた顔をしている。背後の人物に、気づいてなかったと言わんばかりだ。
それは、暗殺者であるというノットに気配も感じさせず……背後まで、迫ったということになる。むしろ気配を消すのは、ノットの
それともやはり、仲間だから気を許して……?
「っ……誰だ!」
驚いた様子のノットだったが、一呼吸置いたあとに体を捻るようにして、背後へと斬りかかる。あ、あれはマジのやつだ。
腰を回転させ、その勢いに乗せて長剣で背後の人物を斬る……はずの斬擊は、しかし空振った。背後には、誰もいなかったのだから。
なぜなら、ノットの腰に抱きついていた人物は……
「もー、いきなり斬りかかってくるなんてひどいなぁ」
「!」
ノットの腰に抱きついたままだったのだから。腰に抱きついたままなのだから、そりゃ体を反転させようとそこにいるわけがない。あの勢いのままずっと抱きついていたのかってのは予想外だけど。
その人物、女性は驚くノットを尻目に、ゆっくりと離れていき……
「久しぶりだね……ノット」
「?」
親しげに、ノットに声をかけた。人間……かと思ったけど、頭には動物の耳が生えているし、お尻にだって尻尾が生えている。獣人だ。
あれは……タヌキ、か?
どうしよう、今のうちに仕掛けた方がいいのかな……けど、あのタヌキ獣人が何者かわからない以上、迂闊に動くのは危険だ。ならば、少しでも回復に専念するか……
それに、ノットと知り合いなのは間違いないようだし……
「……誰だ、お前」
……あれ、知り合いじゃないのか?
「ひどい言いぐさだなぁ……私は一日だって、あなたのことを忘れたことはなかったのに」
「!」
しかし、浮かべた笑みを……不敵ともいえるその笑みを見た瞬間、ノットの表情をが変わる。今まで気づかなかったものに、はっとして気づいたかのような。
やはり、心当たりがあるってことか。
「お前……まさか……」
「やっと思い出してくれた? ねぇ、ノット」
「……なんで、生きてるんだ……ローニャ」
なにやら、因縁がありそうな二人。暗殺者ノットに、タヌキ獣人の謎の女性か。知り合いだけど仲間では、ないようだし……ここで、潰しあってくれれば楽なんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます