第219話 ここから決着を



「せぇえええ!」


「おぉおおお!」



 拳の打ち込みが、繰り返される。三つの拳が、互いの拳を、突き抜けて顔を、殴打していく。


 三つのうち一つは、私のもの。二つは師匠のものだ。繰り出される二つの拳に対して、一つしか使えない私は数の面で不利だ。


 私が一撃放つタイミングで、向こうからは二擊が入ってくる。なんとか体をかわして急所を避けてはいるけど、それでも体のあちこちには当たる。


 右腕はもうない上に、右肩から生えている呪術の腕は、師匠の呪術の腕により押さえ込まれている。加勢は期待できない。


 そして……師匠の使う呪術の腕は、もう一本ある。先ほど掌底打ちで吹き飛ばしていたそれは、体勢を立て直したのか再び迫ってくる。


 つまり……襲い来る拳の数が、二つから三つに増えたということだ。



「くっ、ぅ……!」



 次第に、形勢はこちらが押されていく。単純な数の差というのは、案外もっとも厄介だ。


 このままじゃ、押しきられるだけ……なら……!



「ふっ!」


「!?」



 体の中の魔力を集中させ、発動。目の前の師匠を突風で吹き飛ばす。


 普段ならばこんなもの、耐えていたんだろうけど、私を殴るのに集中していたのと……それ以上に……



「ぬぅ……アンズ、お前魔法を……?」



 師匠は、私が魔法を使うとは知らない。なんせ、私が魔法を使えるようになったのは師匠が死んだあと……再びこの世界に戻ってきて、マルゴニア王国への復讐を終えてからなのだから。


 こんな痛む体では、魔力に集中することもできない……そう思っていたけど、案外すんなり出せたな。もう痛いのに体が慣れたのか、別の要因かはわからないけど。


 呪術は勝手に出てきたけど、魔法もこのタイミングで使えるとは運がいい……そういえば、呪術と魔法を同時に使ったことって、あったっけ……



「アンズ、魔法を使えるのを隠して……? いや、お前はそんな奴じゃないな……それにこの魔力……どこかで……」



 私が魔法を使えたとしたら、隠しておく理由がない。それは、先ほど呪術を隠していたのでは疑惑を一瞬持った師匠と同じことだ。


 今はどうあれ、あのときは仲間であったみんなを助けるためなら、なんだって使っただろう。わざわざ魔法を使えたのに隠しておきはしない。むしろ、魔法をが使えるようになっていたら、みんなに自慢していたことだろう。



「まさか……エリシアの……この魔力、エリシアの?」


「……」



 ありゃりゃ、気づいちゃったか。この魔力は、私のものではなく、エリシアのもの……エリシアから、奪った形になったもの。


 師匠にも、これが誰の魔力なのか、感じる力はあるってことか。それとも単純に、旅を共にした仲間エリシアのものだから、わかったってことなのかな?



「アンズお前、エリシアを殺したのに飽きたらず……魔力まで、奪ったというのか!」


「ひどい言いぐさだなぁ」



 まあ、そう言われても仕方ない状況だとは、思うけどね。エリシアを殺したのは事実だし、私の意思じゃないにしろエリシアの魔力の源、つまり目玉を食べたっていうのは、事実だ。


 うっ、思い出したらまた気分悪くなってきた。



「やはりお前はもう、昔のお前じゃないんだな……!」


「だから、今更だよ……!」



 突っ込んでくる師匠に向け、魔力で風の刃を作り、放つ。無数の殺傷力のある刃が、標的を切り刻むはず……



「おぉおおおお!」



 バキャッ……!



 はず……



 ベキッ!



 …………



 ボギィ!



「ダメか……!」



 風の刃は、ことごとくを打ち落とされてしまう。しかも、殴って。風の刃は、見えないとまではいかないけど透明に近く、ただ輪郭が見えるだけだ。それを、ただ殴り飛ばすとは……


 しかも、ちゃんと殴っても切れないように、殴るポイントを押さえている。切っ先や刃先の部分は避け、峰や平の部分を殴ることで拳が切れないようにしている。


 その上、拳は三つあり、呪術の手に至っては単純に握りつぶしている。痛くはないのだろう。


 ……っと、感心してる場合じゃないか。



「なら、これで……!」



 体の中の魔力を集中させ、火の玉をイメージ。バスケットボールほどの大きさのそれを、ぶん投げ放つ。これは、当たればその瞬間爆発を起こすものだ。しかも、その範囲は狭く、間近にいる師匠はともかく私にまで被害が及ぶことはない。


 これならどうか……



「ふんぬ!」



 迫る火の玉へ、なんの迷いもなく拳を放つ師匠。拳が触れた瞬間、火の玉は爆発し師匠を巻き込む……はずだったが。



「ぬるいわぁ!」



 拳は、火の玉に激突。瞬間に爆発するが……その爆発が、一瞬にして消えた。爆発する直前に、かき消えたのだ。


 まさか……拳による衝撃波で、爆発ごと火の玉を滅したのか。



「やっぱりむちゃくちゃな……!」



 遠距離の直接攻撃は、意味がない。薄々わかってはいたよ……この人は、魔法や剣術、弓矢のような遠距離からの攻撃を持たず、それでいて絶対の防御力があるわけでもない。


 ただその肉体のみで、戦場を駆け抜けた男。小細工が、通用するはずもない。ならやっぱり、この人を本気で倒すためには……



「拳には、拳で……」



 魔力により、体の身体能力を引き上げる。下手な小細工なんかもういらない、魔法も呪術も知ったことか。太刀打ちできるのは、この体一つのみ!


 ここからは、単純に力と力のぶつかり合いで、決着をつける!

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