勇者パーティーの旅 ~魔王へと至る道~
第5話 在りし日の思い出
少し、昔話をしようと思う。昔、とは言っても、ほんの一年前の話だけどね……
「うぅん……ふわぁ。今日もいい天気だなー……」
いつもの朝。決まった時間に、セットしていた目覚まし時計が反応し、眠っていた意識を覚醒させる。カーテンの隙間から差し込む日の光は、開いた目を覚まさせるには充分だ。
それは、いつもの朝。起きて、身支度をして、リビングに行って……そこには、すでに起きていたお母さんとお父さんがいて。ご飯を食べて、その最中に妹のあこが起きてきて。
「んんー……ふぁあ、おふぁよ……」
「おはよ。あこは、相変わらず朝弱いよねぇ」
「ほら、ちゃんと顔洗ってきなさい。少しはお姉ちゃんを見習いなさいな」
「はっは、まだまだ子供だなあこは」
食事中、朝のニュースを確認しながらも些細な会話を交わしていく。一般的に、高校生ってのは反抗期が来るイメージがあるけど、家族を鬱陶しく思ったことはない。他の家庭のことはよくわからないけど、ウチはわりと仲が良いのではないかと思う。
こうして家族揃って食事をするし、会話だって盛り上がる。晩御飯だって、家族が揃うときには揃って食べるし、その時にその日一日の出来事だって報告する。
仲の良い家族。いつも美味しいご飯を作ってくれるお母さん、厳しいときもあるけど優しいお父さん、私より二歳年下でかわいいかわいい妹のあこ。何気ない、いつもの光景。
学校に登校する時間になると、家を出る。「いってきます」「いってらっしゃい」……いつもの、やり取り。
登校中、クラスの友達を見つけ、挨拶する。いつもの登校の道を歩き、学校へとたどり着く。その頃には、周りは当然生徒だらけ。知り合いとは挨拶を交わし、先生を見かけても挨拶をしていく。
これでも私は、先生からの評判はよかったりする。媚びたりしているわけではない、ただ私が正しいと思ったことをやっているだけだ。
「おっはよー!」
教室に入り、開口一番に挨拶。それに対しての、反応は様々だ。素直に挨拶を返してくる人、わざわざ声をあげてまで挨拶しようとはしない人、手を振り返してくれる人……
教室での私の立場は、悪くはないと思う。かといってクラスの中心に立つタイプでもないのは自分でもわかってる。あくまで、目立たずかといって人受けは良く、みたいな存在になれればいいなと、思っている。
いつも通り友達と喋り、いつも通り授業を受け、いつも通りお昼ご飯を食べて、いつも通り放課後になって……
「杏ー、今日カラオケ行かない?」
「ごめーん、今日は彼氏と帰る約束してるから、また今度ね!」
クラスには友達がいる。高校生になる前から、付き合い始めた彼氏がいる。自分で言うのもなんだけど、私の日常は結構満たされていたんだと思う。
それでも、これを満たされていると感じるのは、ずっと後のことになるんだけど。当時は、これが普通なんだと、そう思っていた。
私は部活には所属していない。運動神経いいのにもったいない、と周りからは言われるけど、今のスタイルをわりと気に入っている。
彼氏は部活をしているから、一緒に帰れるのは彼氏の部活が休みのときくらいだ。待っていてもいいんだけど、そこまで私も暇じゃないし。ちなみに彼はサッカー部に所属している。女子から人気が高いのが、彼女として少し鼻が高い。
「お待たせー、帰ろ!」
彼とはクラスが違うけど、迎えに行く時間さえ楽しくて仕方がない。私が声をかけると、周りから冷やかされる彼氏がかわいくて仕方がない。
家に帰宅しても、そこにはお母さんがいる。少し経てば妹が帰ってくる。夜にはお父さんが帰ってくる。
学校でも、家でも。私は、満たされている。それに気づくのは、まだ少し先のこと。これが幸せなんだと、本当に知るのはまだ少し先のこと。
私に幸せを教えてくれたこの光景に、感謝するのは……まだ少し先のこと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます