僕と名無し彼女の七日間

片野一

一日目(木)

風がびゅんびゅんと吹いている中、遅刻ギリギリまで寝ていた自分を後悔しながら、僕は立ち漕ぎで橋を上っていった。

橋の上は想像以上に風が吹いていて、信じられないほどの寒さだった。


前を走る女の子もスカートを押さえているように見えた。大変そうだなと他人事のように思っていたら、その女の子が手袋を落とした。

落し物は拾わなければいけない、それくらいの常識は持ち合わせていたので声をかけた。

「すいません、手袋落としましたよ。」

「あ!ありがとうございます!」

と前の女の子は自転車から降りた。


目が合う。

ん?どこかで見た事があるような気がするけど...いやいや、そんなことより、

「めっちゃ可愛い。」

いつの間にか声に出てしまっていた。

彼女は少し照れて、頬を赤らめながら嬉しそうに笑った。

こちらまで赤面しそうになり、

「ごめん、遅刻しそうだったんだ。じゃあね、気をつけてね。」

と声をかけ、自転車にまたがった。こういう時に強がらず、連絡先くらい聞けるような男になりたいと心底思ったが、

「本当にありがとうございました!」

と後ろの方から聞こえた声すらも可愛かったので満足した。


橋を下り始め、何となく後ろを振り返ってみるともうそこに彼女はいなかった。


...冷静に考えよう。心の中で言い聞かせるが、言うことを聞かない。名前も知らない彼女に一目惚れするなんて有り得るのか。


いや、もう二度と会うことは無いだろう、と言い聞かせ、遅刻の言い訳を考えることにした。

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