初実戦とレベルアップ

[天音 優]


(ここは、どこだろう)

真っ暗だ。自分が闇に取り込まれたと錯覚してしまう程に周囲は真っ暗だ。

自分は白い椅子に座っていた。

そして目の前には自分が、天音 優が黒い椅子に座っていた。


『やぁ天音 優君』

「....」

『君はいつまでそちら側に座っているつもりだい? この人殺し』

「...人殺し..?」


目の前に座る天音 優はニヤニヤしていた。

この状況を楽しんでいるようだった。

ただ彼の目を見ていると引き込まれそうになってしまう。

彼の目はハイライト無く闇そのもの。


『酷いなぁ。誰?って顔しちゃってさ。俺は君なのに』


彼の声を聞くと頭が痛くなってくる。


彼が指を鳴らすと彼と僕の間に血だらけの女性がうつ伏せで現れた。

何故かこの女性に見覚えがあった。

その女性の頭を彼は踏み


『この人ほんとにうざかったよね~』


ガッ


彼は死体を僕の方に蹴る。

うつ伏せだった女性の死体が仰向きになり...


「お...母さん..?」


その顔を見た瞬間に、頭が割れるんじゃないか、と思えるほどの頭痛が天音を襲う。


「が、ぁぁああぁぁあああぁあ!!」


激痛に耐え切れずそのまま意識が遠のいていく。

意識を落とす前に笑い声と共に聞こえた気がした。


君の選択を見ているよ、と。






目が覚めた。

そのままベッドの上から飛び降りトイレに駆け込み便座に顔を突っ込む。


「お、おぇえええええっ..!!」


あの夢の中に現れた死体の顔が頭から離れなかった。

出すものはすべて出し切り水で口を濯ぐ。

まだ吐き気が酷く鏡を見ると顔色も優れなかった。

部屋に戻り窓の外に目を向ける。

今は朝の5時頃。

クラスメイト達はまだ寝ている時間。

あと2時間は寝ていてもいいだろうが、寝る気にはなれなかった。

ベッドの上で休んでいると吐き気が少しマシになってくる。


「何だったんだろう..あの夢は..」


死体の顔を見た瞬間に。


頭に手を当てる。

(頭痛はもうしない..)


じっとしているとこのことばかりを考えてしまいそうなので訓練場に足を運び、魔法の実験を始める。

天音が今考えているのは自分が持っている短剣に風を纏わすことが出来ないか、言うなれば持っている短剣にエンチャント的なのができないかを考えていた。


試しに鋭い風、敵を切り刻む風をイメージしながらそれを短剣に纏わせる。


「...うわっ!!」


短剣に纏わりそうだった風が弾けて後方に軽く吹き飛ばされる。


「痛い..」


短剣を握っていた右手の甲に切り傷が出来ていて少量の血が出ていた。

その傷を無視しもう一度風を短剣に纏わそうとする。


(頑張って生きるためにも力をつけなくちゃ!)


正直少し焦っている自分がいた。

また、日本にいたときのようにこの世界でも生き残れないんじゃないかと。

ステータスも他のクラスメイトに比べると天音のステータスの方が高いとは言えないのが現状。

なら他のみんなより先に知識を付けてそれを自分を守る力に変えないと...


(また、また、あの時のように)


須藤との一件を思い出していた。


(生き残るために..!)


「...っ!!」


他のことを考えていたせいで集中力を欠き、またも失敗し後方に吹き飛ばされる。

先ほどよりも強く吹き飛ぶ。

脳が揺れる。立つことが出来ず地面に寝ころびながらなぜ失敗するのかを考える。

短剣に風を纏わすことは出来ているのに風を留めておくことができない。

それにMPが消費が多くずっと短剣に風を維持しておくことが今の天音のMP量ではできない。


「はぁ~...風魔法のレベルが足りないのか、それとも...」

(僕に才能が...)


ネガティブな考えになっていることに気付き頭を振る。

考えていると時間が経って立てるようになっていた。

今日は大迷宮探索がある。

その迷宮の1層と2層に行くと聖騎士長が言っていた。

ちなみに女子陣が聖騎士長に名前を聞きその時にロベルトと聖騎士長が名乗っていた。

みんなはロベルトさんと呼んでいたが一部のクラスメイト達は聖騎士長と呼んでいた。


聖騎士長って呼ぶの少しかっこいいよね...


天音も聖騎士長と呼んでいた。

まだあまり会話はしたことはないがクラスメイトのメンタルケアなどもしているところを見る限り悪い人ではない気がする。

【クリーン】を自分にかけて訓練場を後にする。

ただ【クリーン】を使っても血の汚れは取れても傷が消えることはなく傷口は赤く血が滲んでいた。

自分の部屋に戻ってメイドさんに絆創膏的なのがあるか聞こうと思いながら歩いていると、とある少女に声を掛けられる。


「天音君!!」

「...柴宮さん」


後ろを振り向くとそこには柴宮さんが立っていた。

手にはハンカチを持っておりトイ..お花を摘みに行った後なのだと分かった。


「天音君こんな朝はやくにどうし..!? どうしたのその傷!」


なんとなく訓練をしていたというのは恥ずかしく咄嗟に噓をついてしまう。


「さっき、転んじゃって。 あはは...」


恥ずかしい理由を隠すために嘘をついたのにその嘘も恥ずかしい理由だった。

恥ずかしいなぁ..なんて思っていたら


「大丈夫? 折角だから治してあげるよ!」

「いやこのくらい大丈...お言葉に甘えようかな」


大丈夫と言おうと思ったのだが回復魔法を見たいという好奇心があるのと他には、治したそうにしている柴宮さんの上目遣いが少し可愛くてという理由もあり治してもらうことにした。


「かの者に癒しの雫を【ヒール】」

「暖かい..」


柴宮さんが傷に手を振れ詠唱をするとみるみる傷が無くなった。

何故か手の甲に暖かさを感じて声に出してしまった。


「これで大丈夫だね」


笑顔が眩しい。

久しぶりにこんな笑顔を向けられた気がした。


「柴宮さんありがとう。それにしても回復魔法ってすごいね。軽い傷とは言っても傷跡が綺麗さっぱり消えるなんて...まるで女神様みたいだね」


柴宮さんが固まっていた。

少し顔が赤いような...


「し、柴宮さん大丈夫?」

「え! だ、大丈夫だよ! そ、そろそろ朝ごはん前だから友達起こしてくるね!!」


柴宮さんの俊敏60ダッシュの速さを見て、「俊敏ってやっぱり大事だなぁ」と思った。


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[食堂]

朝のご飯を食べ終わり、聖騎士長ロベルトが話し始める。


「この後は昨日説明した通り、大迷宮に行く!不安な子もいるだろうけどその辺は安心してくれ聖騎士長である僕と聖騎士団の数名と一緒に探索しに行く。ちなみに1層や2層なら君たちだけでも突破できるだろう。念のためだが帰還石を君たちに渡しておこう」


全員に配られた帰還石。


「これを手に持ち大迷宮内で【帰還】と叫べば大迷宮の入り口に転移する魔法石だ。これはすぐに取り出せるようにポケットに入れておいてくれ。アイテムBoxを持っている子もだ。」


アイテムBoxのレベルが低いせいなのかそれともそういうものなのかはわからないが取り出すのは少しラグがあるため瞬時に手に持つことは出来ない。そのためズボンのポケットに入れておくことを余儀なくされる。正直、激しく動くときに落としてしまいそうで怖い。


「じゃあそろそろ大迷宮に向かおうか」


ロベルトの言葉で全員が椅子から立ち上がり部屋を後にして城の外に出る。

召喚されてから一度も外に出ることが出来なかったためクラスメイト達は外にある露店や住宅を見て談笑していた。


「天音!あの剣めっちゃかっこよくね!」


田中君もテンションが上がっているようだ。

田中君が指さしていた剣は真っ赤な燃え盛る炎を表しているかのような剣だった。


「かっこいいし切れ味が凄そうだね」

「だよな!俺は剣術スキルがないから使えないしなぁ」


この世界の装備品全般は誰でも装備できるなんて物ではなかった。

装備者のレベルが足りていなければ本来の力を発揮しない装備や持とうとするとはじかれたりしてしまう。

装備品にはそういった制約があるので今クラスメイト達が装備している武器などは訓練兵用の物だ。

ただ勇者は全ての武器を扱うことが出来るらしく勇者だけ王城にあった武器を装備していた。

ただ、唯一装備できない部類の装備品があるらしく魔の付く装備品は身に着けることが出来ないらしい。

例えば魔剣とか。


(魔短剣ないかなぁ...いつか見つけて装備したい)


そんなことを妄想しながら歩いていると大迷宮の入り口に到着する。

入り口付近には冒険者と呼ばれている人達がたむろしていた。

ちなみに、大迷宮の入り口付近はアイテム屋や武器屋が並んでいる。

そこかしこで冒険者の笑い声や話し声が聞こえてくる。

聖騎士団が入り口に近づくと周りの冒険者は静まり返りひそひそ話が聞こえてくる。

「あれが召喚された勇者達...」「弱そうじゃね?」など聞こえてくる声は馬鹿にした声が多かった。

理由は二つ。見た目が若いのと装備が普通。

この二つのせいだろう。

ただ喧嘩を売ってくるような輩は居なかった。

聖騎士に目を付けられたくないのだろう。

聖騎士団に入れるのは実力者だけと決まっている。

今この場にいる冒険者達には馬鹿は居ないようだった。


大迷宮の入り口前でロベルトが点呼を取り終わり全員が大迷宮へと足を踏み入れる。


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[アスタリア大迷宮]


大迷宮の中は洞窟のような感じだった。

ただ足元は比較的整備されているのか歩きやすく平らな大理石タイルが敷かれている。

1~5層はFランクとEランクの弱い魔物しか出ず、初実戦の経験を積むには丁度いいと言われている。

20分間ほど歩いて出会った魔物の合計はEランクのホワイトウルフが10匹とゴブリンが10匹程度。

1人1人で魔物を相手にしていてその様子を見ている限りみんな圧勝だった。

特に勇者の久保田 海君に関しては瞬殺も瞬殺。

ホワイトウルフが勇者に向かって駆け出しそれと同時に勇者も駆け出す。

勇者は駆けてくるホワイトウルフにタイミングを合わせ大振りの斜め切りを繰り出す。

タイミングは合い、ホワイトウルフは真っ二つ。

勇者の初戦闘は終わり、そして2層へと続く階段を降りる。

みんな「余裕だよなぁ~」や「魔王もこれぐらい弱かったりしてな!」などと談笑していた。

2層でも同じ魔物に出くわし

「..ホワイトウルフ」


天音がどうやって倒そうと悩んでいると後ろからいつも僕のことをいじめていた須藤とその取り巻き二人ががやを飛ばしてくる。


「お~い天音く~ん~もしかしてビビってんの?w」

「助けてくださいってお願いしたら助けてやるよ~?」


クラスメイトの何人かは須藤達の言葉を聞き笑っていた。


(正直普通に倒してもいいけど、少し魔法の実験台になってもらおうかな)


須藤達のがやは無視して目の前のホワイトウルフに集中する。

今朝練習していた短剣に風を纏わせるのはまだ出来ないが魔法を乗せてそれを飛ばすことが出来るんじゃないかとみんなの戦いを見て思っていた。

イメージを固めているとホワイトウルフが駆け出し天音に襲い掛かる。

ホワイトウルフの動きをしっかり目で追えることを確認し終わり、足に力を入れホワイトウルフの突進を軽く躱す。すかさずバックステップを入れ距離を取り、ホワイトウルフに向かって短剣振ると同時に魔法を唱える。


「【ウィンドウカッター】!!」


一振りすると短剣から風の斬撃が飛び出す。

ホワイトウルフは避けることが出来ず首から上が飛び地面に落ちる。


(よし!!!)


ちゃんと自分で考えた通りにできたことで小さな達成感を感じていた。

自分のステータスを見ると変化が表れていた。


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天音 優 男 人間 Lv,2(+1up)


ジョブ「   」


MP:50(+200)


筋力:30


防力:100


体力:35(+5up)


敏捷:95(+5up)


魔力:35(+5up)


スキル:言語理解lv1・短剣術lv,1・闇魔法lv,1・青魔法lv,1・風魔法lv,2(+1up)・光魔法lv,1・アイテムboxlv,1

・物理耐性lv,2・魔法耐性lv1・危機察知lv.2・偽装lv,3・混合魔法【クリーン】


固有アビリティ:与えられし心臓・二面性


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━


ステータス数値と風魔法のレベルが上がっていた。


握っている短剣を見て思う。


(もっと、強くなりたい)

と。

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いじめられっ子の成り上がり 璃々宮志郎 @ririmiyashirou

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