第28話.修行
「ねぇ父さん?」
「んっ、なんだいリュート?」
ストーンへの質問に対しロザリアが返答するいつもの様子である。リュートにとってはこれが当たり前の日常であり、ロザリアに返答しつつもストーンに話しかける。
「父さんはとてつもなく素早い動きの人と戦ったことがあるかい?」
「素早い動き?素早い動きってどんな感じだい?」
「いや、俺もよく分からないんだよ。ハリーさんがこないだは革命軍に拉致されただろう」
「あぁ、あの話かい…」
「で、こないだハリーさんを救出にアディーシュ村に行ったんだけど」
「でも、ハリーさんは無事だったんだろ?」
「うん。だけどすごい傷でさ、それでハリーさんに理由を聞いたら革命軍のリーダーにやられたらしいんだよ。」
「革命軍のリーダー?」
革命軍というは言葉に反応する、ストーン。
「うん。その傷が凄くてさ」
「革命軍のリーダーはそんなに強いのか?」
「ハリーさんが言うにはホーク以上だって言ってた…」
ホークという言葉を聞き、眉間にしわを寄せるストーン。
「ホーク以上ってそんなに体のでかい男なのか?」
「いや、どちらかというと華奢で女みたいらしい。実際、彼の声を聞くまでハリーさんは男か女かわからなかったって言ってたよ」
「華奢?華奢なのにホークより強いのか?」
「うん、話に聞くと凄く素早いらしい。ハリーさんは正直何をされたか分からないって言っていたよ」
「そうか…」
「だから父さんにアドバイスを聞こうと思って…」
「確認なのだが?相手は本当に華奢なのだな?」
「うん、そういう風に話は聞いている」
「で、あれば問題ない」
「えっ、本当に父さん?」
「あぁ…お前の剣術は一撃必殺の剣だ。ホークのように力任せに打ち返された場合、その剣術は本領発揮することがないが、相手が華奢である以上、おまえの攻撃が当たりさえすれば確実に勝てる」
「すごいじゃないか!ねぇ、リュート!!」
ストーンの発言に興奮するロザリア。しかし、ロザリアだけでなく、リュートも興奮していた。
「じゃあ、父さん、俺はどうしたらいいんだ」
「よし、いい機会だ。私が直接お前に稽古をつけよう」
「本当かい父さん!」
「あぁ、だが、お前も今は騎士団の団長を務める身だ。私と稽古をするからといって、はい、そうですかとすぐにできるものではあるまい。だから、その辺の話はしっかりと筋を通してからだな」
「うん。わかったよ」
次の日先日のストーンとの話し合いをロベルトにしてみた。
「ストーン様が直接稽古をつけてくれるだって!」
「うん、父さんが言うには革命軍リーダーの対応なら問題ないと言ってたよ」
「えっ、でもハリーさんがホークより強いって言ってなかったか?」
「うん、それもね、言ったんだけど、父さんが言うにはジャンケンみたいなもんだって言ってたよ」
「ジャンケンか…」
「俺のような一撃必殺の剣術はホークみたいに力任せに打ち返される相手には弱いらしいんだ」
「力対力になるからか…」
「そう、どうしても力vs力になると、どうしても力のある方が有利だからね」
「でも、今回の敵は驚くほど素早いんだろ?」
「うん。でも父さんが言うには、相手に俺の剣を受け入れるだけの力がないのであれば、俺の剣が当たりさえすれば確実に勝てるって」
「そうか、だからその剣を当てるための訓練っていう形だな?」
「そっ、なんか父さんが言うには感覚を研ぎ澄ませる訓練をするらしい」
「じゃあ、俺も、ハウル隊長に久々に稽古をつけてもらいに行くかな?」
その日の昼に騎士団宿舎にて革命軍とのの今後に対する会議が開かれる。
「先日のハリー隊長救出についてだが、幸いハリー隊長を助けることは出来たのだが、そのハリー隊長から革命軍についての知らせを一つ聞いた。」
革命軍その名前を聞いて辺りがザワつき始める。
「ハリー隊長が言うには、革命軍のリーダーのカルマはホーク以上の腕前らしい。そして、決戦の日は近づいているとも言っていた」
「リュート団長革命軍との戦いはいつ起こるのでしょうか?」
リュートの言葉を聞き団員が次々と質問をし始める
「正確に何時だということは判明されていない。しかし、革命軍との決戦が近いのであれば、我々もこのまま手をこまねいているわけにもいかない。」
「リュート団長では、どういった対応を取るのでしょうか?」
「とりあえず私は革命軍リーダーのカルマとの対戦を考えた修行することにした」
「おぉ~…」
辺り一面からザワつきが聞こえる。
「だから、皆の者も各々考え得る対策を立てて各自訓練してもらいたい。もちろん、我々のメインは国の警備である。そちらの方をおろそかにすることを忘れないでもらいたい。」
「リュート隊長はどのような修行をされるのでしょうか?」
「私か?私は感覚を研ぎ澄ます修行をしようと思っている。カルマはホークとは違い力ではなく、速さを武器に戦う相手だ。だから私はカルマの素早さに対抗できるよう、感覚を研ぎ済まそうと思っている」
そう語りながら先日、ストーンに聞いた修行の話をし始めるリュート。
「皆のものも自分の得意分野を磨いてもいい。苦手な所を磨いてもいい。来るべき戦いに備え各自己を磨いてほしい。」
リュートが修行は想像していたものと全く違うものであった。
最初に聞いた話の中でこういう形だろうとリュートとなりに想像していたが、リュートの想像している修行とは180度違う全く別物であった。
「ねぇ、父さん?」
「どうした?」
岩山の上にあぐらをかきながら、リュートがストーンに問いかける。
「父さんとの修行ってどんなことをするんだい?」
「どんな事だと、お前は変わってるな?もう既にしてるじゃないか?」
「もうしているって、俺たち今の上に座って目をつぶってるだけじゃないか?」
「そうだ。」
「そうだって父さん、これの何の意味があるのさ?本来修行ってのは体力をつけたり剣を振るったりとか、そういうことするべきじゃないのかい?」
「それに関してはお前は十分にしているではないか?私の剣をお前は軽々と降り回す。それにお前はあの重い鎧を気にせず動けるではないか?」
「そうだけど…」
「そのお前に今更体力をつける訓練や剣を振る練習は意味がない」
「じゃあ、普段の訓練は無意味ってことかい?」
「いや、そうではない。私の言い方が悪かった。お前には普段やっている訓練以上にその修行をする意味がないと言う意味だ。そこの部分に関しては、お前は既に十分な力を持っている」
「だからそういう訓練ではなく、岩に座ってるということ?」
「そうだ。お前に今必要なのは、感覚を研ぎ澄ますという事だ」
「感覚って、ただ座ってるだけで何もわからないよ」
「ただ、座ってるだけでは何もわかるまい。しかし、目を閉じてゆっくりと深呼吸をしているうちに、風の音、鳥の声、さまざまなものが耳から入ってくるはずだ。その音を感じるのだ」
「音…」
「革命軍のリーダーはとてつもなく素早いのだろ?」
「うん、ハリーさんがそう言ってた」
「しかし、どんなに彼が素早くとも必ず音をたてる。その音がある場所に敵はいるはずなのだ。そこにお前の剣が当たれば、彼はおまえに敗れるだろう」
ストーンのその言葉を聞き、リュートの言葉が詰まる
「どんなに素早い相手であろうと、彼はお前のように重装備をしていない。そして、お前のような剣術も持っていない。それであれば、お前の攻撃が当たった時点で勝負は決する」
「だから、その感覚を研ぎ澄ますための修行がこれって事?」
「まあ、これだけではないがな、後々剣も振ることにはなるが、今はまず感覚を研ぎ澄ます事だ」
ストーンの話を聞き不安が軽くなったのか、余計なことを考えることなく、リラックスすることができた。リラックスして初めてわかることだが、耳をすませば色々な生き物の声が聞こえる。木々の擦れる音、鳥の羽ばたき、虫の鳴き声、川のせせらぎ、様々な音が耳から入ってくる。ストーンが入っていることは、こういうことなのだろう。少しずつリュートは自然と一体化していく。
ブォン!
「イテッ何するんだよ。父さん?」
「ハハッ、リュートはまだまだだな?」
ストーンが棒の切れ端で突然リュートの頭を叩く。そのことに対し、文句を言うリュートの顔見てストーンが笑う。
「何がまだまだなのさ…」
「リュート、森の音は聞こえるようになったか?」
「うん、なんとなくだけど、いろいろな音が聞こえるようになったよ」
「そうと思ったから、次の段階に移行したのだ」
「次の段階って?」
「次の段階は攻撃の音を見極めることだ」
「音…」
「そうだ。攻撃にも様々な音がある。相手がお前を攻撃するために動く足音、お前を斬りつけようとする時に出る風を切る音、他にも様々な音が出る。その音に気付き、対応するようにするのが次の段階だ」
「全ての音に気づく…」
「全ての音に気づけるようになった時、お前の敵はいない」
「父さん、俺頑張るよ」
それからストーンとのマンツーマンの修行が始まった。ストーンとの修行は楽しかった。日々の肉体的訓練と違い、楽しみながら修行することができた。時にロザリアも加わり遠くから石を投げてくる。最初はリュートに当たるのではないかとオドオドしながら投げているロザリアであったが、リュートがロザリアの石を弾き返すようになると、ロザリアも楽しそうにリュートに目掛けて石を投げるようになった。はたから見ると変わった家族がじゃれていようだった。家族で和気あいあいとしていた修行だが、数週間もするうちに、リュートは風の音を聞き分けるようになっていた。
「リュートあんたすごいじゃないの?」
「母さんが手伝ってくれたおかげだよ」
ロゼリアの投げた石を軽々と弾くリュート。その姿を見て心底感心するロザリア。修行ももう佳境に近づいていると言っても過言ではない。そんな姿を見て、ストーンも満足そうに笑みを浮かべる
「リュートは大したもんだ。まさかこんなに早く風の音をマスターするなんて…」
「そりゃアタシの自慢の息子だからね」
ストーンの褒め言葉を聞き心底自慢げに語り始めるロザリア。親バカは健在である。
「リュート、他のみんなに関してはどうなんだ?」
「他のみんなも個々に訓練をしてると思うんだけど、ロベルトに関しては俺と似たような修行をしてるみたいだよ」
「ロベルトはハウルに修行つけてもらっているのか?」
「うん、そうだよ」
「であれば納得だな。今回リュートにした修行は私もハウルも同じ時期にやっているからな」
「そうなんだ…」
「うむ、やはり突き詰めていくと、敵の気配を探る。ここに重点が置かれるのだ。私の場合は敵の気配を察知し攻撃、ハウルの場合は敵の攻撃を察知し受けるっていう形だな」
「2人は昔からの知り合いなんでしょ?」
「そうだな…ハウルは私の過ちを許してくれた男だ…」
ストーンはそう言いながら遠くの方を見つめている。そして、そのストーンを見つめながら、ロゼリアは懐かしそうに笑っている。ストーンの口から次の言葉が語られようとしたその瞬間、事件は起きた。
「リュート団長大変です。」
息を切らせながら、団員がリュート目掛けて走ってくる
「どうしたんだ。そんな大慌てて」
「革命…革命軍の基地が見つかりました!」
「なんだって!!」
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