第23話.最悪の事態
「なんだと?またか…」
「はい、今度は西にあるウルティ村と東にあるユーミ村です。」
「また、同時期にか…」
ハウルからの知らせを聞き、項垂れるストーン。正直ここ最近は休む暇もなく馬で走り回っている。疲れのピークはとうに超えているが、無視するわけにもいかない。
「しかし、今回は二箇所か…」
「はい、おそらくなのですが向こうも勝負をかけてきたのだと思います」
「だろうな、これで疲弊した騎士団であれば確実に勝てるという確証があるのだろう」
「ストーン様どうしましょうか?…」
「今回も二手にわかれて行こうと思う。」
「いやしかし、それだとホーク達とであった場合に片方が全滅する可能性も出てきてしまいます」
「しかし、それ以外に方法はないだろ?」
「いや、いっそのこと片方の村を見捨ててもう片方の村に力を注ぐという方法もあります」
「何を言ってるんだ、お前は!」
ハウルの意見を聞き、ストーンが怒り出す。
「しかし、ストーン様、我々はこの国の盾です。我々が負けるということは、これから先、この国の者達を助ける者がいなくなるということになるのです」
「わかってはいる。私もわかってはいるんだ」
「でしたら、ここはご決断ください。1つの村を犠牲にするかもしれませんが、それをする事により、この国が守られる確率が上がるのです。」
普段であればストーンの意見に反対することのないハウルだが、今回の件に関しては別であった。実際に王宮騎士団が破れてしまった場合、この国を守る盾が無くなり、この国の国民がより困難な状況に陥るのは目に見えている。そこの部分を考えると、ハウルの意見の方が圧倒的に正しいのだ。
「わかっているのだハウル…しかし私はもう二度とこの国の国民達を裏切りたくないのだ…」
「ストーン様…」
ハウルは以前のストーンを知っている唯一の人物で、ストーンにとっても一番信頼できる腹心である。そのハウルに対し、ストーンが頭を下げた。
「頼む、ハウル…私に力を貸してくれ…」
ストーンが頭を下げた瞬間ハウルは覚悟した。そもそもストーンが変わった時にハウルは、ストーンに一生ついていくと決めたのだ。その男と一緒に散るのものそれも良しと覚悟を決めたのだ。
「分かりましたストーン様。このハウル、どこまでもついていきます」
「そうか…ありがとうハウル」
ストーンの作戦はこうだった。報告用に最低限の兵士を残し、残りの部隊を二つに分け、各村へ散るという単純なものだった。戦力的なものも平均的に分けられ、西のウルティ村へはハウル率いる部隊。東のユーミ村へはストーン率いる部隊となった。ハウルはてっきりストーンと同じ部隊になると思っていたらしく最初は反対したが、ストーンからの、お前以外に部隊を任せられるものがいないの一言で押し黙りストーンの命を受けた。
リュートはハウル部隊の所属になった。ウルティ村へは王都からそれほど遠いわけでもなく1日かからないぐらいで着く距離である。東のユーミ村も同様だ。今までのホークのやり口からすると、こんなに近場で同時襲撃する事などなかった事を考えるとブラフである可能性は十分にある。その可能性を頭の片隅に入れながらも、ウルティ村へ急ぐリュート達
ストーン率いる東のユーミ村部隊
「ストーン様、今までのホークのやり口から考えると今回の件、ブラフの可能性もありませんか?」
「そうだなロベルト。私もそう思っている」
「でしたら、何故いつもと違うく、こんな厳重な感じでいくのでしょうか?」
ロベルトは自分の中にある疑問を素直にストーンに質問した。
「う~む…うまくは言えないのだが、嫌な予感がするのだよ…」
「嫌な予感ですか?」
「ただの老婆心で終わってくれればいいんだかな」
ストーンの一言で、部隊の緊張が高まった。ここ最近の部隊の被害を考えると、これ以上の被害は騎士団の今後に直結する。そのことを考えた上でも、今回の遠征は無事で済ませるのが得策なのだ。ユーミ村までは何事もなく着くことができた。しかしユーミ村にはホークが待ち構えていた…
「おやおや、これはこれはストーン様御一行ではないですか?」
村に入ってすぐの広場にホークが座っていた。ホークはストーンの顔を見てもビビる様子もなく、嘲笑うかのように笑っていた。
「ホーク、貴様がいて好都合だ。今日この場で貴様の首を狩りとる!」
ホークを見た途端、背中の長剣を抜き、ストーンが隣接体制に入る。それを見てもホークは未だに笑い続けている。
「何がおかしいんだ!」
そのホークの姿を見て、逆上し襲いかかるロベルト。
ドォンッ!!
その瞬間、とてつもない轟音と共にロベルトが吹き飛ぶ。フォークの右腕にはとてつもなくでかい鉄の何かが持たれていた。
「グッ…きさ…」
それを食らったロベルトがかろうじて声を出す。
「おや、雑魚かと思ったがなかなかやるな?だが、俺の攻撃を受けて生きてるのは逆に地獄だぞ?」
そう言いながらいびつな形の鉄の棒を持ち上げるホーク。ホークの持つ武器は剣にも槍にも属さない。強いて言うのであれば棍棒のどでかい鉄バージョンと言えば良いのだろうか、それぐらい特殊な武器であった。ホークはそのとてつもなくばかでかい鉄の棒を天に向けた。その瞬間、ホークの部下たちが雄叫びと共に飛び出してきた。
「ウォォォ~」
突然のことに驚きながらも盗賊に立ち向かう騎士団員。辺りは一緒にして大混戦になった。いたるところで金属音が響き渡る。そんな中、ストーンは雑魚に集中することなくホークだけを見つめていた。ストーンは知っているのだ。どんな対局であれ、将を取りさえすれば勝負が決まることを…だからこそ、その勝負に全てを賭けるのだ。
「ふぅ…」
その視線を見て、先程まであざけ笑っていたホークの顔が変わる。とても面倒くさそうに一息つくと立ち上がりストーンの方に歩み寄ってきた。
「お前もしかして俺に勝ってるつもりなのか?」
「無論…」
「気が変わった…お前だけは俺が相手してやろう」
そう言いながらホークがストーンに向かってきた。
ガキン!ガン!!
およそ金属同士がぶつかり合ってると思えないほどの音が響き渡る。ストーンの豪剣を軽々しく弾き返すホーク。しかし、その状況とは別に、ホークの表情は何かを考えているようだ。
「んっ?なぜだ?…」
「なぜとはどういうことだ?」
ホークの突如出た言葉に思わず聞き返すストーン。
「いや、何でもない…」
そう言いながらホークの一撃が振り落とされる。その一撃を受けるストーンだが、とてつもない衝撃に肩膝をついてしまう。正直力比べの撃ち合いでは、ホークに分があるようだ。しかし、自分より力のある人との勝負等幾度となくこなしてきた。これまでも、そしてこれからもストーンは変わらない。自分の力を信じ、敵に立ち向かうのみ。いつしか周りの者達も手を止め、ストーンとフォークの撃ち合いを見入っていた。
「おい、お前ら?誰が手を止めて良いと言った?」
ホークの声を聞き、我に返った盗賊団は騎士団員たちに襲い掛かる。実力的には、騎士団員の方が遥かに上だが、多勢に無勢なこの状況に騎士団員達が徐々に押され始める。
「皆の者、ここ踏ん張り時だ。こちらが本命となれば西に向かった、ハウル達の方はブラフであるだろう。幸運なことにこちらまでの距離はそう遠くはない。それまではなんとしても持たせるのだ」
盗賊団とのあまりの戦力差に心が折れかけていた騎士団員達だが、ストーンの掛け声で騎士団員たちは奮起し盗賊達に立ち向かう。
「そうだ。皆のも勝つ必要はないのだ。我々は、増援が来るまで持ちこたえれば良いのだ。増援が来れば、この立場はきっと逆転する、だからみんなそれまで耐えるのだ!!」
ストーンの鼓舞で完全復活した騎士団員達、しかし、ホークは含み笑いをしている。
「めでたいことだ」
「めでたいだと、どういうことだ?」
「ストーン、貴様はさっきからブラフ、ブラフと言ってはいるが、何故ブラフと決めつけている?」
「なぜって、貴様達盗賊がここにいる以上ブラフ以外の何者でもないだろ?」
「ああ、俺の盗賊団員は全部ここにいるぜ?」
「だったら、なぜ?…まさか!!」
「やっと気づいたか?そう、お前が思った通り向こうの村にはヴォルグ達の盗賊団がいる」
ホークからとんでもない一言が発せられた。西のウルティ村にはヴォルグが待ち構えていると…もしホークの言葉通りであれば、ハウル隊がヴォルグ率いる盗賊隊とぶつかる事になる。そうなった場合、彼らも絶対絶命でこちらに増援など送る余裕などあるはずもない。ホークの発言が真実という確証はないが、ホークの表情を見る限り嘘ではないだろう。
「ストーン様、もしホークの言葉が本当であるとしたらハウル隊長達からの増援は見込まれません」
「ストーン様、その場合どうしたらよろしいでしょうか?」
「ストーン様…ストーン様」
各所からストーンに対して悲願の声が飛ぶ。それを愉快そうに笑いながら見る盗賊団
「どうやらお前より団員メンバーの方が現実をわかってるらしいぞ?」
ホークからバカにしたような声が飛ぶ。
「静れ皆の者!増援が見込まれない?それがどうした?!我々はこの国の盾だ。我々が負けることは、この国の敗北を意味する。では、我々がすべきことはなんだ!」
ストーンは叫び始めた。
「我々のすべきことはしただ一つ。この絶対的状況を打ち破り、西でピンチを迎えている仲間達を助けに行くことだ!まず出始めに私がホークの首を取る。皆のものはそれに続け!!」
「ウォォォ!!」
ストーンの新たな鼓舞に対し団員達は力を取り戻す。それと同時にストーンは全精力をかけ、ホークに切りかかる。
「それができないから、おまえは困ってるん…だろっ」
ガン!ガン!!
もう完全に金物同士の撃ち合いと思えない程の鈍い衝撃音が聞こえる。ストーンの勢いに続くように騎士団達の猛攻が続く。しかし、現実はそう甘くはなかった。あまりの数の違いに徐々に押され始める騎士団員達、そんな中、ホークが心底面倒臭そうに呟く
「はぁ~…飽きた…」
「飽きただと?!…」
ドォンッ!!
ホークの一言とともに、とてつもない衝撃音が聞こえる。どうやらホークは今まで手加減していたらしく本気を出し始めた。本気を出したホークの攻撃は凄まじく攻撃を受けているはずのストーンが吹き飛ばされる。
「フン!」
ドォンッ!!
ホークが攻撃するたびに、ストーンが吹き飛ばされとてつもない音が響き渡る。何度も吹き飛ばされたストーンは、傍から見てももうボロボロだった。勝負は完全についているであろう。しかし、ストーンは立ち上がり続けた…
「なんだ貴様は?…」
心底鬱陶しそうにストーンを見るホーク
「私…この国の盾…が負けることは…されないのだ…」
消え入りそうな声でそう呟くストーン
「ああ、もういい疲れた…次は頭を潰す」
そう言いながらホークは自身の武器を天高く振り上げ、そのままストーンの頭にめがけ振り下ろす。
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