第22話.ホークの罠
リュートがストーンから剣を譲り受け、数年が経った頃盗賊達の動きが本格的に活発化し始めた。あちこちから盗賊の活動内容が入る中、その中で一つ捨て置けない情報が耳に入ってきた。
「えっなんだって?」
「いや、俺もさ、又聞きだから本当か嘘かは分からんぞ」
「だからといって、ホークとヴォルグが腕を組むってかなりのやばい話じゃないか?」
「あぁ、俺もそう思う。東と西の盗賊頭が同盟を組むなんて、前代未聞だ。これが本当だったとしたら、ほおっておけない」
「確かに…」
ホークとヴォルグといえば今では泣く子も黙る大盗賊だ。彼らに狙われたら最後その村は草木も残らない。その2人が手を組むこれが本当だとしたら国を揺るがす大事件だ。
その日の昼ストーンから全員騎士団宿舎に集まるよう号令がかかる
「今日皆に集まってもらったのは他でもない。最近噂になっているホークとヴォルグの同盟についてだ」
「ストーン様、その噂についてなのですが本当のことなのでしょうか?」
ストーンの話はやはりホークとヴォルフの同盟についての事らしい。各自その噂は耳にしていたが、確たる証拠がない為にどう動けばいいかわからなかったらしい。それもそのはず、ホークとヴォルグが手をもし組んだ場合、とてつもない規模の被害が起こり得ることは予想できるが、慎重で狡猾なホークと強欲で大胆なヴォルグが手を組むこと自体がそもそも想像しがたい。それぐらい両者の性格は相反するものであった。
「ハウル、君がそう思うのも仕方がない。何故ならこの噂に信憑性は全くないからな」
「そうですよね。私の個人的な意見ですが、ホークとハウルは性格が違いすぎてとても同盟を組めるような状態ではないと思います」
「私もそう思う。だがただ一つだけ気になるところがある」
「それはどういうことでしょうか?」
「彼らにとって同盟を組む組まないは別として、もし仮に同盟を組むとしたら、我々はどうすると思う?」
「それはもちろん全勢力を上げて、それを阻止すると思います」
「まさしくその通り。それは多分、彼らも分かっていると思う」
「と言いますと?」
「なぜ彼らはそうなることがわかってる噂をわざわざ広めたかということだ」
ストーンは皆に仮説を話し始めた。本来であれば2人の同盟は王宮騎士団として絶対に阻止しなければいけないもの。それは彼らも重々承知してるはず、だからこそ、もし万が一に本当にそういうことがあった場合、彼らは水面下で行動し、我々にバレないように最善の注意をはかるはず、それなのに、我々の耳に入ってきたということは、もう既に我々の阻止では止まらないところまで来ているのではないかということであった。
「確かに…」
ストーンの仮説を聞き、納得するハウル。他の団員たちもストーンの話に納得したようで、辺りがザワザワとし始める。ホーク達の同盟がもう既に完了している。もしこの仮説が正しいとすると悠長な話し合いなどしている暇はないのではないか、全員がそう思ったのであろう。それを感じ取ったストーンがまた話をはじめる。
「あくまで私が喋っている事は仮説だ。現実に起きていることではないし、その可能性もそんなに大きいものではない。ただ、だからといって何もしないわけにはいかない。だから皆の意見を聞きたく、この場に集まってもらったのだよ。」
ストーンからの問いかけに対し、色々な意見が団員達から出されてはいたが、どれも決定的になるような作戦は思い浮かばなかった。
東の洞窟ホークの隠れ家
「おい、お前達。例の作戦の実行具合はどうだ?」
「ヘイ、お頭の言う通り、色々な町に、お頭とヴォルグが手を組むっていうお話を流しました。」
「よしよし…上等上等…」
「しかし、お頭そんなデマ情報流して俺たちにどんなメリットがあるんですか?」
「バカだなお前?」
そう、笑いながらホークが作戦の意図を部下たちに伝える。
作戦の内容としては凄く単純なものであった。
「もし俺とヴォルグが手を組むことになったら、王宮騎士団は黙ってはいられない」
「ヘイ」
「だろう?ということは、俺らがなにかしらの行動を起こそうとすると、やつらはすっ飛んでくるだろ。」
「ヘイ」
「もちろんヴォルグも同様だ、奴が動けば王宮騎士でも奴の方にも対応する。それでもしヴォルグとやつらがやり合えばどちらとも無事で済むわけがない。」
「でも、お頭それはうちらも同じことでは?」
「だからそれはヤツらと正面から出会ったらそうだろう?しかし、こちらはやつらが攻め込んでくるのは分かってる訳だ。だったらこっちは少数で行動しやつらを疲弊させてやればいいさ」
「ん?ってことは、王宮騎士団と会った時は戦わず逃げるということですかい?」
「バカヤロー全部が全部逃げてたら俺らの食い扶持がなくなっちまうだろ?あくまで囮部隊は逃げて、本命舞台はそのまま戦うんだよ。」
「お頭はさっきまともに当たったらこっちも無事じゃすまないって…」
「まともに当たったらな。でも、こちら囮の部隊を何隊か用意しそいつらに村を襲わせる。そうすることにより、やつらも部隊を何箇所かに分けるだろ?」
「ヘイ」
「完全な王宮騎士団と戦えば、こちらも無事ではすまないかもしれないが、人数の少ない王宮騎士団であろう話は別だ。逆に返り討ちにしてやる。」
「さすがお頭、天才ですぜ」
「こういうのは複雑じゃいけねェ。大切なのは思い切りの良さだ。それに、いざとなったら本当にヴォルグと手を組むのもあり出しな…」
ホークの作戦は至って簡単なものであった。囮を使い村を襲わせ騎士団が向かってきたら逃げるという単純明快なものであった。だが効果は絶大だった。ただでさえ村が襲われたと聞いたのであれば黙って見過ごすことができない上に、ホークとヴォルグが同盟を組む可能性がある。この可能性が騎士団員達の焦りに拍車をかけ、王宮騎士団はホークの罠にまんまとハマっていった。
「ちくしょう。またか!」
リュートが思わず口ずさむ。盗賊団から襲われているという話を聞き、村に助けに来たリュート達だが、着いた頃にはもう盗賊団はもぬけの殻である。一度や二度ならまだしも、ここ数ヶ月はもう何度も同じような現状が続いている。そのあまりの回数の多さにリュート達は疲弊しきっていた。
「リュート気持ちはわかるが、少し落ち着け」
「でも、ケビンさん、さすがにこう何回もあると息つく暇もないですよ…」
「それは私も同じだが、村人達が襲われる可能性がある以上、無下にもできんだろう…」
「はい…確かに…」
「それに、ホークとヴォルグが本当に手を組むのであれば、今のうちに少しでもやつらの戦力をそぎ落としておきたい」
ケビンの言ってる事は全て正しかった。村人が襲われる可能性がある以上、王宮騎士団として助けに行かない訳にもいかない。その上にホークとヴォルグが手を組むのであれば、今のうちに少しでも多くの戦力を削いでおきたい。全員がそう思うところでもあるが、それに対する成果が全くと言っていい程ついてこない。その現状にすべての団員が焦りにも似た苛立ちを持つようになっていった…
王宮での職務を終わらせた、リュートの前にエリザ姫が現れた。
「リュート様お顔が真っ青ですわよ?」
「これはエリザ姫。私の心配をしていただき、光栄です。」
「また、リュート様は、以前の食事会のようにおしゃべりしていただいて構いませんのよ?」
「ご冗談を姫様…あれは若かりし頃の私の過ちです」
「本当にリュート様お変わりになられて…」
エリザ姫が残念そうな顔でそう呟く。リュートにとってはありがたいことではあるが、もうリュートは子供ではない。自分の立場も状況もちゃんと理解している。エリザ姫は自分にとって高嶺の花であり守るべき国の象徴なのだ。
「エリザ姫、私はこれで…」
恭しく頭を下げその場を立ち去ろうとするリュート。その立ち去ろうとするリュートの背中にエリザ姫が抱きつく。
「姫!!」
「リュート様お願いです。無理だけはしないでください。こないだのような無理だけは…」
エリザ姫はその一言をいうと、そのまま駆け足で去っていった。
「なんだと!!」
「ロベルトどう思う?…」
リュートの相談を受け、ロベルトは驚きのあまり声をあげていた。
「もうそれお前完全にホの字だろう?」
「いや、そんなバカな?」
言葉とは裏腹にとても笑顔なリュート。
ボコ!
「グァ!」
その笑顔にロベルトの鉄拳が炸裂する。
「いきなり何すんだよ、ロベルト!」
「はいはい、うるせえうるせえ!!」
いつもの小競り合いが始まる。ここ最近はとてつもない激務が続いたため、こういう他愛もない話ができるこの瞬間は唯一気を抜ける瞬間と言ってもいい。久々のくだらない話に2人はいつも以上に盛り上がった。
「しっかし、そうか、まさかお前と姫がねぇ~…」
「というか、ロベルトはサラと付き合ってるのにそういうこと聞かなかったのか?」
「あぁ~あいつとはそういう話一切しないからな?」
「えっ、そうなの?」
「ああ、仕事とプライベートは完全にわけないとな。こっちだってあいつに言えないこともあるし、あっちだってこっちに言えないこともたくさんあるだろう?」
「そんなもんなのか…」
「だから、下手に聞くと言いたくなっちゃったにするだろ?だから、お互い聞かないことにしてるんだよ」
「なんか冷めた関係だな?」
「バカ大人の付き合いって言えよ」
「大人かぁ…」
「で、お前はどうすんだ?」
「どうするって」
「あのエリザ姫だぞ?」
「う~ん、だからこそなんだよ…」
「そうか、まぁでも時間をかけてゆっくり考えればいい。お前、今までそうやって色々なことを決断してきたんだから」
「うん…」
「またどうするか決まったら教えてくれ」
「うん、ありがとうロベルト」
「おぅ、じゃあ、またな」
事件は突然訪れた。団員達はいつもの如く盗賊の襲撃に対応する為、各村々にちっていた。もうこの頃には団員達全員疲弊仕切っていて、心の中では駆けつけたところで、また盗賊達はいないであろう?という油断もあった。そこをホークは完全に見抜いていた。今までの陽動が嘘だったかのようにホークは暴れ始めた。
「クソ!」
リュートが到着した時にはもう既に遅かった。村は焼かれ村人たちは無残にも殺された後であった。
「なぜだ、なぜここにきて急に…」
「おれ達が油断するのを狙っていたのかもしれないな…」
リュートのつぶやきに守備隊隊長ハウルが返す。
「ハウル隊長どういうことですか?」
「ホークは今まで陽動だけをし、村を襲うことはなかった。でもそれは私達が油断するのを待っていた作戦だったのかもしれん」
「クソ、ホークの野郎!」
「あぁ、だがこれからはしんどいぞ。これからはヴォルグも動くかもしれないし、何より村からの救済信号が来た時、今以上のスピードで駆けつけなければいけなくなる。」
「今以上ですか?…」
「そうだ、体力的にピークに来ているこの状況で、今よりも素早く行動しなければいけないのが一番のネックかもしれん」
ハウルの予想は当たっていた。各村から救済信号は今まで以上に多くなった。そのほとんどがブラフであり、何の意味も持たないものだが、そこの中に本当にホークの盗賊団とかち合う部隊が出てきたのだ。ホークの盗賊団と当たった部隊はほぼ壊滅状態だった。無理もない、疲弊してる上に団員数も最低限の人数しかいない、その状態でホークの大盗賊団に勝てるわけがない。騎士団の被害は大きくなるばかりだった。そんな中、最悪な事態が起きる…
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