第16話.隼人→龍人
養子の話をしてから気まずい夕食が続いていた。ハヤト自信ストーンとロザリアに養子縁組の話をされたことを嬉しく思っていないわけではない。だからと言って、両手を上げて、その話に飛びつく事も出来ない。そして、なぜそれが出来ないかの理由もわからない。自分がオーダーだから?いや、それは言い訳に過ぎない、何か胸の奥に引っかかるものを抱えつつ理由がわからないモヤモヤに苦しむハヤト。
「ねぇ…ハヤト?」
「何ロザリオおばちゃん。」
「こないだの件なんだけど…どうだい?答えは出たかい?」
上目遣いでハヤトの目を見ながら怯えたような感じで話すロザリア。その顔を見ると、何とも申し訳なく感じる。
「気を使わないでいいんだよ。ハヤト…もし嫌なら嫌とはっきり言っても大丈夫さ…」
「嫌じゃないよ。俺だって嬉しい…」
「じゃあ、何が引っかかるって言うんだい?」
「俺も正直よく分からないんだ。でもこのままでは、納得が出来ないんだ。」
終わりのない話が続く。そんな中ストーンが話しかける。
「少年の中で本当に私とロザリアが親になる事が嫌なわけではないのだな?」
「そんなことはないよ。ストーンにもロザリアおばちゃんにも本当に感謝している。ハトム村があんな事になって震えている俺を抱きしめながら優しい言葉をかけてくれたのは、他でもないロザリアおばちゃんだ。ストーンに関しても色々教えてくれて可愛がってくれてるのは分かっている」
「じゃあ一体何がひっかかるんだい?…」
ロザリアがハヤトに聞く。そして、ハヤトが口をつぐむ。何度この感じを繰り返しているのであろう一向に話が進む様子はない。ストーンがまた口を開く
「そうか…それならばいっそお前の存在をなくしてしまおう」
「ちょっとあなた、何を言っているの!」
ストーンの突然の言葉にハヤトはあっけにとられ、ロザリアに関してはストーンに対して怒りの言葉を浴びせる
「あぁすまない、言い方が悪かった。ハヤト自身の存在をなくすのではなく。新しいく生まれ変わるみたいなもんかな?」
「どういう事ストーン?」
ハヤトが聞き返す。
「まぁ、別に難しいことではないのだ、過去に私がやったことと同じことをしてみてはどうかなと思って」
「あぁ~そういうことね。確かにその手があるわね!」
「えっ、何どういうこと?」
「どういうことって、うちの旦那は過去に自分存在を変えたことがあるってことさ」
「ますます意味がわかんないよ。」
「んまあ、簡単に言うと名前を変えたってとこだね。」
「えっ、名前ってストーンが?」
「うん。」
驚きのあまり言葉に詰まるハヤト。それに対し、うんうんと頷き返すロザリア。
「まぁ、私も少年とは少し違うが、自分の道に悩んだことがあってな。その時に悩んだ結果、新たなる道を突き進もうと名前を変えたことがあるんだ。」
「そうなのか…」
ストーンの話を聞いて不思議そうにしていたハヤトだが、どこか吹っ切れた顔にも見える。
「あのさ、ちょっと散歩してきてもいいかなぁ?」
「えっ、こんな夜遅くにどこに行くんだい?あんた…」
「うーん。なんかちょっと街をぶらぶらしながら考えたいなぁって」
夜遅くに出ることを反対ししようとするロゼリアだが、それをストーンが制した。
「少年、いくら町の中でも夜は何が起きるかわからない、重々気をつけて行けよ。」
「うん。ありがとう。」
街をぶらぶら歩くハヤトだが、気づくとロベルトと訓練に明け暮れていたあの丘にいた。小高い丘に腰をかけ、空をみるハヤト。
「名前かぁ…名前変えるなんて考えたこともなかった…」
空を見ながらボーっとするハヤト
「ここにいたのか?」
「ストーン」
ハヤトを見つけ、隣に座るストーン
「ストーンはなんで名前を変えたの?」
「俺は昔なぁ、嫌なやつだったんだ。」
「あぁ、前にロザリオおばちゃんが言ってたよ。」
「ロザリアが!」
ハヤトの答えに驚くストーン。
「そうか、まぁいい…じゃあ、知っていると思うが、ロザリアが子供を産めなくなったのをきっかけにだ」
「そういえば前にそんなこと言ってたっけ?」
「あぁ…」
「でもなんで?」
「それは私のせいだ。私が油断したせいで…」
そう言い、ストーンは当時の話をし始めた。ロザリアの村を襲撃した盗賊を撃退したストーンだがストーンは自分の剣の腕を過信していた。盗賊ごときが自分の剣で生き残るはずがないと…しかし、実際には、仕留めきれていない盗賊が1人いたのだ。そいつは倒れながらチャンスを伺っていた。完全に油断していたストーンに斬りかかりストーンは重症を負う。そして、絶体絶命というところに、ロザリアが飛び込んできてストーンを庇ったのだ。ロザリアが飛び込んでくれたおかげで、その盗賊を仕留める事ができたのだが、そのままストーンは気を失ってしまい。気づいた時にはロザリアに看病されていた。最初のうちは元気そうなロザリアを見て怪我などしていないと思っていたのだが、実はロザリアは腰に刺された傷をストーンにバレないようにしながらストーンの看病していたのだ。そのことを知ったストーンは徐々にロザリアに惹かれ、心を開くようになった。
「自分も重症だというのに、そんな事を出さずに私の看病してくれた…その彼女に対し私はすべてを捧げたくなったのだよ。」
「そんなことがあったのか…」
「その後だな、私の名前を変えたのは、もう消して何事にも揺らぐことのない石(意志)のようにと…」
「石と意志をかけてストーン?」
「うむ…」
「何それ?でも、何かストーンらしいや」
ハヤトの笑が響いた。ハヤトとストーンは一緒に帰ってきた。
「ロザリアおばちゃん、俺名前変えてみるよ。」
「本当かい?」
「名前を変えたからといって、俺のすべてが変わるわけではないけど、気持ちの踏ん切りはつくと思うんだ。」
「そうかい、そうかい…別にあんたは変わる必要はないよ。あんたはそのまんまでいいんだ。」
「では、名前を考えてみようと思うのだがハヤトはオーダーではどういう文字を書くのだ?」
ハヤトに質問するストーン。
「俺は隼に人だ」
「ハヤブサか…なんでその名がついたかは知っているか?」
「確か、自由に大空を羽ばたくハヤブサのように広い視野を持つ人間になってほしい。だったと思う。」
「良い名だね。」
ロザリアが頷く。
「では、少年は最終的にどのような騎士になりたい?」
「騎士?」
「そうだ。」
「う~ん…そうだなぁ~…」
考え込むハヤト。今まで色々な騎士像を聞かれてはきたが、確かに最終的にどんな騎士になりたいかを聞かれたことはなかった。
「うまく言えないんだけど、俺の村のような不幸になる人間を作りたくはない。」
「それはこの国全体を守りたいということで良いか?」
「うん。今すぐは無理でも、いつかはそういう男になりたい。」
「もうあんたは本当に優しい子だ。」
「もうやめてよ。ロザリオおばちゃん」
ハヤトの答えを聞きロザリアが飛びつき、頭を撫でる。
「では…リュートと言うのはどうだろう?」
「リュート?」
「ああ、この国の守り神はドラゴンだ。確かオーダーでは龍と言って言たはず。この国を守る龍のような男。名付けてリュートだ。」
「リュート、リュートか…うん。悪くない。」
「いいじゃないか!国を守る男でリュート!!」
そう言いはしゃぐロザリア。それに対し、ストーンが
「よし、ではリュートで決まりだ。」
「でもさ、名前ってそんな簡単に変えられるものなの?」
「何言ってんだいあんた?うちの旦那誰だと思ってるんだ。」
「そっか、そうだった。」
「だから、あんたは何も心配することはないんだよ。あぁ~リュート」
そう言いながら、リュートを抱きしめる、ロザリア
「だからやめてよ。ロザリオおばちゃん…」
「違うだろ?母ちゃんって言ってみな?ほら母ちゃんって…」
「かっ…かぁさん…」
「かぁさん?かぁさんか…良いよ。あぁ~…リュート…私の可愛いリュート…」
そう言ってリュートを抱きしめながら、ロザリアは大粒の涙を流した。
「どうしたんだい、兄さん?」
「少年の件が無事終わったんだが、ちょっと相談があってな…」
リュートの件がまとまり、ネメシスの元を訪れたストーン
「そうか、よかった。ハヤト君は養子になることを認めてくれたんだね?」
ネメシスの問いに無言になるストーン。
「もしかして、ダメだったのかい?」
「いや、そういうわけではないんだ。ただ少年の名前を変えようと思っていてて」
「名を?」
「あぁ…ハヤトからリュートに…」
「リュート?なんでリュートにするんだい?」
「それはあいつがこの国を守るような男になりたいというから、この国の護り神であるドラゴンのような男という意味をオーダーの文字で表したのさ」
「ふ~ん、それでリュートか…いいじゃないか!まさに兄さんの子にピッタリじゃないか!」
「そうか?」
「だって、兄さんだって名前を変えて生まれ変わろうとしたじゃないか?その兄さんの子供が名前を変えて生まれ変わるなんて、まさにぴったりじゃないか!」
「そうか、喜んでくれるのか…」
「当たり前だろ、何言ってるんだい?僕達はあの時からお互いのことを信じて助け合っていこうって決めたじゃないか?」
「そうだな、そうだった。ありがとう、ネメシス…」
「そんなことないよ。礼を言うのは僕のほうさ兄さん。で、騎士団員のみんなにはリュートくんのことは話したのかい?」
「いや、まずはお前に話してからと思って…」
「僕を一番最初に選んでくれたんだね、ありがとう。騎士団員のみんなもきっと喜んでくれるさ」
次の日ストーンがリュートの改名の話と養子の件を皆の前で説明した。みな驚きつつもリュートとストーンに対しお祝いの言葉を述べた。もちろん先に伝えていたロベルトとケビンも同様に…
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