第9話.復讐
ハヤトの状態は心配だが、このまま村人達を放っておくこともできない。ケビンにハヤトを見てもらいその間に村人達を素早く弔う。本来であれば時間をかけて弔うべきなのは分かっているのだが、それよりもハヤトの体調が気掛かりだ。今は少しでも早く、ハヤトを休ませてあげたい。帰りの道中もハヤトは一言もしゃべることはなかった。正確には何かブツブツ言ってはいるのだが、何を言ってるかは聞き取れない状態だ。家に着きハヤト見たロザリアは、ストーンを殺すのではないかというぐらいな勢いで怒鳴り込んでいた。そして、ハヤトを連れ部屋に行った。
「だからアタシは反対したんだ。あんたなら絶対にこういう結末になるという予想ができたはずだろ?なのに、なんでハヤトを連れて行ったんだい!」
「でも、少年は男だ。いつか村の現状を知ることにはなる。どうせいずれ知るのであれば少年の意思を尊重してあげたかったんだ…」
「男って何言ってんだい。あんな子供に男も女も関係ないだろ?」
「すまない…」
「アタシに謝って、どうするんだよ。謝るのはハヤトにだよ!」
朝になりまずハヤトの部屋に行くロザリア。ハヤトは以前のように悪夢にうなされたり、泣き出したりすることはなかったが、どこかぼーっとした表情だ。ロザリアが話しかけても返事もまともに返ってこない。
「ハヤト大丈夫かい?起きたのなら、とりあえずこれでもお飲み?」
温かいスープを差し出すロザリア。それを無言で口に運ぶハヤト。
「何か他に食べたいものはあるかい?あったら好きなだけアタシに言いな?」
ロザリアが何度話しかけてもハヤトから返答が返ってくることはなかった。ロザリアの話を聞きながしながらハヤトは考えていた。ここ数日で起きた出来事全てを…考えたところで答えなど出ないのかもしれない。そもそも答えを出そうとして考えているのかどうだかも分からない。ただ、考えていた。両親の事、トーマやサーヤの事、ヴォルグの事…
あれから何日経ったであろう様々なことを考えた。そして一つの結論に達した…ヴォルグを殺す。だが、いざヴォルグを殺そうとしても剣をまともに振った事のない少年が、いきなり復讐を果たす事は容易ではない。それが分かっていたハヤトは、まずどうするべきなのかを考えた。しかし、答えは一向に見つからなかった。そんな中、ロザリアから部屋の中にいても体に良くないから散歩に行こうと声をかけられた。
「ハヤト?あんまり寝てばっかりいても体に良くないからアタシと一緒に、ちょっとお出かけしないかい?」
ロザリアに連れられ街を散歩するハヤト。ロザリアの顔を見ると、とても嬉しそうにハヤトに話しかけてくる。その言葉に適当に相槌を打ちながら歩いていく最中、自分より少し年齢が上と思われる集団を見かける。しかも、その集団の中心にいるのは体格のいいギャンサーの少年であった。それを見た瞬間ハヤトは我を忘れて、ギャンサーの少年に殴りかかっていた。
ガン!
「何だオマエ?」
不意打ちを食らわしたが、ギャンサーの少年は大してダメージを負っていないようだった。
「なんだこのガキ!ロベルトの知り合いか?」
「いや、全然知らん。」
そう言いながら拳を振り被りハヤトを殴りつける。殴られたハヤトは吹っ飛び、地面に倒れ込む。
「あぁ~ハヤト大丈夫かい?」
地面に倒れるハヤトに駆け寄るロザリア。
「なんだよ、母親付きかよ?情けねぇ~」
「ママァ~あいつらが僕のこといじめるんでちゅ~」
周りからハヤトを馬鹿にする声が聞こえる。ハヤトは立ち上がり、殴りかかろうとするが、ロザリアに押さえつけられ立ち上がることができない。
「なんだよ、こいつぴくりとも動かねぇでやんのビビってんのか~」
「もういいよ。こんなヤツほっといて行くぞ。」
ロベルトは、まるで何事も無かったかのように皆を連れハヤトから去っていく。その姿を見て、ハヤトはとても悔しかった。自分の力の無さが…ハトム村では、ハヤトは一番のガキ大将であった。ハヤトに勝てる者などいなかった。だが大人のヴォルグならまだしも、そこまで歳が離れていないロベルトにまで相手にされない自分の力のなさが悔しかった。ハヤトはまた考え始めた。自分は弱い…今すぐやつらに戦いを挑んだところで、相手に等ならない。では、どうするべきなのか…
その晩、ロザリアは、ストーンに今日あった出来事を話し、相談していた。
「そんなことがあったのか…」
「うん。すごい剣幕で襲いかかってアタシびっくりしちゃったよ。」
「そうか、なんか気分転換になるような物があればいいのだが…」
数日前にあんなことがあったのばかりなのだから、多少のことは仕方ないと思うが、このまま放置しておくわけにはいかない。何かしらの対応を取らなければいけないのは分かってはいるのだが、子供を育てたことがない2人には何をすればいいかわからない。せめて気分転換でもできるものはないかと考えていた時、ハトム村に行った時の狩りの様子を思い出した。
「そういえば、ハトム村に行く時なのだが少年達と一緒に狩りをしたのだが、少年はとても楽しそうにしていた。もう一度狩りに誘ってみるのはどうだろうか?」
「狩り?」
「ああ、ハリーが一矢で鳥を仕留めたのだが、それを見てとても喜び、自分もやりたいとはしゃいでいたのだ。その時の少年はとても楽しそうだった。」
「いいじゃない。そうしましょう。」
「では、後日少年を連れ、皆で狩りに行ってくるとしよう。」
ハヤトたち一行は城から少し離れた所で狩りをしていた。ハヤトも狩りは楽しいらしく、あれだけ塞ぎ込んでいたのが嘘のようにはしゃぎ回っている。やはり狩りにしてよかった。気分転換は成功のようだ。皆で仕留めた獲物を分け合い、家に持ち帰り、ロザリアに調理してもらったものを3人で食べ久々に穏やかな食事を楽しんだ。
ハヤトは昨日行った狩りのことを思い出していた。狩りはとても楽しいかった。自分では獲物を捕ることができなかったが、獲物に狙いを定め、弓を引く瞬間は何とも言えない興奮がある。またやりたいなと思っていた時、ふと気づいた。
「これだ!」
弓であれば体格も腕力も関係ない。当たれば一撃で仕留めることができる。このことに気づいたハヤトは、さっそく行動開始する。
「ねぇ、ロザリアおばちゃん?」
「なんだいハヤト?」
「また気分転換に狩りをしてみたいと思うんだけど、ストーンは連れて行ってくれるかなぁ?」
「狩りかい?それは良いね。アタシからも言っとくから大丈夫だよ。」
ハヤトの思惑を知らないロザリアは気分転換は大成功だったのだと思い。とても嬉しそうに答えた。
「ほんと?ロザリアおばちゃんありがとう」
「うんうん。」
その晩の夕食時、ロザリアがストーンに狩りの話をする。
「ねぇあんた、ハヤトがまた狩りに行きたいと言っているんだけど、連れて行ってくれないかい?」
「ほう…」
ストーンも前回の気分転換を成功だと感じたのか、とても嬉しそうであった。
「こないだ狩りに連れて行ってもらったろ?あの時は仕留められなくて悔しかったから仕留められるように練習したいんだ。」
「そうか、では今度はハリーを連れてこよう。」
「ほんとに!」
満面の笑みで喜ぶハヤト。それもそのはず、ハヤトも弓の名手であるハリーに教わりたいと思っていたのだ。
「では、明日ハリーに聞いてみることにしよう」
「よかったね。ハヤト。」
「うん。ありがとう。ロザリアおばちゃん」
翌日ストーンにハリーを紹介してもらう為一緒に騎士団稽古場についていくハヤト
「ハリーはいるか?」
稽古場に着き、ハリーを探すストーン
「はい、ストーン様こちらに」
ストーンの返事に、ハリーが答える
「ハリー大変申し訳ないのだが、少年に弓の手ほどきをしてもらいたいのだが…」
「ハヤトに弓を教えればよろしいのですね?」
申し訳なさそうにそう頼むストーンに対し、何事も無かったかのように接するハリー。ストーンのこういうところを見れば、部下たちにどれだけ好かれているのかがわかる。
「お願いします。」
珍しくハヤトが丁寧に頭を下げる。
「よしじゃあ、まずはハヤトに合うサイズの弓を探そう。」
その日から弓の稽古が始まった。どうやら弓はなんでもいいわけではなく、自分に合わない弓だと成果が出ないということであった。大きすぎてもダメ、小さすぎてもダメ、引きが強すぎてもダメ、弱すぎてもダメ、思ったより弓の世界は深いらしい。ハリーに教わりながら何度も矢を打つのだが一向に上達の兆しが見えない。何度矢を撃っても鳥はハヤトをバカにするかのようによけていく。
「クソ!」
バカにしたように逃げていく鳥を見て怒りながら石を投げるハヤトそれを見て、ハリーが呟く。
「もしかしたらハヤトは弓より投擲の方が合うかもな?」
「投擲?」
聞き慣れない言葉にハヤトが聞き返す。
「ああ、簡単に言うと、物を投げることだ。」
「はぁ?今のちゃんと見てたのかよ?俺石投げたけど鳥に届かなかったじゃないか?」
呆れたように言い返えすハヤト
「それはそのまま投げたからだろ?例えばだが」
そう言いながらハリーは頭に巻いていたバンダナを外し、そのバンダナに器用に石を挟む。そして、それを少し離れた場所にある木に目掛け投げつけた。
ゴン!!
人の手で投げたと思えないほど程のスピードで木にかなりの衝撃音が聞こえた。
「凄い…何これ?手で投げた時より全然威力が強いじゃないか」
「これはスリングというやり方で、ひも状の道具を使い投げることで、距離や威力を増すやり方だ。」
「スリング…」
「野ウサギや鳥ぐらいであれば、これで十分だ。これより、大物でも投げる物次第では致命傷を与えることもできるだろう」
正にこれだとハヤトは思った。これであれば投げるのとほぼ変わらない。撃ったことのない弓矢を撃って練習することを考えれば、こっちの方が現実味が高いのかもしれない。何より矢はなくなれば取りに行ったり探しに行かなければいけないのだが、このスリングの場合はその辺に落ちている石で代用できるため、わざわざ探しに行く手間が省けるのだ。
「ハリーありがとう。俺これにするよ。」
満面の笑みでお礼を言うハヤト。その日からはスリングでの投擲の練習をし始めた。弓とは違い合っていたのだろうハヤトはみるみる上達していった。ひと月たった頃には動かない標的であれば100%に近い確率で当たるようになっていた。その頃には、ハヤトも元気を取り戻しハヤトはもう立ち直ったのだと、ストーンもロザリアもそう思っていた…
次の日の朝、いつものように出かけるハヤトを見送るロザリア。ハヤトによればほぼ狙い通りの場所に物を飛ばすことができるようになったらしい。今日あたりもしかしたら獲物を捕まえてくるかもしれない。そう思ったロザリアはいてもたってもいられず、ハヤトの後をつけていくことにした。初めての獲物を捕らえて、ハヤトはどんな顔をするんだろう?どんな笑顔を見せてくれるのだろう?その瞬間を考えるだけで思わず笑みがでる。そんなことを考えながら、後をつけていくロザリアだが、ハヤトはいっこうに森に行く気配はない。それどころか、街をぐるぐるとさまよい続けている。何をしているのだろう?そう思った瞬間、ハヤトの動きが止まった。どうやら目的のものを見つけたらしい。何を見つけたのかと思いハヤトの後をつけてみると、ハヤトは裏路地に入っていった。ハヤトの行動不審に思い始めたロザリア先回りをしてハヤトの前方に隠れる。少しして現れたハヤトの見つめる先にはロベルト達の集団が見える。まさか…ロザリアそう思った瞬間、ハヤトがポケットの中から皮のついた細い紐状の物と石を取り出し、ロベルトに向けて放とうとした。嫌な予感のしたロザリアはハヤトの方に走り出した。
(落ち着け…あれだけ練習したんだ大丈夫…)
深い深呼吸をしハヤトがスリングを振りかぶる。ハヤトの動きに合わせるようにスリングが半円形に動き、そこから石が放たれる。そしてその石がロナウドの頭部に直撃!…するはずだった。しかし、スリングはスピードが最高潮になった直後、何かに当たりスリングは止まった。
ガンッ!
「チッ!」
慎重に行動を起こしたつもりだが、周りの確認を忘れていた。ハヤトは何か立ててあった物にでも当たったのだろうと思って舌打ちをしながらそちらの方を振り向く。振り向いた先には血を流し倒れているロザリアがいた…
「ロザリアおばちゃん…どうして…」
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