第8話.いざ、ハトム村へ
ハトム村へ向かうため、騎士団一行は城を後にした。
「ストーン、ハトム村にはどれぐらいで着くのかな?」
「そうだなぁ、大体4日ぐらいだと思う。」
その言葉を聞き焦りはしたが、焦って早く着くようにストーンに言うと追い返されかねない。こんなとこで追い返されたら、何のためにロザリアを説得したのかもわからない。ハヤトは気持ちを落ち着かせるために、森林を見たり深呼吸を繰り返していた。見たことのない景色を見ながら、深呼吸をしているうちに、気持ちを少し和らげることがで来た。気持ちが落ち着くと少しづつだがワクワク感が出てきた。幼いながらもワクワクしてはいけないと分かっていたが、なんせ初めての旅だ。見慣れる景色を見ているうちに、ワクワクするのは仕方ないことである。少しずつ気分が高揚し、口笛を吹き始めるハヤト。その口笛を背中で聞きながらストーンは微かに微笑んでいた。
「ねぇストーン?食事とかはどうするの?」
「今回のような、できるだけ早めに現地に着かなきゃいけない場合などは、その場で調達することになる。前回この道を通った時にある程度の罠をかけてあるからその罠に引っかかってる野ウサギなどを捕まえて調理して食べることになる」
「ウサギ、ウサギを食べるのかい?」
「何だ、少年はウサギを食べたことがないのか?」
「当たり前だよ。ウサギなんか食べて美味しいの」
「ああ、おいしいさ」
「でもさ、もしうさぎが捕まってなかった時はどうするの?」
「その時はあれを捕まえるのさ?」
ストーンは上空に指をさす。そこには鳥が飛んでいた。
「あの鳥を捕まえるの?うっそぉだぁ~…捕まえられるわけないじゃん」
「ハリーはいるか?」
ストーンは微笑みながら名前を呼ぶ。軽装の装備の男が呼ぶ声に応える。
「はい、こちらに」
悪いがハリーあの鳥を仕留めてくれ。
「かしこまりました。」
そう答えると同時に腰から弓を取り出し鳥に向けて撃つハリー。その様子を見て捕まえられるわけがない。という風にバカにしながら見ているハヤト。
トス…
「嘘だろ!」
ハヤトは思わず声を上げる。ハリーの撃った矢は鳥に刺さり一撃で仕留めたのだ。
「なんで?どうやったの?すごい…すごいよ!!」
ハヤトはとても楽しそうにはしゃぎ始める。そのハヤトの姿を見て、騎士団全体が微笑みむ。その後も、ハヤトはたくさんの経験をした。ハリーに弓と矢の打ち方を教わり、実際にやってみたり、仕留めた野ウサギや鳥などを捌いて調理してみたり、この1日でたくさんの経験をした。全ての事が今まで経験したこともないことだった。夕食の時に聞いたのだが、鳥を一矢で仕留めたのはまぐれでハリー自身も驚いていたらしい。どんなに上級者でも5回射って1回当たればいいレベルだと教えてもらった。
「どうだ、少年?自然はすごいだろう?このぐらいの旅であれば、自然の中にあるもので飢えることはまずない。」
中央に焚かれた木々を見つめながらストーンが話しかけてくる。
「うん。でも、ストーン?」
「なんだ少年?」
「じゃあ、飢える事が無いのになんで色々な村から年貢と言って食べ物を招集するの?」
「それはだな、例えば我々だけがこの人類にいたとしよう。その場合であれば、大自然は偉大だ。どれだけ食料を食べようが尽きることはないだろう」
「うん。」
「だが、我々人類の人数も膨大だ。全ての人間が自然のものだけを使って生きようとすると、あっという間になくなってしまう。」
そう言いながらストーンは続ける。自然の豊かさ、木々の美しさ、生命の尊さそれと同時に人間が何も考えずに自然を消費する恐ろしさ、そうしない為に自分たちでもやらなければいけないことを一つ一つ丁寧に語っていった。
「だから、人は助け合って生きていかなければいけないのだ。私たちは確かに年貢といい食料を頂く。その代わりに、私たちは命を懸けてこの国の全国民を守るのだ。」
「だったらなんで…」
そう言いかけてハヤトは止まった。自分がやってしまった事を思い出したのであろう。自分が崖を崩そうと計画しなければ、もっと早くストーン達はハトム村に到着できたはずだ。そのことを考えると、罪悪感に押しつぶされそうになる。ハヤトのその様子を見て気を使って自分達を責めることができないと思ったストーンはハヤトに謝り始める。
「少年やハトム村の者達には本当にすまないと思っている。」
「違う…違うんだ…」
「いいんだ、少年ありがとう。」
そう言いながらハヤトの肩を抱き寄せるストーン。焚き火の暖かい炎が2人を温めた。
ハトム村へ向けた旅は2日目に入る。ハヤトは2日目にして初めて旅の過酷さを知った。1日目はそんなに気にはならなかったが2日目になってからお尻がとても痛い。その上、馬の振動に揺られ、だんだんと気分も悪くなっていく。外から見ている分にはとても優雅で楽そうに見える馬旅も実際味わってみるとかなりの重労働で過酷なことがわかった。ハヤトさりげなくは周りを見てみたが、ハヤトのように苦悩している者は1人もいない。この旅で騎士団の凄さを一つ知ったハヤトであった。
「どうした少年?昨日のように元気がないな?」
昨日はあんなにはしゃいでいたのに、今日は全く喋らないハヤトを見てストーンがそう問い掛ける。
「ストーン様、ハヤトは馬上の辛さを味わってるとこだと思います。」
「違う、そんなことない。」
団員の1人に図星をつかれたハヤトがそんな事はないと強がりを見せる。
「何だ、少年は馬に乗るのは今回初めてか?」
「初めてだったら何だっていうんだよ…」
「いや、初めてであれば仕方がない。馬の上は歩いているのとは訳が違う。体も揺れるから、長時間乗っていると気分も悪くなるし何より尻も痛くなるだろう。」
「みんなこういう風になるものなの?」
それを聞き、ハヤトが興味津々に聞き返してくる
「そうだな、ここ最近の団員ではケビンが特にすごかった。」
「やめてください。ストーン様」
自分の名前が出たことにより焦りながらストーンの話を遮ろうとするケビン。
「確かに間違いない。ケビンはここ最近の団員の中では特に激しかった。」
その様子を見ながら面白そうには横槍を入れてくるハリー
「ハリーさんまでまったく勘弁してくださいよ…」
動揺しているケビンを見てあたり一面笑いが起きる。話を聞いてみると、ケビンは特に酔いが酷かったらしく。道中何度も吐いてしまい。このまま騎士団を辞めるのではないかと皆が心配したレベルであったそうだ。その話を聞いたハヤトは自分だけが情けないわけではないということがわかり、少し元気を取り戻していた。旅の中で少しずつストーンや団員達と打ち解けていくハヤトであった。
旅も3日目に入る。予想では明日の昼に到着だったらしいが、予想よりかなり早く到着できる見込みらしい。その言葉を聞いて、今までの楽しかった雰囲気が嘘のように吹き飛んだ。今、ハヤトの中にあるのはハトム村のみんなの事だけだ。一刻も早く村に着き、村のみんなを助けてやりたい、その気持ちだけが先走り始め、徐々にハヤトはソワソワし始めた。
「少年気持ちはわかるが、深呼吸でもして少し落ち着きなさい」
ハヤトの気持ちをいち早く察し、ストーンが声をかける。その言葉を聞き、ハヤトは頷き深い深呼吸をし始める。昼も近いた頃に崖が見えてきた。遠目からも土砂が見え、ひどい崖崩れだってことが一目散にわかる。その崖崩れを見た瞬間一瞬動揺はしたが、それよりも、道を見つけなければという気持ちが勝った。
「ストーン悪いんだけど、もうちょっと左側の山道に入ってもらっていいかな、あと速度をもう少し遅くしてもらいたい。」
「左側の山道だな?わかった。皆の者悪いが少し馬の速度を下げてもらっても構わないか?」
騎馬隊が少しずつ山の中に入っていく。ハヤトは崖の方を見つめながら慎重に場所を確認する。
「ストーン、ちょっとこの辺で止まってもらってもいい?多分この辺だと思うんだけど、馬だと分かりにくいから少し森の中に入って、俺確認してくるよ。」
「わかった。だが1人だと危険だから、私もついていこう」
そう言いながらストーンが馬を降りハヤト担ぎ上げ馬から降ろしてくれた。
「すまない、皆の者。私は少年と一緒に森の中で道を探してくるから少しこのまま待ってくれ。」
ストーンと森の中に入り、どれぐらいの時間が経ったであろう。上から見た景色とかなりの違いがあり、探すのはかなりの苦戦を強いられた。しかし、苦労の甲斐あって、その道を見つけることができた。
「これか…確かにこのまま馬で登ることは出来ないが、整備をすれば、馬で登ることができない訳ではないな」
「でしょ?」
「しかし、このまま崖の上に登ったとして、その先馬で走れる道はあるのか?」
「うん。この坂さえ登れば普通に馬で走って村迄行ける。」
「よし、わかった、ではみんなを呼んで、早速整備を始めよう。早ければ明日には終わるだろう」
騎士団全員での道の整備が始まった。とは言ってもそんなだいそれた事をするわけではない。馬が通れるように細かい木々を折ったり、道を整えて上まで登るだけである。むしろ、この道まで馬を連れてくる事の方が大変であった。全員で整備したおかげで、夜までには崖の上に登ることができた。一刻も早く村に向かいたいというハヤトだが、暗闇の中、夜目が効く可能性のある海賊相手に行動するのは危険ということで、朝一での出発となった。渋々納得したハヤトだが、気持ち的には今すぐにでも行きたいのであろう。暗闇の中、ハトム村の方を向いている。その姿を見て、ストーンは辛い気持ちになった。
4日目の朝、足早に馬が走る。ハトム村はもう目前まで迫ってきた。しかし、いざ到着したハトム村は以前とは全く違うものになっていた。家は壊され、焼かれ、村自体見るも無残な形になっていた。
「なんだよこれ…」
ハヤトがつぶやく。無理もないまだ12の少年だ。彼の今までの人生経験では、本当の悲劇というものは考えることができなかった…どこかまだ村人たちが無事で自分が来ることにより助かるという希望を捨てずにはいられなかったのだ。しかし、実際の村は見るも無残ほとんどの家が壊され、焼かれ田畑は荒れ原型などなくなっていた。そんな中、キャンプファイヤーをおこなっていたのであろう中央に積まれ焦げた木々だけが自身の存在を強く尊重していた。
「かぁちゃん!とぅちゃん!」
ハヤトはそう言いながら自分の家があったであろう場所に迎い走っていった。
「お~い、みんなどこにいるんだ?助けを呼んできたから、もう隠れなくても大丈夫だ。どこにいるの!」
大声を出し村の中を走り回るハヤトだが村人は誰1人見つからなかった。時折見える家々もほとんどが崩壊していてとても人が住める状態ではなかった。サーヤの家もトーマの家も見知った家全ての家が崩壊していた。ハヤトはそれでも諦めずぐるぐると村の中を走り回る
中央で山積みにされている木々に違和感を感じたストーンはそちらに向けて足を運ぶ。近寄るごとに違和感は確信に変わっていった。昨日の夜ハヤトはずっとハトム村を見ていた。それなのにハトム村からは一切明かりが灯されていなかったのだ。海賊に襲われたばかりなので、警戒しているということも考えたか、朝まで1回も明かりが灯らないことは考えられない。ストーンはハトム村に入るまでにすでに覚悟を決めていた。我々は間に合わなかったのだ…案の定木々の間には、生前は人であったであろう物が積まれていた。中途半端に焼かれ悪臭を漂わせるそれは見るも無残な姿であった。村人たちのことを考えると、不憫でしかない。私達がもっと早く到着さえしていれば、そう考えると申し訳なさで胸が張り裂けそうになる。
「嘘だ…こんなの嘘!…」
その声で我に返ったがもうすでに遅かった。ハヤトがこの状態を目撃してしまったのだ。
「少年、見るんじゃない!」
そう、声をかけ、振り向くストーン。しかし、振り向いた先にいるハヤトは言葉を発することはなくの人形のように固まっていた。
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