第5話.惨劇そして別れ
トントントン…
嵐の中村長の家のドアがノックされる。
「なんじゃこの嵐の中、誰が来たんのかのう?」
村長はそう言い、ドアの方に向かう
「村長私です。」
「おお、どうしたのだこんな嵐の中寒かったろう、部屋に入りなさい」
そう言いながらサーヤの母を部屋の中に招き入れる村長
「村長に早急に伝えなければならないことがありまして、この村に船が近づいているらしいのです」
「船じゃと?」
「はい、ハヤトとトーマが沖から近づいてくる船を見かけたらしく」
「この嵐の中船とな?まさか、誰か漁業にでた訳ではあるまい?」
そう言いながら浜辺に向かう村長達、そして、浜辺について見た船は村長たちが思っていた船ではなく。海賊船であった。
「これは船なのではない、海賊船ではないか…」
そう呟く村長
「おいおい、早速村人のお出迎えかぁ~?」
そう言いながら村長の前に歩みよるヴォルグ。
「これはこれは、こんな嵐の中大丈夫でしたか?もしよろしければ、温かいものでもご用意いたしましょうか?」
村長は細心の注意をはらいながら話しかける。この者達を怒らせることは得策ではない。できる限りのもてなしをし、上機嫌で帰ってもらうのが最善の策であるそう考えたのだ。
「おお、これはありがたい。ではいただきたいものがあるのだが?」
その村長の問いに対し、ヴォルグは満面の笑みを見せる。
「はい、なんなりとお申し付けください。して、ご所望のものは何でしょう?」
ヴォルグの笑みを見て第1段階は突破したと思った村長。しかしその瞬間、ヴォルグからとてつもない言葉が吐き出された。
「全てだ」
そういうと同時にボルグの剣が村長の体を貫通した。
「かはっ…」
村長そう言いながら、サーヤの母を見る。サーヤの母は村長の顔を見るなり自体を察知し覚悟を決め村に向かって走り出す。
「さあ、野郎ども宴の始まりだ!」
ヴォルグの声と共に部下たちが一斉に村に走り出す。元々ヴォルグ達は海賊、嵐だろうがなんだろうが関係がない。ある者は食べ物。ある者は宝石や金品。ある者は女を各々が好き勝手に暴れまわる。ヴォルグ達がこの島について数十分。嵐の中、村人達の阿鼻叫喚が所々から響く。
「あんたたち、早くお逃げなさい。」
突然開いたドアからサーヤの母が血相変えて戻ってきた。ハヤト達は何が起きたのかも分からないまま、サーヤの母に問い返す。
「逃げるって何言ってるのお母さん」
「おばちゃんどうしたの?」
「逃げるってどこに逃げればいいんだよ…」
各々が動揺しながらも問い始める。そんな3人に毅然としながらもはっきりとした口調でサーヤの母がこう伝える。
「あんた達がさっき見た船、海賊船だったんだよ。それで今この村は海賊に襲撃されている。他の人々も助けたいけれど、間に合わない。だからせめてあなた達は海賊の手が回る前に早く逃げて」
「海賊って…」
ハヤトがそう呟くと同時にサーヤが泣き始める。
「いやよ、お母さん。私達だけで逃げたって何もできない。」
パニックになってる3人たちの頬をサーヤの母が叩く。
「しっかりしなさい。あなた達はただ逃げるんじゃないの。あなた達がこの村から逃げて助けを呼びに行くの、あなた達だけが頼りなの」
サーヤの母は懸命に3人を説得する
「助けを呼ぶって誰に助けを呼ぶのさ?城にまで助けを呼びに行ったらそもそも何日もかかるじゃないか」
そう言いながらハヤトが聞き返す。
「これを使いなさい。村から離れたところで、この筒を天に向かって引くの、そうすると照明弾がはなたれるわ。ストーンさん達が出て数週間は経ってはいるけれども、彼等はまだ村を回ると言っていた。私たちの村がもし一番最初で他の村も回っていることを考えれば、そんなに遠くには行っていないかもしれない。」
「でも、ストーン達が出てからもう数週間経ってるんだ。もう彼らはとっくに城に戻っているさ」
ハヤトが言い返す
「確かにそうかもしれない。その可能性の方が高いと思う。でも今はその小さな可能性にかけるしかないの。もしやらなければ、この村は滅びるしかない。だから、この小さな可能性にかけるしかないの!」
ハヤトの肩を掴みながらサーヤの母がそう熱弁する。
「うん。ハヤトくんやってみよう」
いつも弱気なトーマがそうハヤト促す。その姿勢に驚きながらも、トーマの一言でハヤトの心が決まる
「よし、やるだけやってみよう」
そう言いながら助けを呼びに行こうとするハヤト達だがサーヤが泣き崩れて立ち上がらない。サーヤに一緒に行こうと説得を試みるもサーヤはウンともスンとも言わない。しかし、時は刻々と流れる。焦る2人、そんな中、サーヤの母がサーヤを優しく見つめながら語りかける。
「いい?サーヤ聞きなさい。あなたは今はとても辛い局面に立っていると思うの。でも、人間生きていたら、今よりも辛いことなんか沢山あるわ。その度に心が挫けて動けなくなっては何もできない。お母さんサーヤにはそういう人にはなってほしくないのだから、頑張って…」
「お母さん…」
「さぁサーヤ行きなさい…そしてどんなことがあっても生きなさい。お母さんにとってサーヤが元気に生きていてくれることが一番の望みであり、幸せだから」
「うん…」
サーヤはそう言いながら涙を拭うとハヤト達と一緒に村の外へ向かう。村の外では至る所から阿鼻叫喚が聞こえる。そんな中ハヤト達はできるだけすばやく、そして出来るだけ目立たぬように村の外へ向かう。幸運な事に海賊たちは各々やることに夢中で、こちらに気づく様子はない。このまま村の外葉で逃げ延びられると思ったその矢先…
「おっと可愛らしいお嬢ちゃん達がどこに行くんだい?」
突如現れた1人の海賊が道を塞ぐ。その姿を見てサーヤの中の緊張の糸が切れたのであろう。サーヤは膝から崩れ動けなくなってしまう。
「おやおや、どうしたお嬢ちゃん?んまぁ、お嬢ちゃんはこのまま置いといていいとして、お前達2人はどうしてやろう?」
海賊がそう言いながら、ハヤトとトーマに忍び寄る。
「もうダメだ…」
ハヤトがそう呟く。無理もない、いくらこの村一番のガキ大将のハヤトとはいえ所詮12歳の子供。1日で起こり得るキャパはとうに超えている。そんな中、トーマが海賊の腰に飛びつく
「ハヤトくん、早く!」
「おい、なんだこのガキ離せ!」
そう言いながらしがみついているトーマを引き離そうとする盗賊
「トーマ…お前何してるんだ…」
思わず何が起きているのかもわからず、そう呟くハヤト
「ハヤトくんいいから早く逃げて!」
「おい、何を期待してるのかわからねえがあのガキももうダメだ。あのガキじゃなく、お前が逃げれば良かったのになぁ?」
そう、笑いながらトーマを引き離し地面に叩きつける海賊。
「うぎゃ」
地面に叩きつけられながらもすぐ立ち上がり、また海賊の腰にタックルをするトーマ
「いいかげんにしろ、このクソガキ!」
そう言いながら引きはがそうと海賊がトーマを持ち上げる。海賊に持ち上げられるトーマ、それを見上げるハヤト。絶対絶命に見えたその瞬間、普段の大人しいトーマから信じられない怒号が発せられる。
「ハヤト何してるんだ!お前にはやることがあるのだろう?お前の手に握られている物は何だ!!」
普段のトーマからは考えられないぐらいの怒号が聞こえる。その瞬間ハヤトは自分の右手に握られている筒を見る。
「うわぁぁぁ~」
ハヤトが叫びながら走り出す。トーマの怒号に目が覚めたのか、はたまたトーマの男気を見て弱い自分を恥じたのか理由などはハヤト自信わからぬ。ただ一つ言えることは、ハヤトの頭の中は真っ白だった。真っ白な頭の中、何も考えずただただ走って逃げたのだ。どれぐらい走ったかもわからないぐらい走り、我に返った頃にはハトム村からはかなり離れていた。
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