第2話.村に来るもの
ガタガタガタ…
森の中を荷台を引いた馬を引き連れ騎士達が歩いている。
「ストーン騎士団長、あそこに見えてきたのかハトム村でございます」
そう言い騎士の1人が騎士団長に声をかける
「やっと着いたか…」
「ハトム村はこの国でもかなり辺境の場所にありますからね」
「うむ、だがしかしいくら辺境とはいえ、盗賊たちに狙われない保証はない。そのことを考えると常に確認をしておくべきだ」
そんな会話をしながら、ハトム村に向かう一行の前に突如少年が飛び出してくる。
「辺境の地で悪かったなぁ?だったらこんなとこ来るんじゃねーよ」
そう言いながら騎士団に向かっていくハヤト
「これはこれは村の使いの方ですか?それは申し訳ない。ただ、我々も人間なのでずっと気を張っていることはできないのです。なので多少の発言はご理解頂けると幸いです。」
村の小汚い少年にもしっかりとした大人の対応をするストーン。
「ご理解?幸なんだそりゃ?そもそも俺は村の使いじゃねぇし、バルサの民がこんなとこに何しに来やがった!」
そう言いながらイキるハヤト。
だが、次の瞬間、村の人間ではないと認識した騎士団の目が、ハヤトに向かう
「少年もしや盗賊か?…」
その視線を見た瞬間、ハヤトは頭の中が真っ白になってしまい、言葉を発することができなくなってしまった。
「返事がないということは、盗賊ということで良いのだな?」
そう言いいつの間に出したのか短剣を喉元に突き立てるストーン。あわや大ピンチという時にもう1人の少年が飛び出してくる
「待って…待ってください!」
ゼェゼェと息を切らせながら走ってくるトーマ
「違うんです。彼はこの村の人間です。」
呼吸を整えながらも必死に盗賊ではないことを説明するトーマ。
「そうですかであれば安心です。てっきり盗賊の偵察かと思いまして…」
そう言い、短剣を収めるストーン
「少年良かったな?彼が来るのが遅ければ、君の命はなかったかもしれない。」
そうあっさりと命という言葉を使うストーンに対し、ハヤトは恐ろしさを感じながらも強がりを見せた。
「へん。お前らみたいな堅物がナイフ持ったところで怖くもなんともねーよ」
「そうか…だがな少年。これだけ覚えておけ、身の丈に合わぬことをした場合早めに命をなくすことになるぞ」
とても冷たく、しかしどこか優しい目でストーンはハヤトに言い聞かせる。ハヤトはその雰囲気にのまれ、何も言い返せなくなる。
「はい、分かりました。失礼します。ほら、ハヤトくん行こ…」
そう言い強引にハヤトの腕を掴んでその場を立ち去ろうとするトーマ。それに引きずられながらしぶしぶ去っていくハヤトだが、内心は助かったと心の中で思っていた。走り去っていくトーマとハヤトとを見守りながら騎士団達は山道を進んでいく、ハトム村までの道は森に囲まれているため、人が隠れることは容易である。気を抜きながら歩いているように見えても、周りへの警備は怠らない。騎士団とは、王を守ると同時に民を守らなければならないということストーンは誰よりも認識している。だからこそ、体制の変わったばかりのこの国で、彼が騎士団をまとめることができているのだろう。
ハトム村に入ると村長がストーン一行迎える
「わざわざこの辺境の地までようこそおいで下さいましたストーン様」
村長が深々と頭を下げる。
「村長頭あげてください。我々こそ、何事もなくて何よりだと思っております。」
村長の頭を上げさせ深々と頭を下げるストーン。それに次いで後ろにいる騎士達も頭を下げる。
「これはこれは頭を上げてください。」
騎士達の恭しい態度に村長も同じように伝える。
「盗賊の方はどうでしょうか?こちらの方には盗賊が向かってきているという情報は入っていないのですが、実際被害になどあっていませんか?」
「いえ、おかげさまで盗賊などはこの村に来ておりません。」
「そうですかそれは何よりです。ですが念のため部下たちにこの村の周辺をパトロールさせてきます。」
「おお、それはありがたい。」
村長の顔がぱっと輝く
「して、ストーン様何日ぐらい滞在できるご予定でしょうか?」
「いや、大変ありがたい申し出ですが、村周辺を捜索し異常がないとわかり次第すぐに立とうと思っています。」
「そうなのですか、せめて1日ぐらいお体を休ませてみてはどうでしょうか?」
「大変ありがたい申し出なのですが、ただ何分体制が変わったばかりでそれほど騎士達も揃っていません。なので、二手に分かれ積み荷の方は城へ、そして我々はこの辺りの村々を見回りに行こうかと思っているんです。」
申し訳なさそうにそう話すストーン。体制が変わる前までではあり得ない光景であった。
「でしたら、せめて旅の途中で食べれるお食事をご用意いたします。せめてそれだけでもお持ちください。」
「おぉ…それはありがたい部下達も喜びます。では、私も村の中でどこかおかしい所が無いかを調べてきます。」
ストーンはそう言いながら村の探索に入る。盗賊などは下調べをした後に必ず痕跡を残す。その痕跡を見逃さぬよう細心の注意を経て周りを見渡しながら歩く。
すれ違う村の人々はストーンを見るなりそそくさと逃げていく、そしてその視線は微かに怯えている。無理もない、以前の騎士団は村民たちを人間扱いせず好き放題暴れていたのだ。いくら体制が変わったとはいえ、村人たちは過去の恐怖を忘れられないのであろう。その視線を浴びながらストーンは自らの若きし頃の行いを恥じていた。そんな中先程の少年を見かける。どうやら母親にこってりと絞られたのであろう、ふてくされながら畑仕事をしていた。
「おぉ、少年今度はちゃんと手伝いをしているのだな?偉いぞ」
ストーン的には褒めているはずなのだがハヤトはバカにされたと思ったらしいすごい勢いで言い返してくる
「うるせえ、お前こそちゃんと仕事しろ!」
「これは手厳しい」
暴言を吐かれているのだがストーンはどこか嬉しそうだ。それもそのはず、この村の人々はストーンに対し恐怖の目をむけることはあっても本音で喋りかけることなどはない。そんな中での他愛もないやり取りは、ストーンにとっての癒しと一つとも言える。しかし、そのやりとりを聞き、ハヤトの母が慌てて話の中に割って入る
「騎士様お許しください。」
すごい勢いでストーンに詫びを始めるハヤトの母
「いいのです。その少年とは先程知り合いになりまして」
その言葉を聞いても謝り続けるハヤトの母、その勢いにいたたまれなくなりその場を離れストーンは探索を続ける。しばらく探索をしてみたが、盗賊からの痕跡はなく無事を確認できたところ、部下たちも集まってきた。
「ストーン様。村の周辺に盗賊の痕跡などは一切ありませんでした。」
「そうかご苦労、私も村の方も探索してみたが、盗賊の痕跡は無いように見えた。安全が確認できたので、次の村に向かおうと思う」
「サー」
騎士達が一斉に敬礼を始める。
「村長様のご厚意で旅の道中に食べれる食事をいただけることになった。道中皆で有難く頂こう」
「おお、それはありがたい。」
各所から歓声が上がる。こうしてストーンたちは次の村へと旅立った。
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