第16話 進撃(前編)


---三人称視点---



 翌日の6月13日。

 ヒューマン、エルフ族、猫族ニャーマン犬族ワンマン兎人ワーラビットで構成されたエレムダール連合軍は、パルナ公国の古都パールハイムを奪還すべく、連合軍の駐屯地から北上を開始。


 古都パールハイムの前方に広がるパルナス平原に武装した連合軍が陣取り、

 それに対するように帝国総督府配下の帝国同盟軍が血気盛んに帝国旗を翻す。


 連合軍は右翼に戦乙女ヴァルキュリアリーファとその盟友、

 それとアスカンテレス王国騎士団の騎士団、サーラ教会騎士団、

 更にエルフ族が統治するエストラーダ王国の王国騎士団が陣取り、

 その総数は五千人を超えていた。


 左翼には猫族ニャーマン犬族ワンマン兎人ワーラビットの騎士や戦士、魔導師が右翼部隊に負けじと士気を高めていた。 その構成員の多くは騎士団や魔導師騎士団の騎士達であり、それ以外の者は冒険者、傭兵であり、その総数は右翼部隊と同様に五千人を超えていた。


 そして中央の本陣でラミネス王太子とシャーバット公子が指揮を執り、

 彼等を護るべく多くの騎士、魔導師、冒険者、傭兵を含めた約一万人の兵力が陣取っている。


 対する帝国同盟軍は総督府将軍ジャンピエール・ベルナドットが総指揮を執り、

 連合軍同様に両翼に兵を配置して、中央に本陣を置いた。


 連合軍はまず左翼、右翼両翼に防御陣を敷き、

 ゆっくりと後退しながら帝国軍を引きつける。

 重武装した騎兵と歩兵を前衛に配置して、敵の攻撃を防ぎながら、

 長槍や弓兵部隊の攻撃でじっくりと敵を消耗させた。


 敵の攻勢が激しくなると前列、後列を入れ替えて再び防御陣を引く。

 連合軍の両翼がゆっくりとだが計算されたかのように後ろに下がる。


 帝国軍を指揮していた総督府将軍ジャンピエール・ベルナドットは伝令兵に

「攻撃陣を敷いて敵の右翼を撃破せよ!」と命じた。

 伝令兵の通達により総督府配下の帝国軍はゆっくりと攻撃陣を引き、

 敵の右翼から突破を試みた。


 だが連合軍は防御陣を敷いたまま、ゆっくり相手に合わせて、

 隙を作る事無く厚い壁となって帝国兵に立ち塞がる。

 そして相手を引きつけるなり、連合軍は急遽、攻勢に転じた。


「しょ、将軍……敵が防御から攻勢に転じて我が軍が押されています!」


「な、何だと……戦況と陣形はどうなっている!?」


 伝令兵の言葉に表情を強張らせるベルナドット将軍。


「敵は攻撃陣を敷きながら、両翼から我が軍の両翼を攻め込んでますが、

 敵の右翼部隊の攻撃が想像以上に厳しいです」


「くっ、ならば左翼部隊の護りを固めよっ!」


 ベルナドット将軍はそう叫びながら、手の甲で額の汗を拭う。

 パルナス平原平原の荒野に多量の血が流れて、次々と無数の屍が積み上げられる。

 総督府帝国軍に対して連合軍の右翼部隊の苛烈な攻撃が続く。


 右翼からサーラ教会の教会騎士団の総長イルゾーク・チェンバレン率いる教会槍騎兵が長槍を馬上から突き刺し、エストラーダ王国の騎士団長エルネスが手にした漆黒の大剣で、馬上から次々と敵兵を肉塊と変える。それに負けず劣らず、戦乙女ヴァルキュリアリーファも聖剣を馬上から豪快に縦横に振るう。


 教会騎士団の総長イルゾーク・チェンバレン率いる教会部隊が教会旗である白い旗の下に集い、猛烈な勢いと突破力で敵陣を縦横無尽に駆け巡る。

 敵の弓兵が苦し紛れに放った矢をチェンバレンが手にした長槍を旋回させ矢を弾き飛ばす。


 その間隙に金色こんじきの髪をなびかせて、

 リーファが手にした聖剣で視界に入った敵兵を次々と切り捨てて、

 地べたや周囲に血を飛散させる。

 その勢いに圧倒されながらも帝国軍も、勇敢さにおいては劣らなかった。


 リーファの斬撃で左肩を撃ち砕かれた

 帝国兵が死への世界に片足を突っ込みながらも、余力を振り絞って右手に持ったハンド・ボーガンをリーファの顔に照準を合わせた。


 それを見越したように、軍馬代わりの大型犬のセントバーナードに跨がったパピヨンのジェインがハンド・ボーガンの弦を引き、リーファの窮地を事前に防ぐ。

 そしてジェインが放った矢が次々と見事に敵に命中する。


「ありがとう、ジェインッ!」


「これくらい朝飯前だワンッ!!」

 

 ――流れがこちらに傾いているわ。

 ――ここは一気に攻勢をかけて、敵を蹴散らすべきだわ。


 状況を正確に読み取ったリーファは周囲を奮い立たせるべく――


「今です、私、リーファ・フォルナイゼンの後に続いてください!」


 美しき戦乙女ヴァルキュリアは、

 黄金の馬具をまとう白馬に騎乗しながらそう叫び、手綱を引いて先陣を切る。


 それを追うように連合軍の兵士達は国旗や教会旗を翻し、

 リーファの後に続かんとばかりに一斉に馬を走らせた。

 リーファは右手に手にした戦乙女の剣ヴァルキュリア・ソードを天に向けて掲げた。


 リーファが眉根をやや寄せて、その綺麗な唇を真一文字にして、

 何かの力を込めるような仕草をすると、聖剣の刀身を覆う光のような輝きが生じた。そしてリーファは渾身の力を込めて、聖剣を縦に振った。


 次の瞬間、聖剣から放たれた光の波動が帝国軍兵士を目掛けて襲い掛かった。

 瞬く間にその光を受けた帝国軍兵士が身体を震わせて、

 激しい痙攣を起こして馬上から次々と崩れ落ちる。


 これに対して帝国軍だけでなく、

 味方である連合軍も思わず息を呑んだ。

 それを気にすることなくリーファは、聖剣の柄を持つ右手を強く握りしめる。

 そして戦乙女ヴァルキュリアは眉根を寄せて、唇を綺麗に結んで集中力を高める。今度は光ではなく聖剣の刀身を覆うように、紅蓮の炎が燃え盛った。


 リーファは今度は空を目がけて、右手に持った聖剣を強く降った。

 すると紅蓮の炎は上空で弾けるように飛散して、

 鋭い炎の刃となって再び帝国軍に襲い掛かる。


 炎の刃が帝国軍に突き刺さり、帝国兵と帝国旗がたちまち激しい火で燃え上がった。炎の渦の巻きこまれた帝国兵は、炎で鉄が焦げる匂いと熱によって呼吸を乱しながら、馬上から崩れ落ちる。 混乱状態なった帝国軍目掛けて連合軍の弓兵が弓と弩をかまえて一斉に矢を放った。


 頭上から、あるいは直線上に鋭い勢いで飛んでくる矢が次々と帝国に突き刺さる。

 たちまち帝国軍の両翼陣が崩れて、有象無象の烏合の衆のごとく混乱状態になる。


 ――ここで一気に決めてやるわ!


 そしてリーファは左手で素早く印を結びながら、左手を前に突き出した。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『フレアバスター』!!」

 

 リーファは左手に魔力を集中させて、前方目掛けて、大声で砲声する。

 次の瞬間、リーファの左手から眩く輝いた光炎フレアが放出された。


「や、ヤバいッ!!」


「ま、魔導師部隊っ! 直ちに対魔結界を張れっ!」


「む、無理ですっ! 間に合いませんっ!」


「く、クソッ……帝国万歳っ!!」


 帝国兵達の悲痛な叫びを呑み込んで、

 放射された光炎フレアが敵の中央陣に着弾。

 そして「どおおおん」という爆音と共に地震のように大地が激しく振動する。 


 そこで追撃すべく、

 栃栗毛の軍馬に乗った賢者セージエイシルが前へ出て左手で印を結んだ。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『アークテンペスト』!!」

 

 そう呪文を紡ぐと、エイシルの両手杖の先端の魔石に旋風が生じる。

 そこからエイシルは両手杖を握る両腕を大きく引き絞った。

 次の瞬間、魔石から迸った旋風が巻き上がり、竜巻の如く吹き荒れた。

 そして帝国軍の中央陣に居た帝国兵達を乱暴にシェイクする。


 炎属性と風属性が交わり、魔力反応「熱風ねっぷう」が発生。

 二つの属性が交わると、このような魔力反応が起こり、

 それらを生かした攻撃方法は、連携攻撃や連携魔法攻撃と呼ばれている。

 咽せるような熱風が生じて、中央陣の帝国兵がもがき苦しむ。


 だがエイシルは彼等に同情するどころか、

 止めを刺すべく、更に攻撃魔法を唱え始めた。


「終わりだよ! 我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『プラズマバスター』!!」

 

 そう呪文を紡ぐと、エイシルの両手杖の先端の魔石に眩い光の波動が生じる。

 そしてエイシルは両手杖を握る両腕を再び大きく引き絞る。

 次の瞬間、魔石から迸った光の波動が流星のような速度で帝国兵に迫った。


「き、ぎゃあああ……ああァッ!?」


 その光の波動が一発、二発、三発と間髪入れず帝国兵に命中。

 それによって魔力反応が『熱風』から『太陽光サンライト』に変化する。

 そして光の波動が流星のように降り注がれた。


 凄まじい衝撃音が周囲に轟き、大気が激しく揺れた。

 帝国兵は光の渦に呑まれて、断末魔のような絶叫を上げるが、

 光の波動が容赦なく帝国兵に襲い掛かる。 

 それはまるで夜空に降り注ぐ流星群のような華麗さがあったが、

 光の波動に飲み込まれた帝国兵達が次々と死んでいった。


「今です、皆さん。 勝利を信じて愛する祖国の為に戦いましょう!」


 若き戦乙女ヴァルキュリアが高らかにそう宣言すると、

 連合軍の兵士、魔導師達も一斉に歓声を上げた。


「よし、我々も魔法攻撃で攻めるぞっ!」


「魔導師部隊! 一斉放射せよっ!!」


「了解ですっ!!」


 連合軍の苛烈かつ強力な魔法攻撃が繰り返されて、

 帝国軍は混乱、恐怖して一気に瓦解する。

 敵将ベルナドットは恐怖と怒りを交えながらパールハイム城へと逃げ込んだ。

 突進、後退、突進と八時間に及ぶ攻勢により帝国軍は、

 部隊の半数以上を失い、死の恐怖に怯えながらパールハイム城まで無残な敗走をする。


 帝国軍の死者7650人対して、連合軍の戦死者は465人という異例の数字であった。

 白馬にまたがり華麗かつ勇敢な戦いを敵ならず味方に見せつけたリーファは、

 連合軍の兵士達から拍手と賛辞の念を一身に浴びた。

 白馬から華麗に降りた若き戦乙女ヴァルキュリアは、群衆の声に笑顔で手を振り応えた。


「皆様、ありがとうございます。 後はパールハイム城を奪回するのみです。

 ですからもう一度私にお力を貸してください」


 リーファが威厳と慈愛に満ちた優しい声色でそう云うと、群衆がまた沸き返った。


「おおー!」


戦乙女ヴァルキュリアと共に戦い勝利を我が手に!」


 様々な歓声と賛辞を受ける麗しき少女が群衆と兵士に囲まれて微笑んでいた。


(とりあえず想像以上に上手くいってるわ。

 戦乙女ヴァルキュリアの力は私の想像以上ね。

 だからこの力を使って、勝利を掴み続けてみせるわ!)


 リーファはそう心で呟き黄昏色の夕空を見上げて、

 そう強く決意を固めるのであった。


---------


 名前:エイシル・クインベール

 種族:エルフ♀

 職業:賢者セージレベル29


 能力値パラメーター


 力   :109/10000

 耐久力 :286/10000

 器用さ :354/10000

 敏捷  :475/10000

知力  :1886/10000

 魔力  :3578/10000

 攻撃魔力:2259/10000

 回復魔力:2037/10000


 ※他職のパッシブ・スキル込み


 魔法  :ヒール、ハイヒール、ディバイン・ヒール

      キュア、キュアライト、ホーリーキュア

      プロテクト、クイック、アクセル、アクセルドライブ、フライ

   ウォーター、アクア・スプラッシュ、アイスバルカン、

      シューティング・ブリザード、大氷結、

      ウインドカッター、ワールウインド、アークテンペスト、トルネード、

      ライトボール、スターライト、ライトニングバスター、

      プラズマバスター、サイコキネシス、テレパシー、

      サイキック・ウェーブ、アポートetc

      

 スキル :結界、対魔結界、封印結界、召喚魔法、転移魔法

      

 武器スキル:スイング、ヘビースイング、スカル・クラッシュ


 能力  :魔力探査、魔力覚醒、二重詠唱、三重詠唱

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