第6話 試練(中編)


---主人公視点---



 ……。

 さてどうしたものかしら。

 自分自身と戦うというシチュエーションは当然初めてだ。


 常識的に考えれば、

 この眼前のもう一人の私も私と同じ戦闘力と技能を有しているだろう。


 そうなれば真っ向勝負では厳しい。

 ならば相手の隙を突いて、

 一気に倒すという戦法が一番効果的だと思う。


「……どうしたの? 相手が自分自身だから臆したのかしら?」


「っ!?」


 眼前のもう一人の私がそう云った。

 声もほぼ私と同じ、自分の声をこういう風に聞くとはね。

 なんだか妙な気分だわ。


「……どうせ貴方との事だから色々考えてるのでしょう。

 でも貴方はしっかりしているようで何処か抜けてるのよ。

 婚約破棄されたまでは計画通りだったけど、

 王太子殿下から求婚されたのは計算外。

 そして貴方は王太子殿下から見限られた。

 大人しく彼の求婚を受け入れてたら、

 良かったのに無駄な自尊心プライドが邪魔したのよね」


「……」


 どうやらこの私の分身は只の人形という訳ではなさそうだ。

 ちゃんと自分で考えて、自分で喋っている。

 見た限り知性もあり、自我もあるみたいね。


 恐らく今後も今のように私を煽ってくるのだろう。

 でも私はそんな挑発に乗らないわ。

 こう見えて私は煽り耐性は高いのよ。


「来ないの? 意外に臆病なのね!」


 ……無視よ、無視。

 それより状況を正確に把握する方が大事だわ。


 私はこういう事を想定して、

 冒険者ギルドで騎士ナイト転職クラスチェンジしてきた。


 ちなみに私の騎士ナイトのレベルは28。

 また戦士せんしはレベル25、魔法剣士は26。

 それ以外にも女僧侶プリーテス23、魔法使い27。


 色んな職業を万遍なく上げて、

 各職業かくジョブで得られるパッシブ・スキルも習得済み。

 そのおかげで能力値ステータスは底上げされ、

 全体的に能力数値が高い。


 私は一つの事より色んな事をしたがる性格だったので、

 冒険者としても様々な職業を得て、

 上級職ハイクラス騎士ナイトを選んだ形だ。


 そのおかげで私は冒険者としても少しは名が知れていた。

 冒険者ランクも上から五番目のBクラス

 また魔法ギルドの資格も持ってるわ。

 こちらは上から六番目のCクラス


 このように私は良く言えば万能型。

 悪く云えば器用貧乏とも云え無くないが、

 基本的には自分一人で色々な事が出来る。


 しかしこうして自分の分身と戦うとなると、

 少し戦い方を考える必要があるわね。


「……今、色々な策を練っているところかしら?

 でも貴方は自分が思っている程、賢くないわ。

 婚約破棄されたのは想定内かもしれないけど、

 王太子殿下の求婚は想定外だったでしょう」


「……」


 不思議ね。

 自分の分身が自分と同じ声で色々な事を言って来る。

 気が短い人なら、これだけで脊髄反射するでしょう。


「大人しく求婚を受けていたら、

 今後の人生は安泰だったでしょうに……。

 そういう所が女として可愛げがないのよ」


「ふうん、それで?」


「……そういう態度が人の反感を買うのよ」


「あっそ」


 ……。

 おかしいわね。

 自分から仕掛ける気配がないわ。


 とはいえこのままお見合い、という訳にもいかない。

 周囲の観客席では教皇聖下や枢機卿達がこの戦いを観戦している

 仕方ないわね、ここは自分から攻め込むわ。


 この分身の実力は私と同質か、それ以上と見でしょう。

 でも自分の中で勝手に相手の力量を肥大化する必要もないわ。

 直接、肌身で感じればいいのよ。


 その言葉を実践するかのように、

 私は身を低くしながら地を蹴り前方の敵へ襲い掛かる。

 剣の軌跡が空気を切り裂き、

 白銀の長剣と同じ形状の銀の刃が衝突する。


 私は激しい斬撃を繰り返しながら、一進一退の攻防を繰り広げた。

 脚甲ソルレットで地面を蹴りつけ、

 縦と横に白銀の長剣で閃光を走らせた。


 だが眼前の敵もまた俊敏な動きでそれを躱す。

 上下左右にステップを刻み、私の繰り出す剣撃を次々と回避。

 でも私も怯まず、ステップインして距離を詰めた。


 私の銀の刃が神速の動きを見せる。

 しかし、対峙した私の分身の銀の刃もまたそれを上回る速度で動いた。


 カキンという鈍い金属音が響き渡る。

 激しい斬撃を繰り返して、

 私は苦心の末に相手の頭部に目掛けて、横薙の一閃を繰り出した。


 すると眼前の敵が即座に身を沈めた。

 銀の刃は、髪一本触れることなくまた空を切る。

 そこで私はバックステップして、一旦呼吸を整える事にした。


「ハアァ、ハア、ハアァ……」


「どうしたの? もう息切れかしら?」


 ……。

 強い、というよりかは自分の動きを見切られている気がするわ。

 まあ相手は自分自身だものね、当然と云えば当然ね。


 でも何と云うか基本的に受け身ね。

 向こうから仕掛けて来る気配はないわ。

 私はこの辺りに妙な違和感を感じた。


 そう云えばさっきは剣技ソードスキルも魔法も使わなかったわね。

 ……とりあえず様子を見るべく、

 剣技ソードスキルを使ってみよう。

 そして私は素早く腕を内側に引き絞り――


「ハアアアァァッ……『ヴォーパル・ドライバー』ッ!!」


 気勢と共に得意の剣術スキルを中段に神速の速さで突き入れた。

 だが眼前の敵は初弾の中段の突きをサイドステップで回避。

 そして逆にがら空きになった私の腹部に目掛けて、右膝蹴りを浴びせた。


「ぐ、ぐふぅっ!?」


 良い蹴りだわ……。

 私は堪らず真後ろに下がった。 


 そして私の分身は 即座に振り返り、高速の右回し蹴りを繰り出した。 

 しかしこれは想定内。 

 私は全身の闘気オーラを漲らせて、

 両腕を十字にして、繰り出された回し蹴りを防御ガードする。

 鈍い音と共に、私の両腕に重い感触と衝撃が伝わるが、歯を食い縛り耐える。


 良い蹴りだったけど、闘気オーラは纏ってないわね。

 闘気オーラを纏えば攻撃力も防御力も飛躍的に増加する。

 だからこの場で眼前の敵が闘気オーラを纏わない事に違和感を感じた。


 まあでもこの際それはいいわ。

 教皇聖下の手前、私も醜態を見せる訳にはいかない。


「どうも自分自身が敵というのも不思議な感じだわ。

 でも私も負ける訳にはいかないのよ!」


 私の分身も歯軋りしながら、白銀の長剣を私へと向ける。


「――かかって来なさいっっ!!」


「――行くわよ!!」


 私は雄叫びと共に放たれる斬撃を、

 身を屈める事で回避し、下段から銀の刃を突き出す。

 こちらの攻撃も避けられたが、私は構わず足を止めずに加速する。


 ここは攻める。 

 攻めて、攻めて、攻め抜く。 

 負ける訳にはいかないのよっ!


「ハアァァッッ!!」


「――せいやぁッ!!」


 私達はお互いに一歩も引かず、

 持てる限りの力を尽くして激しい斬戟を応酬する。

 私は眼前の敵の猛攻を防ぎ続け、

 隙を見つけては勇猛果敢に斬りかかる。


 耳障りな硬質音が周囲に響き渡る。

 重心を低くして、低姿勢から特攻を仕掛ける眼前の敵に対して、

 私は軽くバックステップして、手にした白銀の長剣を振り上げて――


「――イーグル・ストライクッ!!」


 と、技名コールして初級剣技しょきゅうソードスキルを繰り出したが――


「せいっ! ――イーグル・ストライクゥッ!!」


 相手も同じ剣技ソードスキルを放ってきた。

 そして銀の刃と銀の刃が噛み合い周囲に火花を散らす。


「くっ……」


 その衝撃で私は後ろに軽く吹っ飛ばされた。

 すると私の分身も後ろに飛びすさった。


 どうやら私とコイツの力量は同等のようね。

 同じ力量を持った者同士の戦いという訳か。


 こうなると大事なのは精神力。

 絶対に諦めない闘志が重要になるわ。

 とはいえこういう戦いは精神的にも疲れる。


 だけど私の中に「諦める」という言葉はない。

 私も伊達や酔狂で戦乙女ヴァルキュリアを目指している訳じゃない。

 だから絶対に最後の最後まで諦めないわ。

 

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