2-3
国王との謁見が無事終わり、フィオナとルークは王城から出た。
「お
「あぁ……やっぱり私、甘やかされてたんだね」
「そうっすよ。でろでろなんで
こうもはっきり言われると、逆に
「私に同情してくれてるからだよね。
しみじみのんびりと告げると、ルークはピタリと足を止めて、ポカンと口を開けた。
信じられないものを見たような顔をしている。
「え、マジ? あんだけあからさまなのに気付いてないとかマジっすか?」
「まじって何? あからさまに甘やかされてるってことは、ちゃんと気付いてるよ」
フィオナはこてんと首を
(うわぁ……マジだ)
マティアスの行動はあからさますぎて、さすがにぼんやりとした彼女でも気付いていると思っていたのに、まさか全く理解していないだなんて。
どうしたものかとルークは悩んだ。マティアスが彼女を女性として
(うん。やめといた方がいいな)
そんなことになったら、命がいくつあっても足りない。
「いや、それでいいっす」
「??」
彼は何も教えず、
余計なリスクは負わずに、無難に日々を過ごしたいのだ。
「で、何したいっすか?」
「結局聞くんだ……えっとね、散歩がしたいかな。この辺りは来たことがなかったから」
「散歩っすか。
二人はこのまましばらく王城の周りを歩くことにした。
「ねぇ、私がお世話になってる建物は
「オレは二階に住んでるっす。あそこは魔術師の
「やっぱり」
何となくそうだろうとは思っていたから
「普通の部屋に移動できないかな」
「無理っすね」
「どうしてもダメ?」
「文句があるならマティアスさんに言ってほしいっす。権力を振りかざして好き勝手してるのはあの人っすから」
そう言われてしまうと、もう何も言えなくなる。
マティアスにはすでに、部屋が
「うん、もういいや」
「そうそう。人間諦めが
二人で顔を見合わせて苦笑いし、しばらく王城の周りを散歩してからホームへと戻った。
「すんません、自分ちょっと限界っす」
「分かった。行ってきて」
建物に入ってすぐのところで、ルークはトイレに行きたいと訴えた。フィオナを五階の部屋まで送る
「ほんとすんません、しばらく動けなくするっす」
「はーい」
両手をすっと前に差し出すと、ルークは左の
枷に描かれている
どうやら左手の枷に施された呪印は、体から力を奪うものだったようで、彼女は手を軽く握るのが
ダークグレーのスボンと黒い
青い
「こんにちは」
「……」
フィオナは挨拶をしてみたけれど、返事はない。
彼が無言で右手をそっと前に出したので、彼女は何だろうとじっと見た。手のひらからじわっと水が出てきたところで、あぁもしかしてと思った次の
「はっ、魔力を
結構な量の水をその手から放出し終えてから、彼はようやく口を開いた。投げ捨てるように言い放つと、びしょ
そんな
「……あ、いつも水で
水を頭から
彼は平然としているフィオナにピキッと青筋を立てるが、彼女は淡々と話しかける。
「ねぇ、ちょっとお願いがあるのだけど」
「何だよ」
彼は不満そうに緑色の目を細めている。
「あのね。後でこの水片付けておいてもらえるかな。このままだと通りかかった人が
「はぁ? ならオマエが
彼は少しだけ声を
「そっか。そうだね。でも濡れたまま雑巾を取りに行ったら廊下を濡らしちゃうし……どうしようかな……」
「……」
うーんと悩みながら、どこまでものんびりゆったりと話すフィオナに調子を
「っっあー! グレアムさんこのやろう、何てことしてんすかー!」
トイレを済ませたルークがバタバタと走り寄ってきた。そのままフィオナの枷にそっと
「グレアムさん、さっさと水を消すっす」
「っっだよ、うっせぇな。元々そのつもりだったっての」
フィオナはよっこいしょと立ち上がる。
「ありがとう。私フィオナって言うの。よろしくね」
彼女は何事もなかったかのようにのんびりゆっくり穏やかに自己
「はっ、変なヤツ」
そう言い捨てると、彼はさっさと立ち去ってしまった。
ずっと淡々と受け答えしていたフィオナだが、彼の
「私って変なんだ……」
変なヤツと言われてちょっぴり悲しくなり、か細い声で
「変じゃないっすよ。変なのはあの人の方っす。いい年して
「ほんと? いい年って、あの人いくつ?」
「二十三歳っす。あれで自分より年上だなんて、ほんと信じられないっすよ」
ルークは
「そう。マティアスと同い年なんだね」
「そっすよ。マティアスさんも
「あれって何? マティアスは優しくて素敵な人だよ」
「あー……はい。そっすね」
フィオナさん限定なんすけどね……という言葉は、彼女に聞こえない声で言った。
「それよりフィオナさん、さっきは一人にしてすまなかったっす。まさかあの短時間にグレアムさんがちょっかいを出してくるなんて、さすがに思わなくて」
「ううん、気にしないで」
「そっすか。それじゃ部屋に戻りましょか」
「うん」
二人は彼女の部屋に向かって歩き出した。
五階まで階段を上っていき部屋に着くと、フィオナは胸元のリボンを外した。シャツの一番上のボタンも外してふぅと
首元までしっかりかっちり締めているのは苦手なのだ。
ルークとテーブルを囲み
手早く二人分のお茶を
ココットにはハチミツとジャムがそれぞれたっぷり入っていて、フィオナはマティアスの顔を
皿に小さなマフィンを一つ取って、ジャムをたくさんかけてからかぶりつく。
飲み物は温かい紅茶。口の中をスッキリとさせるために、こちらは何も入れずに飲む。
少しの間だけどびしょ濡れになった体に温かい飲み物が
「ねぇ、ここの人たちっていい人ばかりだね」
「頭から水ぶっかけられたばっかなのに、何でそういう感想になるんすか?」
「だって、あからさまな悪意を向けられたのはさっきが初めてだったから。水をかけられて、あぁこれが普通の反応だよなぁって思ったんだ」
「あーなるほど。それはっすね……」
ルークは、フィオナが敵だったにもかかわらず、あまり悪意を向けられていない理由を話しだした。
フィオナが戦場で誰も命を落とさないよう、手加減していたこと。
味方であるはずの
「……え。何で知ってるの?」
絶対にバレていない自信はあった。
『敵は全て退けろ』という皇子の命令に
「気付いたのはマティアスさんっす。そんでフィオナさんを
「……そうなんだ」
なるほど。だからレイラも普通に優しくしてくれて、廊下ですれ違う人たちの視線にも悪意を感じなかったのかと納得する。
敵視されるよりはずっといいけれど、何だか恥ずかしくなり、両手で
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