練兵に倣う灰滅-13-
そうしてティムさんの実践訓練を毎日繰り返し、時折ルカさんの座学で新しい知識を取り入れながら目紛るしい成長を遂げて二十日が経過した頃。僕の身の
そして、ティムさんとの鬼事。こればかりは、惨敗続きであった。逃げ回るティムさんの【捕獲】を前提とした勝利は、結果的に掴み取れはしなかったのである。だが、【掠る】までには至った。それ自体は、僕にとって大きな前進であった。
「これなら実戦に出ても大丈夫ですかね!?」
肩で息をしながらも、訓練の成果に手応えを感じていた僕は、息巻いてルカさんとティムさんに尋ねる。二人は、直ぐに首を縦に振ることはしなかったが、その表情はどこか満足げでもあった。
まるで二人に少しは認めてもらえたような感覚に陥っていると、「ここまで急成長したハチに、豪華スペシャルプレゼントだ……」とティムさんが
そして結果的には、長らく座学と実践の現場監督が如く、ずっと実見を決め込んでいた、
「今日から第二部隊との合同任務の決行日までの間、俺が鬼役を務める鬼事の相手をしてもらう。何、ティムとの鬼事を経て実力は付いてるはずだ。今回はその延長線と思えばいい。もちろんその
未だ
彼はポケットに手を突っ込んだ。たったそれだけの動作にも拘らず、若干身構えるのは、きっと気後れしているからだろう。開幕から攻撃や陽動の類でも噛ましてくるのかと思いきや、そこから出てきたのはただの一枚の銅貨。瞬時に安堵するが、同時に気を抜くなと己を警醒する。
「このコインが床に落ちたら手合わせの始まり、いいな?」
コクリと頷くと、レンさんの手に収まっていたコインがピンと弾かれた。
ベンチに座ったルカさんとティムさんに一瞬目を遣れば、真っ直ぐ逸らすことなくこちらを見ている。「己が学んできたこと全て活用して生き残れ」と暗に伝えているように思えたが、内心「こんな歴戦の化物相手に無茶なことを」と苦々しく笑わざるを得ない。
コインが落ちる。キンと高い金属音が室内に鳴り響いたと瞬きした矢先、レンさんの姿は既にそこにはなかった。刹那の出来事。焦燥感に駆られながらも、「彼はどこへ行った?」と四方八方に視線を巡らせる。相場として、上方・下方・後方から攻め込むというのが因習だと戦術学の一つとして学んでいるため、そこを重点的に細心の注意を払うが、しかしレンさんの姿はどこにもない。完全に視界から外れてしまった――開戦序盤からの失策。だが、後悔している暇などどこにもない。残影や足音、人の匂い、そして触れられた一瞬の掠る感覚などをフルに運用して、捕獲者からその身を躱していかなければならないのだ。
深く考えている余裕はない。何せ周囲には際限なく襲い来る
すると、辺り周辺からランダムに足音が響き渡った。軍靴が鳴らす音は、こちらに居場所を特定させないよう前後左右から反響する。恐らくは足音を殺した歩行と
「訓練開始二十日目の初心者相手との鬼事で、マルカート歩行で混乱を誘うだなんて、隊長も意地の悪い。完全にハチは動揺してしまっている。ここからの攻撃なんて予測が付かない状態でしょうに」
「俺達でさえ隊長との試合でマルカート歩行を使われちゃ、その位置特定にはかなり感覚を研ぎ澄ませなきゃならんってのに、初心者がどうこれを凌ぎ切るっていうんだ。隊長は本当にハチを育てる気があるのか?」
これまでの実践訓練では、『考えて動く』ことで困難な状況を切り抜けられていた。戦況を把握して
これは考えて動くことに重きをおいても仕方がない。つまり彼が最初に言っていた通り瞬発力と咄嗟の判断力、潜在能力を試されているということなのだと。僕の中で一つの確証に至る。
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