練兵に倣う灰滅-3-
「話を戻すけど、この銃創について聞いてもいい? 一応最低限の応急処置で止血はしてあるみたいだけど、発砲した銃弾は取り除いてある訳? それによっては治療の時間が上下する。所見上散弾銃じゃないみたいだから、取り除く弾数は最低限で済むかって程度だね。右肩の傷は綺麗に骨の間を貫通してるみたいだから、内部に銃弾が残存している可能性は低いと踏めるけど、問題は両腿だよ。何したらこんな筋肉断裂して骨が丸見えになる訳? 何か細かい破片がちらほら見えるけど、まさか手榴弾の爆風にでも当たった訳じゃないよね?」
口早に捲し立てるテオさんに対して、レンさんはまるで気圧されたように
「あー、肩の方は綺麗に貫通するよう射貫いたんだが、両足の方は極力死なない程度に痛め付けようと炸裂弾二発
「何を根拠に痛め付けたのか分からないけど、単純に痛め付けるだけにしては、最悪な状態としか言えないよ。これ」
「後は見て分かる通り、その影響で大腿四頭筋が断裂して、大腿骨が露出しちまったわな。ははは」
テオさんから同情した視線を向けられる。レンさんの言動が常軌を逸している点に理解を示してもらえたと認識したと同時、彼は【僕が不条理な暴力を受けたのだ】と喝破したであろうことが、すとんと腑に落ちた。
一方、頂けないのはレンさんの態度である。はははじゃねえよ、何
「……ていうか、今更だけど言わせて」
「おう、何よ?」
「はぁぁぁ!? これってハルちゃんが痛め付けた跡なの? ハルちゃん自身が自分で蒔いた種なのに俺が治療を強要させられる意味が分からないんだけどぉぉぉ?」
テオさんが強かに反抗を示す。彼の言いたいことはご最も。彼が今強制させられていることは、言わばレンさんの
そんな世田話に付き合って早五分が経過しようとしていた最中、僕の痛みの限界は既に頂点を迎えており、未だ痛みに耐えに続けている僕の内心は「さっさと治療してくれ」という熱情で爆発しそうだった。僕は息巻いてこのくだらない会話に終止符を打つ。そうでもしなければこの二人はだらだらと無駄な会話を続けていたに決まっているからだ。
「あの! 見ての通り傷口が疼いて痛いんですよ! 我慢できないくらいに! 処置するならするでさっさと済ませてください!!」
緊迫感溢れる雰囲気に悲壮感溢れる表情で訴えかけたのが良かったのか、大の大人二人は今まで雑談を繰り広げていたのが嘘だったかのように、お互いに目をパチクリさせて頷いた後、静かに、そして速やかに処置の下拵えに取り掛かった。テオさんは処置に必要な道具を掻き集めに席を立ち、レンさんは処置台の上に散乱した医療論文を分類ごとに片付けて。互いに手際良く準備を進めて行く。
「ハルちゃんもハルちゃんで大分横暴だけど、ハッチの押し問答は断れない謎の魔力があるね。分かった分かった。治療を始めよう」
「そうそう。俺も大声でコイツに拷問の静止を掛けられた時、脊髄反射で距離を取るくらいにビビったぜ。まるで飼いならされた犬みてえに、体が動かなくなりやがった。意外と調教師張りの凄業を持ってるかもしれねえな」
「口を動かす暇があったら手を動かしてもらえます?」
「はいよ」「はーい」
確かに、僕が渾身の発言した時に限って、彼らの動きが賢く調教された犬のように従順になるという事実は否めなかった。小一時間前の暴力を行使し続けるレンさんに対し捨て鉢で放った「やめろ!」という台詞も、今さっきの重傷で苦しむ中雑談に花を咲かせる二人の会話を
「
そんな二人に僕が疑問を投げ掛ければ、彼らはまたもや目を瞬かせた。曰く、この国・アミティエに在住している人間が【
「
「そんな力、一体どういった使い道があるっていうんですか?」
「さあな。大方祭儀の執り行いや大社の政務を円滑に運ぶためのものじゃねえか?」
「何だ。その口振りからするにレンさんも実際詳しく知らないんじゃないですか」
「知らねえというよりは、歴史上古くより存在すると言われているってのが記録で、発令されたところを見た人間が誰もいねえってのが実状だわな」
丁寧な解説に更なる疑問が生まれるものの、どうやらその神通力とやらは存在自体が怪しい歴史上の御業なのだとか。国家全土に知らしめる逸話なんて大したインチキだと感心すると共に、僕のこの発言力はやはり
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