ちょっと痛くて
野原想
ちょっと痛くて
高校と言う場所を象徴させる騒がしさの中、俺は何気なく切り出した。
「なぁ、なんでお前いっつもピアス引っ掻いてんの?」
「え?ああ、それ聞いちゃう?」
彩侑(さゆ)はいつも通り左耳についているピアスの裏をカリカリと指で引っ掛けながらニヤニヤと言う。そして、ズズーとパックのジュースを飲み干した何かを企んでいる表情を浮かべた。
「じゃあクイズしようぜ」
「は?クイズ?」
「そ、俺がピアス引っ掻く理由を当てられたらお前の勝ち」
そう言いながら彩侑はまたピアスをカリッと引っ掻いた。こいつの言動に少し脈略が感じられない程度のこと、俺はもうなんとも感じない。
「当てられなかったら俺の勝ちで、俺の言うこと一個聞いて」
「え、俺の勝利特典は?」
「ん〜あ、今食ってるこの焼きそばパンのパンの部分をやるよ」
半分ほど齧ってある焼きそばパンに視線を落としながら真顔でそんなことを言う。
昼休みにこの話をしたのが失敗だったのか…。なんて考えたが、小学校一年から高校二年の現在まで約12年間の付き合いであるお前と毎度今更新鮮な話題でキャッキャできるわけでもないのでまぁ、仕方ないと思うことにしよう。
「お前、それで俺が喜ぶと思ってんだったら俺のこと舐めすぎじゃない??」
「ルールはな、三回まで質問していい」
「無視かよ、オッケ三回な」
季節が夏から秋へと変わってきて冬服を着ているやつもちらほらいるような季節に征服移行期間を完全無視して半袖を貫き通しているこいつに見慣れてしまった俺も、もうどうしようもないのかもしれない。
「イエスかノーで答えられる質問だけな」
「あいよ」
少し肌寒い風が俺の手の甲をなぞっていく。
「じゃあスタート」
「んー、考えだしてから思ったけどこれ結構むずくないか?」
こいつの中にしか存在しないこいつの行動の理由を当てるって結構果てしない問題なのでは?と今になって気づいてしまった。
「そうか?お前俺のこと俺より知ってるみたいなところあるし、いけるだろ」
「買い被りすぎだな…」
「昼休みそろそろ終わるから早くしたほうがいいぞ」
制限時間短いな、なんて思いながらも自分で話し出した手前中途半端にするのも良くないと思ってしまうのが俺の真面目なところだな。
「えっと、じゃあ、意識的にやってるのか?」
「イエス!!最初からいい質問だな」
「お、じゃあ次…四六時中?と言うか、付けてる間はずっと?」
「あ〜、それはノーだな」
ノーってことは、こいつの中で何かしらの線引きというか区切りが存在するのか。時間帯…は関係ない気がするし、天気も違うだろ、気分…じゃ問題にならないしな。
「あ、あれか、誰かといる時、みたいなことか??」
「お!イエスだ!質問今ので最後な!答えてくれ!」
最後の質問、誰と、って絞り込んで聞けばよかったな…。って、こんな雑談の延長に本気になってどうすんだよ。そんなにマジになることもないしな。
「よしじゃあ、俺といる時だ。答えは、俺といるから」
冗談混じりに弾き出したその答えを聞いて彩侑がニヤリと笑う。
「んん〜!!惜しいな!さんかく!50点って感じ!」
「え、半分正解?え、俺といるからってのはマジなのか?」
思わずぐいっと顔を寄せた俺に合わせて身を乗り出してくる彩侑。
「マジマジ!導き出せなかったもう半分、知りたいか?」
「ま、まぁな」
ここまできたらかなり気にはなったが、ちょっと気になるな、みたいな風を装った。
ニヤッと笑うこいつが「耳、」というからその言葉通り彩侑の方に耳を向ける。少し息のかかる距離で小さく息を吸い込んだ彩侑は小さな声で言った。
「お前に引っ張られてる想像するとさ、興奮すんだよね」
声が出そうになった口を手で覆ってばっと背中を倒す。
「ばっ、お前、」
「あ〜でも半分正解だったから言うことはちょっと聞いてもらって、明日の昼飯とか奢ってもらっちゃおっかな〜。それで丁度じゃね?」
何が、丁度じゃね?だよ。今俺、人生で最大の衝撃を感じて、声にすら出来ずに爆弾みたいに抱えたまんまだって言うのに、お前はめちゃくちゃいつも通り…。
「お前もピアス開ける〜?俺が開けたげよっか?バチン!って」
小学生の時から何千回と見てきたこのにやけ顔に心を乱される日が来るなんて、誰がいつ想像できただろうか。
「い、」
キーンコーンカーンコーン、
「あ〜、タイムオーバーだな」
ガタリと立ち上がって俺の席から離れていく彩侑。
『いいよ、』なんて言おうとしたなんて、自分でも信じられなくて、午後の授業が手に付かなかったことに関しては、説明するまでもない。
ちょっと痛くて 野原想 @soragatogitai
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