Forever Guys

空伊 若

第1話 妖艶な星

思えば僕の人生はありきたりなものだった。


僕の名前は海藤 要(かいどう かなめ)。

小さい時から運動も勉強も人並みにできた。努力しなくても中の上ぐらいの成績は取れたし、体育の授業だってそれなりに活躍できた。容姿もそれなりに優れていた。家族構成も母、父、妹の4人家族。至って普通。家族関係も良好。ありきたりだ。

でも、人生といってもたった17年の話だけど、そんなありきたりな人生でも今思えば貴重な時間だったのかもしれない。今思えば–––


「よっ」

急に目の前に顔が現れた。僕は驚きのあまり、声も出なかった。なにが起きたのか分からない。その顔は続ける。

「今日はお前をスカウトしに来たんだ。スカウトって言っても拒否権なんてねぇんだけどな」

スカウト?何を言ってるんだ、こいつは。そもそも何故こいつは家の中にいるんだ?いつ入ってきた?疑問だらけの混乱した頭に男は更に混乱を重ねてくる。

「どうしたんだ?キョトンとした顔して。あぁ、勝手に部屋に入ったこと気にしてんのか?悪かったよ。とりあえず話そうぜ。お前は晴れて今日から"ガイズ"になったんだからな」

「ガイズ?」

思わず口に出してしまった。こいつの言っていることはめちゃくちゃだ。何が何だか分からない。そもそも勝手に入ってきたことよりも何故勝手に入ることができたのかの方が気になる。


「あぁ、なーんも説明しなかったらそりゃ分かんねぇよな、俺も最初はそうだったぜ。でも、まぁそのうち慣れていくんだよ。本当に。全てを受け入れられるっていうかよ…まあガイズに選ばれたってのは簡単にいうと今日からお前も普通では無くなるって訳だ。」


男は淡々と語った。ガイズについて。

ガイズとは不老不死であること。自分もガイズであり、長い時を過ごしてきたこと。その人にとって一番美しいときに時間が止まり永遠を生き続けること。実は周りにもガイズが普通に暮らしていること。永遠に生き続ける為に必要なガイズの使命があること。そして、僕がそのガイズに選ばれたということ。


「まぁ、ざっとこんなもんよ。使命っていうかあれよ。まあそれはそのうち説明するっつーことで。今日は選ばれたってこととざっと概要だけ伝えにきたっつーわけ。とりあえず、まぁ色々考えることはあるだろうがおやすみ。また来るぜ」

そう言って男は去った。僕は目を疑った。窓から男が消えたのだ。飛び降りたわけでもない。消えたのだ。

窓から空を覗くと無数の星々が煌めいていた。その日男が溶けていった星空はいつにも増して妖艶に煌めいているように見えた。


いつも通りに見える朝が来た。あんなに衝撃的な夜だったのに、驚く程普通に眠ることができた。

僕は朝は好きだ。全てがリセットされて頭の中が晴れ晴れとした気分になる。そんな朝だからこそ冷静になって、昨日のことを振り返ってみ…


「おい、何思いにふけてますって顔してんだよ」


「は…?」


思わず口に出してしまった。いやでも、何故こいつがまたここにいるんだ?何回も問うがこいつは一体どこから入ってきてるんだ?


「俺、昨日言ったろ?使命?ってやつそのうち分かるって。それをな。あ、あれから眠れたか?」


いやいや、早すぎだろ。昨日の今日だぞ?なんなら数時間しか経ってないぞ?こいつはどれだけ俺を混乱させたら気が済むんだ?


「…眠れましたよ。驚くほどぐっすりと。僕はこれからどうなるんですか」


どれだけ混乱していても、僕の問いはそれに限る。


「えぇ、お前…俺、昨日説明したじゃん…不老不死になるんだよ。てか、よく眠れたなこの状況で」


「はぁ…」

全くもって理解ができない。昨日の説明で全てを理解しろというのか…もうゆるりと順応していくしかないのか…


「まあとりあえずな、使命だ使命。でもその前に必要なことがあってだな。要、お前は今から花を咲かすんだ」


「は、花?」


「そうだ、花だ。だが家庭園芸みたいにプランターとかでやるんじゃないぞ」


それをいうなら、家庭菜園だよ、と心の中で思った。この男は実は頭はあまり良くないのかもしれないなとも。時を重ねてもバカは治らないのだ。


そんな内心とは裏腹に男は元気よく言葉を並べた。


「俺達は花を咲かせなきゃいけないんだ。それは美しい者、つまり俺たちしか咲かすことは出来ない」


花を咲かせるのに容姿なんて関係あるのか?と思いながら、その男の顔をまじまじと見てみる。

美しい。何というかただ美しいのだ。

目鼻立ちもくっきりしており、目は宝石を埋め込んだかのように大きく輝き、睫毛は束になっていってくるんと上を向いてカールしている。肌は絹のように滑らかで病的なまでに白く、太陽光に照らされ、妖艶な輝きを見せている。光が当たり、短い髪も滑らかに輝いている。まるで太陽が彼を祝福しているかのような…昨夜は暗くてよく見えなかったが、今は太陽の光も相まって吸い込まれそうな美しさである。まるで人形のようだ。


「花咲かせるのに容姿なんて関係あんのかって思うだろ?ただ見た目がいいってだけが美しさじゃないぜ。詳しくは知らんけど、お前も見た目がただ優れてるってだけでガイズに選ばれた訳じゃないのは確かだ。まあそれも花を咲かすことができたら、お前が何を持っているのかが分かるはずだ。まあ、ガイズの適格検査みたいなやつよ」


それを言うなら、適性検査なのでは…というツッコミは心の中にしまっておこう。つまりこの花咲かせが使命とやらに繋がるということだろう。とりあえず、これを乗り越えなければ何も始まらないということは確かだ。


「どこでその花は咲かせられるんですか?」


「人の心の中に咲くんだ」


「…は?」





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