第25話 【小夜子陣営、細川の動き】

 佐々木小夜子の取り巻きである、細川は考えていた。


 宮本武と言えば、成績優秀なうえにスポーツ万能。おまけに、爽やかさはピカイチ。それなのに、浮いた噂を全く聞かないのは、以前の学校が男子校だったからだろう。


 共学ならば、女子生徒が放っておくはずがない。現に、武のファンクラブがつい先日、非公式に発足したばかりだ。


 細川は、そんな宮本を潰す策をあれこれと考える。


 宮本とて、年頃の男子。色仕掛けで簡単に手中に収められるだろうが、その大役を担ってもらおうにも、大半の女子生徒が非公式会員のようだし、自分が矢面に立つのは、いろんな意味で危険が伴う。


 いっそのこと、副会長自身に、宮本を懐柔してもらうのはどうだろうか。


 いや、あのカタブツ……もとい、規律を重んじるあの人が、自らそんな事をするわけがない。

 

 宮本には、よく一緒にいる友人がいたはずだ。彼を抱き込むことは出来ないだろうか。彼ならば、それほど身の危険を感じる事もないだろう。


 宮本の外堀から埋めることにした細川は、早速行動に移すことにした。


 昼食を買おうとしていた水野を発見するや、細川は、人混みを掻き分け水野の隣へ。そして、水野が買おうとしているパンに、徐に手を伸ばす。細川の計算通り、同じパンを取り合う形になった2人は、見つめ合うことになった。


「あっ、ごめんなさい、水野くん」

「いや、こちらこそ。えっと……細川さんだっけ?」

「うん。あの、コレどうぞ」

「いや、でも……」

「いいの。私は、他のを選ぶから」


 昼食を買い終えると、細川は、可愛らしく小首を少し傾げながら、水野に声をかけた。


「水野くん。良かったら、お昼を食べながら、少しお話しない?」

「ん? まぁ、いいけど」


 2人は中庭へと移動をすると、ベンチに腰掛ける。水野はすぐさま、話を振ってきた。


「それで、話って? もしかして、宮本のこと?」

「えっ?」


 隠しきれない動揺を滲ませながら、細川は水野に問う。


「なんで、そう思うの?」

「なんとなく。俺に近づいてくる奴は、大体、宮本狙いだからさ」

「あ〜、そうなんだ。じゃあ、話が早いわね」


 水野の言葉に、細川は、取り繕うのを辞め、単刀直入に切り出した。


「宮本くんってどんな人?」

「そうだなぁ。じゃあ、それを教える代わりに、佐々木小夜子について教えてよ?」

「えっ?」

「だって、こちらだけ教えるのは、フェアじゃないだろ。副会長の取り巻きさん」


 ニヤリと笑う水野に、細川は同類の匂いを感じ取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る