第15話 p.4
彼は、着席時に店員によって出された水をコクリと一口飲むと、さも当たり前という顔で私の問いに答える。
「だって、通り雨だから」
「なにそれ? どういう事?」
彼の答えが意味するところが分からず、私は間抜けな問い方をしてしまう。
「雨宿りは、カフェでって決めてるんだよ。僕は」
「えっ? 決めてるって……もしかして、マイルールって事?」
「うん。まぁ、そうだね」
そう言いながら、彼は、恥ずかしそうに、片頬をポリポリと掻く。そんな彼をポカンと見つめていると、恥ずかしげに視線を逸らしながら、彼は言葉を足す。
「それに、今日は、君と一緒に居るからね」
「私?」
「そう。君といるから、尚更カフェでなくちゃダメだったんだ」
「なんで?」
「だって、コーヒーショップやバーガーショップって、手頃な価格だし、いろいろな所に店があるから、利用しやすくて、晴れていても、結構人がいるだろ?」
「うん。そうね」
そうなのだ。コーヒーショップもハンバーガーショップも、いつも沢山の利用者がいる。時には、レジ前に列を成しているところを見かける事もある。
「利用しやすいということは、雨宿り目的の客で、店内が混雑することが予想される」
「まぁ、そうね」
彼の予想は、それほど的外れではないだろう。私も、彼にカフェと問われて、パッと思い浮かべたくらいなのだ。それほど身近で利用しやすいのだから、雨が降り出せば、すぐに多くの人が店へ駆け込んでくることだろう。
そんな場面を想像して、私はコクンと肯く。
「つまり、満席で席に座れないかもしれないだろ。それに……」
「それに?」
「人が多いと、騒がしくて、君とのおしゃべりを楽しめない」
イタズラっ子みたいな笑みを向けながら、そう言う彼の言葉に、途端に、私の顔は赤くなる。
「な、何言ってるのよ! もお〜」
慌てて、ツッコミを入れるも、それ以上なんと言っていいか分からず、1人アタフタとしてしまう。
そんなところへ、タイミング良く、店員が、パンケーキと飲み物を運んできたので、会話が中断された。思わずホッとため息を吐き、彼に刺激された心をなんとか落ち着ける。
彼は、いつだって、今のように、突然、私を動揺させる事を、サラリと言ってくる。
そんな彼の言葉に私は慣れなくて、すぐにドギマギとしてしまう。慌てる私を見て、彼は、心底楽しんでいるようだった。
彼を軽く睨みながら、私は、少し頬を膨らませ、軽く口を尖らせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます