第14話 p.3
彼に手を引かれ、目当てのハワイアンカフェには、あっという間に着いた。いつもよりも早足で歩いたために、多少呼吸が荒い。立ち止まると、ジトリとした湿気が肌に纏わり付いてきた。
息を整えるため、一度大きく空気を吸い込んだ時、視線が空へと向いた。先ほどまでそこにあった夏空は、いつの間にやら、黒い雲に飲み込まれている。
私の隣に立つ彼も空を見上げてから、大きく息を吐いた。
「ふぅ。間に合った」
そう言いながら、ニコリと私に笑いかける彼は、もういつもの彼だった。
店の扉を押し開けて中に入ると、陽気な音楽が店内に鳴り響いていた。その音楽に負けじと、底抜けに明るい「いらっしゃいませ〜」と言う声とともに、太陽もビックリのキラッキラの笑顔で、女性店員が直ぐに案内へとやってくる。
「お二人様ですか〜?」と言う、ちょっと鼻にかかった明るい声に頷くと、「あちらのお席へどうぞ〜」と、窓際の席を勧められた。
上から下まで全面ガラス張りの窓際の席は、晴れていれば、太陽の光が燦々と降り注ぎ、とても開放的な気分になれそうだ。
しかし、ちょうど席についた時、ポツポツと、雨が窓を叩き出した。
「雨、降ってきたよ。この後、近くのコンビニで傘を買わなくちゃね」
席に座りながら、何気なく彼に声をかけると、彼はニコリと笑った。
「じきに、晴れるさ」
「そうなの?」
そんな会話をしていると、店員が注文を取りに来た。私がアレコレと悩んでいると、彼が優しくアドバイスをくれる。
「パンケーキをゆっくりと食べたらいいさ。食べ終わる頃に、雨は上がるだろうから」
「え? あ〜、うん。じゃあ……」
注文を終えたタイミングで、新しい入店者があり、店員は、「いらっしゃいませ〜」と、また底抜けに明るい声を張り上げて、私たちの席を離れていった。
私たちが入店した後から、何組かの入店があり、席が徐々に埋まり始めている。
「お客さん、増えてきたね」
「みんな、僕らみたいに、雨宿りが目的だろうね」
「ホント、降られる前にお店に入れて良かったわ」
そんな事を言いながら、お互いに目を見てクスクスと笑い合う。確かに、言われてみれば、席についたばかりの客たちは、濡れた髪を拭いたり、服や鞄の滴を払ったりする動きをしていた。
それから、ふと気になって、彼に聞いてみた。
「そういえば、どうして、コーヒーショップやハンバーガーショップじゃなくて、カフェだったの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます