第98話 お話

今日、私は姫ギルドの事務所へとやって来ていた。

通された場所には凄く体の大きなスーツ姿の女性と、私と同じ年――あ、そういや私今16なんだった。

だから私より少し年下の女の子。

それに眼鏡をかけた、ちょっと胡散臭い感じの男の人がいた。


「どうも初めまして。顔憂かんばせういです」


「ようこそ姫ギルドへ。私はギルドマスター、姫路ひめじアイギスだ」


大柄の女性がそう名乗る。

なんというかこう、凄くマッチョなんだけど顔立ちは凄く綺麗。

名前もそうだし、たぶんハーフなんだと思う。


「妹の姫路アイリスよ」


綺麗な赤い服を着た美少女。

体格は全然違うけど、姉妹だけあって顔はちょっと似てるかも。


「一応副マスター的な立ち位置をさせて貰っている田吾作たごつくると申します」


「聞いたよ。世界初のSSSランクなんだって。あの兄にしてこの妹ありって所だね」


「ははは……」


私のレベルは肉体の調整が終わった所でスキルが進化し、それに合わせて4,999の壁を越えてレベル5,000になっていた。

ので、一応SSSランクって事になる。


「まあレベルだけなんで、戦い方とかはからっきしですけど」


「そうなのかい。まあそれでもSSSってだけで相当な強さは見込めるし、協会はアンタに相当期待してるみたいだよ」


記者会見は断った物の、協会は私の事を大々的に宣伝してしまっていた。

お陰でネットでは私の話題で持ちきりだ。

幸いなのは、アングラウスさんの張ってくれた結界があるので、記者なんかにからまれる心配がない事かな。

もし無かったらと思うと、正直ゾッとする。


「それで?うちには何の用で来たの?ギルドに加入する為じゃないんでしょ?」


アイリスちゃんが、私の訪問理由を聞いて来た。

電話で約束を取り付けた時点でギルド加入でない事だけは伝えてあって、用件は直接話すと彼女達には伝えてある。


「えっとですね……」


「まあまあ立ち話もなんです。お飲み物を用意しますので、どうかお座りください」


「あ、はい」


田吾さんに勧められ、私は席に着いた。


「田吾スペシャルセットです。お口に合うと良いのですが」


紅茶とお茶菓子が私の前に並べられる。

用意してくれたのは田吾さんだ。

凄く手慣れている感じだったので、ちょっとびっくり。


まあ給仕さんっぽい動きは、胡散臭いビジュアルのせいで全然似合ってなかったけど。


「名前はあれだけど、味は保証するわ」


そう言ってアイリスちゃんが紅茶を一口。

その所作がとっても優美で、ビジュアルと相まってまるでどこかの御姫様みたいだ。

まあ口調はちょっと生意気な感じで、お姫様っぽくないけど。


「頂きます。あ!おいしい!」


紅茶の濃密な甘い香りが喉を通り過ぎていく。

我が家で飲み物と言えば水か麦茶ぐらいだったので、紅茶の味ってものを私は真面に知らない。

でもそんな私が美味しいと迷わず言えるくらい、その紅茶は絶品だった。


『5点!マヨネーズの足元にも及ばぬわ!偉大なるマヨに挑戦するなど100年早い!』


ぴよちゃんが何か言ってるけど、まあこの子の事は放っておこう。


「お代わりはいくらでもありますので、遠慮なく」


「ありがとうございます」


凄く美味しいので、お代わりは遠慮なく頂くとしよう。


「えーっと、それでお話なんですが……」


私は今日ここに来た理由を口にする。

まずはアングラウスさんから聞いた、世界の危機について。


「ふむ……にわかには信じがたい話だね」


アイギスさん達の反応は懐疑的だが、まあそれも当然の話だ。

表向き、まだ何も大きな事は起こっていない。

にいの遭遇した侵略者は、周囲には知られていないし。


「アングラウスさんが言うには、もう少ししたら魔物が外に出て来るダンジョンが世界各地に出現する様になるそうです。それらが異世界の侵略の始まりだって言ってました」


「ふむ……そう言えばアングラウス殿は、今日はいらっしゃらないのですな」


田吾さんの言う通り、アングラウスさんはいない。

彼女は今、どこかで瞑想を行っていた。

来たるべき戦いに向けて。


そう、レジェンドスキル――『暴虐の王オール・フォー・ワン』を進化させるために。

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