第84話 100%

――SSランクダンジョン『アンデッドランド』


巨大な洞窟状のそこは、実体のあるゾンビ系列の高位モンスターが出現するダンジョンだ。

SSランクとしては最下位レベルであるため、出て来るモンスターのレベルはSランクと大差ない。


だが腐ってもSSランクである。

モンスターの強さはそれ程ではなくとも、その数がまるで違う。

一か所に十匹以上は余裕で固まっており、少数や力不足なパーティーだとあっという間に数の暴力で押し切られてしまいかねない。


俺は現在、姫ギルドの面々と一緒にそのダンジョンへと侵入している。


「誇ってただけあって、凄い威力だな」


田吾作たごつくるのユニークスキル、【トラップマスター】はその名の通り罠を設置するスキルだ。

事前に設置しなければならない点と、コストとして魔石を消費するデメリットこそある物の、決まればその威力はユニークスキルとしては破格の性能を誇っていた。


「討ち漏らしの処理も安定してるし、流石にSSランクダンジョンを攻略するって乗り込んで来ただけはあるな」


姫ギルドはまず、田吾のサーチ系のユニークスキルで周囲の地形やモンスター、罠を確認する。

そしてその情報を元に、進行方向にいるモンスターをギルドマスターである姫路アイギスが単独で敵を集めて来て、それを殲滅するというスタイルになっていた。


殲滅方法は、田吾によって事前に設置された地雷型のスキルで大半が吹き飛び。

残ったモンスターをそれ以外の面子が始末する感じになっている。


因みに、姫路アイギスは敵を引っ張って来るだけで、基本的に戦闘には参加していない。

別に彼女に戦闘力がないわけではなく、他のメンバーに戦闘経験を積ませると同時に、万一の事態に備えてエースであるアイギスのスタミナを温存する作戦だ。


……要は、万全に近いアイギスさえいればどう崩れても立て直せるってこった。


それぐらいアイギスは強い。

敵を引き連れて来るその尋常ではない動きだけでも、それがハッキリ分かる程に。


姫路アイギス。

SSランクプレイヤーにして、レジェンドスキル【プリンセス】の所持者。

そしてその世界ランクは37位だ。


姫ギルドの名前は、姫路アイギスの名字とレジェンドスキルから付けられていると言われている。

スキルの効果は、全てのステータスと取得経験値が最大で5倍になるという物だ。


最大と言ったのは、このスキルが条件付きのスキルとなっているからである。

例えば、妹の姫路アリスが持つ【燃える闘士バーニングハート】なんかがいい例だろう。

敵が自分より強ければ強いほど、【燃える闘士バーニングハート】彼女を強化してくれる。


まあアイギスの場合はその条件が敵ではなく、自分自身にかかっている訳だが。


その条件というのは――


『気高く、美しく』である。


要は、姫と呼ばれるにふさわしい美しさと気高さが彼女の力の源泉となる訳だ。


え?

ゴツイ筋肉女だから、スキルの効果全く発動してないんじゃないかって?


まあ普通ならそう考えるだろう。

だが逆だ。

姫路アイギスはレジェンドスキルの効果を完全に享受していた。


おかしいんじゃないかと思うだろうが、このスキルの条件のポイントは第三者ではなく、自分自身にある。

つまり、自分が『美しく気高い』と本気で考えていたら、スキルはその性能をフルに発揮してくれるという訳だ。


姫路アイギスはマッチョな自分の事を心の底からそう考えている様で、スキルは常に全開らしい。

まあ要はナルシストって訳だな。


そしてナルシストである彼女は、自分のグラビア写真集を出してたりもする。

その売り上げは驚異の、全世界で2000万部。

俺には何がいいのか正直分からないが、まあ好みは人それぞれというからな。


ああそれと、レジェンドスキルなので当然デメリットもある。

デメリットは妊娠不可だ。

なのでこのスキルを手にした姫路アイギスは子供を産む事が出来ない。


姫は結婚したら姫じゃなくなるし。

未婚で子供を産む姫様なんて――いても闇に隠される――普通はいないから、そう言った制限なんだろうと言われている。


「どうだ?俺達の活躍をバッチり撮っててくれたか?」


「うふふ、綺麗に映ってるかしら」


戦闘を終えた山路と岡町が寄って来て、俺の構えるカメラに二人そろってポーズを作る。

二人とも壁を越えてレベルが上がる様になったためか、テンションが高い。


だが――


「いやー、まあそうですね。二人ともよく頑張ってたと思いますよ」


ぶっちゃけ、一番の見せ場はアイギスさんが大量の敵を引き連れて来て、田吾のスキルで豪快に吹き飛ぶシーンだ。

そこがド派手過ぎて、どうしてもそれ以外は地味に見えてしまう。


「なによぅ。その言いぶりだと、私達が全然みたいに聞こえるじゃない」


「ま、実際そうなんだからしょうがないわよ」


俺の反応に不満そうに声を上げる岡町に、その背後から小柄な少女が声をかけた。

姫路アリスだ。

彼女はハーフのいいとこどりをした様な典型的な美少女で、正直、本当に姉のアイギスと同じ遺伝子系列なのかと疑いたくなるビジュアルをしている。


まさかここからあんな風に成長しないよな?


「今回はお姉ちゃんと……あと、一応キモイ田吾が主役だからね」


主役をキモイって……

まあこの年頃の女の子からみたら、確かに気持ち悪く映るビジュアルではあるが。


「あ、ちょっと!勘違いしないでよ!あたしは見た目でそう言ってるんじゃないの!そんな差別はしないわ!」


俺の顔から、考えていた事を察してか姫路アリスが声を張り上げる。

どうやら何か事情がある様だ。


「ひらひらの子供っぽい服を持って来て、ことある毎に私に写真を撮らせて欲しいって言って来るからキモイのよ!あいつは!」


どうやら田吾作さんは……


100%ビジュアル通りの人物だった様だ。

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