第81話 小賢しい

「まあ悠の事は置いておくとして。それでどうするのだ?因みに言っておくが、成功率は三割程度だぞ」


アングラウスが何事も無かったかの様に話を進める。

彼らが何に驚いていたのか気にはなったが、まあ彼女が気にしていないのなら大した事ではないのだろう。


「え?失敗する事もあるの!?」


「三割か……」


「えーっと、アングラウスちゃん。その場合って、痛みの方は……」


「もちろん失敗しても痛みはある」


山路と岡町がアングラウスの言葉を聞いて顔を歪める。

まあ失敗したら数時間丸々無駄にする訳だからな。

気持ちは分かる。


だがまあ三割もあるなら、運が悪くても二三日程度で済むはず。

それで壁が越えられるのなら大した問題でもないだろう。


「安心しろ。今のお前達の段階レベルなら、失敗しても死ぬ様な事は無いからな」


どうやら、スキルによる壁の突破は死ぬ事もある様だ。

まあ岡町と山路に関してはその心配はない様だが。


「え?死ぬ事もあるの!?」


「うむ。限界突破はそう簡単な事ではないからな。お前達レベルならいいが、SSランク以上の壁の突破となると成功率が下がって、失敗すれば場合によっては死ぬ事もある」


アングラウスが此方をチラリと見た。

一瞬何かと思ったが、直ぐに何を考えているのか理解する。


ああ。

突破に失敗して死ぬのなら、事前に命を入れておけばいい訳か。


つまり俺が協力すれば、実質リスクなしという訳である。

アングラウスがそれを口にせず此方を見たのは、明かすかどうかを俺に問う為だろう。


もちろん答えはノーである。

復活能力は周囲に知れると、死ぬほど面倒な事になりかねないからな。

自分の寿命がかかってて言いふらす心配の薄い十文字ならともかく、必要もない相手に明かす気はさらさらない。


――少なくとも今の段階では。


異世界の侵略者共に対抗するためには、SSランクの壁を超える人間が多い方がいいだろうとは俺も分かっている。

けど妹の憂の事も抱えている状態で、これ以上の面倒事は避けたいというのが本音だ。

レジェンドスキルのデメリット突破の件だって、消えてなくなった訳じゃないからな。


なので、暫くは隠したままで行かせて貰う。


「まあ死なないのなら、迷う理由はねぇな」


「まあ、そうねぇ。因みに……失敗した場合って、もう壁は超えれ無くなっちゃう感じ?」


「安心しろ。何度でも挑戦可能だ。もちろん、苦痛は毎回受ける事になるがな」


「うぅぅ……一発で突破できる事を祈るしかないわねぇ」


毎回苦痛があると聞いて、岡町が体を身震いさせる。


「じゃあ早速頼む」


「女は度胸!私も覚悟を決めたわ。アングラウスちゃんお願い」


岡町と山路がアングラウスに壁の突破を頼む。

が、悪いがそれには待ったを掛けさせて貰う。


「あ、ちょっと待ってください。やるなら別の場所でお願いします」


何時間もかかると言っていたからな。

もう少ししたら母も帰ってくるので、ぶっちゃけ、そんな長時間家に居座られても困る。

なので別の場所でして貰わないと。


「ああ、悪い。ここだとアレだよな」


「あらアタシとした事が。そうよね。長居したら迷惑よね」


「でしたら、姫ギルドの支部で行うというのはどうでしょう?比較的近くにありますので」


「案内するがよい!そしてワシにマヨネーズを振る舞うんじゃ!!」


顔面を鷲掴みしていたぴよ丸が融合で俺の手から逃れ、頭から飛び出して来て横やりで自分の願望を無理くり突っ込んで来た。

無駄に小賢しい真似を覚えやがって。


「ははは、マヨネーズで良ければいくらでも振る舞いましょう」


「なんと!その言葉に二言はなかね!?」


ぴよ丸が俺の頭の上でドスンと跳ねる。


「この地雷男の名に懸けて」


そんな名前にかけられても。

というか、そもそも名前をかける程の約束でもない。


しかしこの様子だと、田吾は地雷男呼びを気に入っているみたいだな。

正直、意味不明な感性と言わざる得ない。

やはり変人だ。


「ならば良きにはからえ!」


「では参りましょうか」


「やれやれ、やかましいから中に入ってろよ」


くれるという物を断るのもアレだ。

俺はテンションが無駄に上がったぴよ丸を連れ、母へ書置きを残して姫ギルドの支部へと向かう。

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